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 蛇骨の国に入ったと言ったが国に入ったからといって周りの景色が大きく変化したわけじゃない。未だに山の中だ。だけど周りの連中の警戒度は大きく上がっていた。

 警戒しすぎて空気がピリピリしている。


 そして栞那たち組頭は召集されて今後のことについて話し合っていた。


 もちろん下っ端の俺は呼ばれることはない。


 栞那の話から俺は周りから快く思われていないみたいだ。だから俺みたいな得体のしれないやつがその集まりに参加すれば不和をもたらすということでハブられた。というか自分から言い出したことだけど。

 今はつまらないことでいざこざを起こすわけにはいかないからな。俺の目的はあくまでまこちゃんを助けることだ。それ以外は興味がない。


 なので暇な俺は地面でマルバツゲームで遊んでいた。さすが俺、百戦百勝だ。逆に言えば百戦百敗ということにもなるが……。


 そろそろ飽きてきたなと思っていたら栞那が戻って来る。


 栞那は隊のメンバーを集めると話し合いで話したことを説明して今後の方針を話す。といっても俺が馬頭に進言していたことだ。


「これより周辺の調査をします」


 そう言うと栞那は次々と隊の女の子に指示を出す。


 この隊の人数は俺と栞那を除いて二〇人。それを五人一組として調べる範囲を振り分けていった。


「ここは敵地です。戦闘はなるべく避けるよう各自警戒を怠らないよう注意してください」


「「「「「はい!」」」」」


 緊張した面持ちで返事をすると女の子たちはそれぞれ振り分けられた範囲の探索へ向かう。


 そして取り残される俺。


「なあ、俺はどうしたらいいんだ?」


 仕方ないので残っている栞那に聞いてみる。


 栞那は俺の顔を見るとため息混じりで言う。


「あなたは私と一緒に来てもらいます。他の子達とでは刺激が強いですから」


「俺は害虫か何かかよ」


「似たようなものですね」


 と素っ気ない反応をする栞那。


 俺は不満を抱きつつも栞那について行って辺りを散策する。


 当然ながら女の子と二人っきりで山を散策するというのに甘ったるい雰囲気は全くない。


 ここは敵国なのでいつ敵と出会うかわからず常に警戒していてそんな雰囲気にすらならない。むしろ油断していたら味方に斬り殺される可能性すらある。その証拠に栞那はすぐにでも刀を抜けるように鯉口を切っている。


「なあ?」


 あまりにも空気が重たくなってきたので会話を試みる。


「なんですか?」


 意外にも栞那は返事をしてきた。ってきり抜刀されるかと思った。なので俺はそのまま気になっていたことを聞いてみる。


「何でお前はそこまで男を嫌うんだ?」


「……つまらない理由ですよ」


 栞那は少し逡巡するとそう答える。俺は先を促す。


「というと?」


「母を男に殺された。たったそれだけです」


「たったそれだけって……」


「弱い者は強い者に蹂躙される。今の世では珍しいことではありません。うちの隊にいる子達もみんな同じような目にあってますから」


「……そうなのか」


 だから彼女たちは俺に対してあそこまで過剰に怯えていたのか。まあ栞那が何か吹き込んだのも原因ではあるかもしれないけど。


「嫌なことを思い出させて悪かったな」


 栞那はつまらないと口では言っているがそのことを話す顔はとても悔しそうで当時のことを思い出しているのか拳をギュッと握りしていた。


「……」


 俺が謝ると栞那は黙りこくる。


「どうしたんだ?」


「別になんでもありません。それよりも村が見えてきました」


 栞那の視線の先には小さな村があった。ざっと見た限り人口五〇人ぐらいの規模だろうか。


「どうするんだ?」


「村人に接触します。何か有益な情報が得られるかもしれません」


「大丈夫なのか?」


 村人といっても敵国の人間だ。敵に情報なんか渡さず逆に身柄を捉えられて渡されるんじゃないのか?


「大丈夫でしょう」


 と答えると栞那は村へと入って行く。俺もそれに続く。


「ひどいな」


 村に入った感想はその一言だった。


 行軍中に鳥綱の国で村に寄ったことがあるがこの村はひどい。


 まず村人の姿がひどい。


 骨と皮だけのガリガリだった。見ただけでろくなものを食べていないのがよくわかる。


 次にひどいのは村人の態度だ。


「ちょっといいか」


「ひいいいい、お侍様! もううちには食料はねえだ! おねげえだから殺さないでけろー!」


 少し声をかけただけで額を地面に擦り付けて土下座するありさまだ。


「なんだかな……」


「何を驚いているのです?」


 村人の卑屈っぷりに驚いていると栞那が訊ねてくる。


「なんつーか。意地とかそういったもんがないのかなぁって思ってさ」


「さっきも言ったけどこの世は弱い者は強い者に蹂躙されるのが当たり前なんだから当然の対応ですよ」


「でも鳥綱の国ではもっと村人が活き活きしていたぞ」


 俺がそう言うと栞那は俺の無知を嘆くかのようにため息をこぼす。


「それは紫苑様が生産性を上げるために生活が苦しくなるような重税を行わせないよう厳しく取り締まっているからです。普通の国は決められた税率よりも役人どもが多く村人からむしり取っているんです。逆らえば斬り捨てられるなんて日常茶飯事ですしね。今は戦が近いせいでそれらが余計に横行してるかもしれませんね」


「……そうか」


 つくづく俺はこの世界のことを知らないと実感させられる。


 とそこへパカラパカラという足音と馬のいななきが聞こえてきた。足音からして複数だ。


 んっ? 馬? ということは……。


「まずいですね。敵方の武士かもしれません」


「隠れて様子を見るか?」


「そうしましょう」


 俺の提案に了承する栞那。


 俺と栞那は近くにあった空き家へと身を潜める。


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