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「陽動とは具体的に何をするのですか?」
重い空気の中、一番年の若い栞那が馬頭に質問する。
「俺っちの隊だけで敵地で出来るだけ派手に野戦や城攻めを行って敵の注意にひきつける」
今回の戦は普通にやっては勝てない。
寡兵で攻めるなら兵力を分散させることなく一点突破が基本だ。もちろん向こうもそれを読んでいるはずだ。いや、必ず読んでくる。相手はあのまだらたかいうやつが軍師なんだから。
そうなれば敵は戦力を集中させて迎撃、もしくは足止めをして挟み撃ちをしてくるはずだ。
そうさせないために陽動を行い敵をかく乱させて、その隙をついて一気に畳み掛けて総大将を討ち取る。
そのために陽動を行う人間はそれだけ注目することをしなければならないし、逆に言えばそれだけ命を狙われることになる。
この陽動部隊はそれだけ重大な役割を担った捨て駒だ。
だが……。
「ちょっと待ちな!」
馬頭の説明を受けダンッと梗が机を叩く。
「敵地で野戦や城攻めをやるって言うけどね、こっちはたかだか一〇〇人しかいないんだよ。そんな少数で敵の注意をひきつけられるのかい?」
梗の言うことももっともだ。
いくら元々の兵数が少ないとは言え陽動の人数としては少なすぎる。
たった一〇〇人じゃできることなんてたかが知れている。せめて五〇〇人は欲しいところだ。
そんな少数だったら敵に陽動だとすぐにバレる。
「そいつは俺っち次第だな」
「はっ! もし仮にひきつけられてもこの人数じゃ補給路も退路もろくに確保できない。敵地で孤軍奮闘しろっていうのかい」
「そうだ。それが俺っちの役割だからな」
「つまりあんたはあたいらに死ねって言ってるのかい」
梗はスッと馬頭を見据える。
馬頭は馬頭で梗を見つめ返しながらニヤリと笑う。
「怖気づいたか?」
馬頭の挑発に梗は鼻で笑う。
「冗談じゃない。やってやろうじゃないか! 大方家臣共がうだうだと文句言いやがったからこっちにその役回りが回ってきたんだろ。だったらそうしたことを後悔させるほどの戦果をあげてやろうじゃないか」
「へっ。お前ならそう言うと思ったぜ。他の連中もいいな」
「久々に血が騒ぐわね」
「やってやりましょう」
「頑張りますよ」
馬頭に振られて朱美、栞那、影野が決意を表明する。
「よーし、気合入れていくぞ!」
「「「おおー!」」」
意気揚々とする四人。
「……」
そして周囲が盛り上がる中付き合いの浅い俺だけ混ざれない。
……なんだこの疎外感。存在感の薄い影野ですら混ざっているというのに。
だがまこちゃんを助けるためにこの死地をあいつらと打開しなきゃならない。
士気は高いが状況は最悪。ったく馬頭の野郎もムチャなことを手伝わせやがって。
でもやってやろうじゃないか。この死地を乗り越えてまこちゃんを助け出し、この憤りをまだらのやつにぶつけてやる。