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 それから三日間があっという間に過ぎた。


 いよいよ出陣だ。


 俺にとって初めての戦。今までのケンカと違い命のやりとりがある戦場だ。柄にもなく身体が震えてきた。……と思ったら尿意を催してきただけだった。あとでトイレに行っておこう。


 出陣というものがどんなものか知らなかったがまるでパレードだ。広場のような場所に集められて紫苑からありがたいお言葉を貰い、町の人に見送られながら出発する。


 出発の前に馬頭が紫苑から何か言葉を貰っていたが俺には聞こえなかった。だって俺は足軽。しょせん下っ端だ。一堂に会したときは端っこに追いやられていたからな。


 町の人に見送られながら町を出るが見送る町の人には笑顔がなかった。厳かな雰囲気の中見送られた。


 みんなこれから起こる戦の勝敗が自分たちの今後を左右するのだと理解しているようだ。


「よく逃げずに来ましたね」


 と声をかけてきたのは愛らしいデコがチャームポイントの栞那。彼女はデカ鳥に乗って俺を見下ろしていた。何でも紫苑から今回の作戦にあたって二〇匹ほど授けられたんだとか。それで足軽組頭の栞那はデカ鳥に乗っている。


 もちろんただの足軽の俺は徒歩。ちなみに攻撃を受けたら壊れそうな貧相な具足にちゃちな槍、蓮ちゃんからもらった打刀が俺の装備だ。


「わざわざ俺に声をかけてくるとかどんだけ俺のことが好きなんだよ」


「ち、違います! 私はあなたがうちの隊の子にちょっかいを出さないか注意しに来ただけです!」


 栞那はムキになって言う。


 俺はなぜか栞那の隊に配属されていた。この栞那の隊は女ばかりで男は一人。男ばかりのむさ苦しい隊も嫌だが女だらけの隊というのも嫌だ。


 どうやらこの世界じゃ女性が武器を持って戦うことは珍しいことじゃないようだ。生きていくために男だろうが女だろうが戦えるのなら戦うらしい。


 まあそれでも一部では女性が戦場に立つことを蔑視するところもあるのだとか。少なくともこの国では問題はないらしい。


 でも問題はそこじゃない。


 問題は隊のみんなが俺をさけているところだ。まるで腫れ物を扱うかのごとく近寄ろうとしない。


 きっと栞那のやつが余計なことを言ったんだろう。いったい何をいいやがったんだか。


「心配するな。俺は一途だからな」


 チカちゃん一筋だから他の女にちょっかいなんて出さない。まあそのチカちゃんとはもう二度と会えないんだけど。


「ふんっ! どうでしょうね。男の言うことなんて信用なりませんから」


 栞那は俺に疑いの眼差しを向けると刀に手をかける。


「もし問題を起こせばその場で叩き斬ってやります」


「わかったわかった。それでいつまで歩き続ければいいんだ」


 もうかれこれ出陣してから三時間は歩きっぱなしだ。おかげでトイレにもいけない。


 ケガの方は亜希のくれた薬のおかげか大分楽になった。普通に動く分には支障はない。ただ全力で動けるかといったらまだムリだけど。


「あと半刻ほど行けば町があるのでそこまでの辛抱です」


「まじか……」


 膀胱炎にならなきゃいいけど。


 三日間で色々と情報を収集してわかっちゃいたが移動だけで結構な時間がかかる。


 だいたい鳥綱の国を出るのに街道を通って三日かかる。現代だったら新幹線で一時間もかからない距離なのに。


 俺らは蛇骨の国へは途中まで街道を通ってあとは山道を使って蛇骨の国に潜入する。


 蛇骨の国は山に囲まれた山岳地帯だ。城も山を利用したところに建っていて攻めるのは難しいそうだ。


 そんなムチャな中俺たちは山道を抜けた先にある支城の朽縄くちなわ城を攻めることになってる。


 朽縄城は見晴らしのいい高台に建ってる城で安易近づこうとすればすぐに見つかってしまい矢の的になる。おまけに城にいる兵の数は三〇〇。こっちの三倍だ。


 俺が集められた情報はこんなもんか。


 集めたと言っても流民だった人から聞き込みしただけの情報だ。ネットもないからこういった情報はほとんど人伝で聞くしかない。


 幸い流民だった人たちは各地を転々としていたから簡単にこういった情報を仕入れることができた。


 紫苑が流民を受け入れたのもそういった狙いがあったのかもしれない。


「ひー、つ、疲れたっす」


「大丈夫か?」


 歩き疲れて辛そうにしている少女がいたので心配になって声をかけてみる。具足を着て歩くのって大変だしな。それに同じ隊の子みたいだからこういうことできっかけを作って仲良くなるのもいいだろう。


 すると少女は俺の顔を見ると怯えだす。


「ひゃー! 孕まされるっす!」


 さっきまで疲労困憊だった少女が全力でかけていった。


「……」


「ちょっとあなた。あの子に何をしたんですか!」


 少女の悲鳴を聞いて栞那が俺に突っかかってくる。


「お前こそ俺に何をした! あの子が俺の顔を見て怯えてたぞ」


「被害を最小限に抑えるためにあなたの危険性を教えただけです」


「俺への風評被害が大きすぎる!」


 俺は性獣か何かか。


 果たして俺はこの隊で上手くやっていけるのだろうか。ヘタしたら本当に味方から殺されるかもしれん。


 なんとかせねば……。


 そうこうしているうちに俺たちは町へとたどり着いた。


 町といっても俺たちがいた城下町と比べると小さい町だ。宿場町といったところか。


 ともかくこれでトイレにいけるな。トイレに行くついでに馬頭に今後のことを相談するのもいいかもしれない。


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