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「というわけで女の子から無害だと思われるようにするにはどうしたらいい?」


「何がというわけなんだよ」


 事情を知らない馬頭が呆れたように言う。


「そこは察しろよ。足軽大将だろ仮に」


「無茶言うんじゃね! あと仮には余計だ」


「ったく仕方ねえな……」


 文句を言う馬頭のために俺は馬頭に俺が自分の隊の女の子たちにどれだけ恐れられているかを説明する。


「なるほどな」


 説明を聞いた馬頭は訳知り顔で頷く。


「自分の男を他の女に盗られまいとする苦肉の策ってやつだな」


「意味わかんねえよ!」


 何であいつがそんなことする必要があるんだっつーの。


「……いや待てよ」


 あいつはかなりの男嫌いだ。つまり栞那は女が好き。


 あいつは百合なのか!


 自分の女を俺に近づけさせないためにあんなことを言ったんだな。きっと隊の連中に自分のことをお姉様とか言わしてるに違いない。


「つーかお前はそんなことを言いに来たのかよ。至急話があるって言うからこうして時間を作ったんだが、何かいい策が思いついたんじゃないのかよ?」


「そんなことだと……。ヘタしたら戦場で味方に殺されるかもしれないだぞ」


「お前なら大丈夫だろ」


 こともなさ気に言う馬頭。少しは心配しろよ。


「それよりも朽縄城を落とす策はないのか?」


 さっきと打って変わって身体を前に乗り出して深刻そうに聞いてくる。


 まあ馬頭としては一〇〇人の命を預かってるわけだし犠牲は覚悟の上といえ無策で突っ込んで余計な犠牲は出したくないんだろう。


「ぶっちゃけ策はないな。単純な力攻めじゃ数の少ないこっちに分が悪いし地の利は向こうある」


「うーむ」


 馬頭は腕を組んで難しそうな顔をする。


「やるとしたら奇襲だな。意表をついて敵を総崩れにすれば数で負けていてもなんとかなるかもしれない。でも事前の情報だと城の周りは見晴らしが良いから奇襲も難しいな」


 敵だってバカじゃない。


 間者や忍びを使ってこっちが出陣したことぐらいわかっているはずだ。だから敵も十分に襲撃を警戒している。そんな中無策に突っ込めばあっけなく蹴散らされる。


「そうか」


「とりあえず国を抜けたら周囲を散策して何か使える場所がなにか調べた方がいいだろう。下見は大事だからな」


 これは俺の愛読している恋愛指南書にも書いてあった。デートスポットの下見は大切だと。


 下見をしておかなければいざというときに困るからな。


 かくいう俺はお店が休みだった時の対処から火事や地震、テロリストの襲撃といったありとあらゆるトラブルを想定して完璧なデートプランを立てていた。たとえ宇宙人がやってきても完璧に対処する自信がある。


「わかった。国を抜けたらそうするように指示を出そう」


 馬頭は俺の言葉を素直に聞き入れる。


「……」


「なんだよ。俺っちの顔見ながらほうけた面しやがって」


「別になんでもねえよ!」


 俺はそう言ってその場を後にする。


 正直馬頭が俺の提案を素直に受け入れるとは思ってみなかった。そんなことしか思いつかないのかよとか文句の一つや二つ言われるもんだと思っていた。


 まあもしそんなこと言ってきやがったらぶん殴ってるけど。


「ったく、あいつは足軽大将としての自覚がねえんじゃねーのか」


 下っ端の意見を聞くなんて普通じゃありえないだろ。


「馬頭殿の悪口を言うのなら私が許しませんよ」


 俺のボヤキを聞いて剣呑な目つきで睨み付けてきたのは意外にも男嫌いの栞那だった。


「あの方はちゃらんぽらんで妹狂いで駄目な男ですが素晴らしいお方なんです」


「それ褒めてるのか? 俺よりお前の方がひどい悪口言ってるからな」


 確かに事実だけど。仕事さぼって妹をストーキングするようなやつだし。よくあんなのが足軽大将で誰も文句言わないもんだ。


「そんなわけありません! あなたは知らないでしょうけど馬頭殿は流民の時に無償で山賊に襲われている流民を助けたり食料を分け与えてくれるような方だったんです」


 流民が過酷だという話は聞いている。間者の疑惑をかけられてどこの国からも受け入れられず国から国へと転々とする日々。満足に食べることができず不安を抱えて生きていく生活。それに絶望して自害していく人々。


 そんな厳しい中あいつは困っている人を助けていたのか。自分だって大変だったはずなのに……。


「だいたい今私たちがこうしていられるのも馬頭殿のおかげなんですから」


「馬頭のおかげ? どういうことだ?」


「あなた、知らないのですか?」


 栞那が信じられなといった目で俺を見る。


「あ、ああ」


「鳥綱の国が流民を受け入れたのは馬頭殿が紫苑様に頼み込んだおかげで受け入れられるようになったんですよ。こうして流民だった私たちが国を守るために働けるのも馬頭殿のおかげなんです。それがなかったら私だって今頃どこかで野垂れ死んでいたかもしれません」


「そうなのか……」


 知らなかった。


 でもそれならシスコンの馬頭が足軽大将を任されているのかも納得できるし、周りも文句を言わないわけだ。


「馬頭殿はあなたを信頼しているようですけど他のみんなはあなたを信頼どころか信用していませんから」


「あいつが俺を信頼してる?」


 俺は思わず失笑する。


 それはないだろ。あいつが俺なんかを信頼する理由はないからな。


「何がおかしいんですか?」


「別に。それよりもお前は何でここにいるんだ?」


「あなたが問題を起こす前に捕まえるために探しに来たんです」


「俺を?」


 それじゃあまるで俺が問題児みたいじゃないか。


 ……ってそうか。さっき栞那が言ったように俺は周囲に信用されていない。俺はやっかまれているんだ。そうなるとガラの悪い連中に絡まれるかもしれないってことか。


「心配してくれるのか?」


「はあ? あなたが問題を起こすと組頭である私にも責任が問われるんですよ」


 俺がおちょくるように言うと栞那は嫌悪感丸出しで答える。


 そんなに嫌なら俺を隊に入れなきゃいいのに。


 それから俺たちは二日ほど街道を歩いた。道中はこれといった問題もなかった。問題といえば栞那がずっと俺を監視していることぐらいだった。


 そんなことをしなくてもお前の女をとったりしないっつーの。これだから百合は……。


 そして三日目からは街道から外れて山道を通って鳥綱の国を抜け、ついに蛇骨の国に入った。


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