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三日間。
出陣までそれだけ時間がある。
いやたったそれだけしか時間がないと言った方がいいか。
昔だったらチカちゃんに三日会えなかった時間が永劫のごとく長く感じたというのに、今じゃひどく短く感じられる。
たった三日じゃケガも治らないし周囲にも馴染めない。今もこれからのことについて話し合いで盛り上がっているが俺だけ仲間外れだ。
だから考える。この三日間で何をする必要があるかを。
「なぁ馬頭、お前を斬っていいか?」
「よくねえよ!」
話し合いが終わって兵舎からの帰り道、俺の考えた結論を伝えると馬頭は拒絶する。
「お前さっきの話し合いで会話に入ってこないと思ったら何を考えてやがったんだよ! 輪に入れなかったことへの逆恨みか!」
「ち、違げえし!」
こいつ気付いてたのか。ならフォローぐらいしやがれ。
まあ話を振られても輪に入るつもりはなかったけど。話し合いは盛り上がってたけど打開策はなく精神論でいけいけみたいな感じだったからそこで俺が入ったら士気を下がることしか言えなかっただろうしな。
「だったら何で俺っちを斬ろうとする」
「あー、だって俺刀なんて使ったことないだろ。慣れない武器で戦場に立つのは危ないから手頃なやつで試し切りをしようと思って」
「それで何で俺っちになるんだ?」
「手頃だから?」
「喧嘩売ってんのか!」
馬頭は肩をいからせるがすぐに肩を落としてあきれるようにため息を吐く。
「ったくお前は素直じゃねえな。要は剣術を教えて欲しいんだろ。だったら正直にそう言えよ」
「……」
馬頭の言う通りだった。
俺は刀を使った戦い方を知らない。適当なやつなら適当にやっても勝てるかもしれないが、宗麟のような強者が相手なら話は違う。
あの男は強い。
俺は身体能力に自信はあるし多対一の戦いにも自信がある。でも一対一の真剣勝負は経験がない。俺は今まで自分と同等以上の人間と対峙したことがなかった。
そんな相手に今までのケンカ殺法は通用しない。
まこちゃんを助けるうえであの男とぶつかるのは必至だ。
だからやつと同じ土俵に立つためには剣術を学んでおいたいいと思った。今から始めても付け焼刃でたかが知れてるが剣術の考え方を知っておけば少しは戦略がたてようがある。
だが気に食わん。
馬頭に俺の考えが見透かされているみたいでムカつく。
「だがやめておけ」
「あん!」
馬頭に文句を言ってやろうと思ったが先に馬頭にやめろと言われて喰ってかかる。
「今のお前は剣術を覚えるよりも怪我を少しでも早く治せ。本当は栞那との決闘は辛かったんじゃないのか? 身体が思うように動かず歯がゆかったんじゃないのか? 虚勢を張るのはいいが戦場で倒れられたら迷惑だ」
「……」
「それよりも今のお前にできることを探せ」
馬頭はそう言い残して先に帰って行った。
「……クソッ!」
俺はムシャクシャする。
何であの野郎は俺に優しくしやがる!
お前のせいで妹が窮地に陥ったらと俺を責めてくれればいいのに。
無茶難題を押し付けて馬車馬のごとく扱えばいいのに。
なのにあの野郎は俺を気遣いやがる。
単身蛇骨の国に乗り込もうとする俺を諌めたり、わざわざ俺みたいなトラブルメーカーのようなやつに仲間を紹介したり、ケガを治せなんて優しい言葉をかけてきたり……。
そんなことをしてもあいつには何のメリットもないのに。
機転がきくなんて言ってたけどそんなわけがない。機転がきく人間だったらもっと円滑な人間関係を築けるだろうし初対面だろうと上手く輪に入れる。
もしつくねの一件のことをいってるならそれは勘違いだ。あれはただ恋愛雑誌に書いてあった胃袋を制する者は異性を制する言葉から美味い物を食わせれば上手くいくという安易な発想だし、泥沼の野郎の思惑だってチカちゃんと仲良くなるためにありとあらゆるシュミレーションして鍛え上げた妄想の賜物なわけだし。
俺はバカで愚鈍で愚かな人間だ。
あいつだって普段の俺を見てそのことに気が付いてるはずだ。
なのに……。
わからない。
他人に優しくされることに慣れていない俺には馬頭の考えがわからない。
今の俺にできることを探せというが、俺はどうしたらいいんだろうか……。