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「えっと……ごめん」


 いたたまれなくなった俺が申し訳なさそうに謝罪する。するとゲロにまみれたデコ少女は親の仇をでも見るかのようにこちらを睨み付ける。


「許しません」


 あっ、やっぱり。謝って許してくれるようなら最初から決闘なんてことになっていないもんな。


「あなた、名前は?」


 そしてデコ少女が幽鬼のようにゆらりこちらを見ると名前を尋ねてくる。


「え? 大和だけど」


「大和。そうですか。覚えました。あなたが隊に入るのを認めましょう」


「うそ!」


 俺はデコ少女の言葉が信じれなくて目を見開く。


 普通あんなことされて認めるなんておかしい。


 この子ちょっと変な性癖でもあるかなと疑ってしまう。


「戦場では後ろに気を付けることですね」


 と言い残して彼女は立ち去って行った。おそらくゲロを洗いながすために水浴びにいったんだろう。


 ああそういうことか。


 あの子殺る気だ。俺が戦場に出向いたら背後からブスッと一突きするつもりだ。


 ……おかしいな。


 まこちゃんを助けるために仲間を増やそうとしたはずなのに敵が増えてる。


 こういうのは決闘の後でお互いの実力を認めて友情が芽生えるのがお約束なんじゃないだろうか。


 世の中というのはままならないということか。


 彼女が立ち去るのと入れ替わるように兵舎から馬頭たちが飛び出してきた。


「おいさっき栞那かんなの悲鳴が聞こえたが何があったんだ」


 栞那とはさっきのデコ少女のことだろう。


「色々とあってな」


 さすがに女の子にゲロをぶちまけたとは言えなかった。言葉尻だけ聞けば俺はとんでもない変態だからな。いや普通に聞いても変わらんか。


「でもまあそのおかげで彼女も隊に入るのを認めてくれた」


「あいつがか?」


 馬頭が信じられねえといった表情を浮かべる。


「ああ、戦場では後ろは任せておけみたいなことも言っていたな」


「あの子がねえ」


 大人の魅力溢れる梗も意外そうに述べる。


 ウソは言っていない。後ろに気をつけろということは彼女は常に俺の後ろに気を配っているということだ。


「へー。あいつがそこまで言うなんて俺っちの予想を上回る戦果じゃねーか」


 と馬頭は狙い通りだといった感じでニヤニヤと笑みを浮かべる。なんか腹が立つ笑みだな。


「ところでその栞那ちゃんはどこにいっちゃったのかしらねえ?」


 キョロキョロと周囲を見回していたガチムチのおっさんである朱美が栞那がいないことを不思議に思って聞いてくる。


「汗でもかいたから水浴びに行くっていってたぜ」


 さすがにゲロにまみれたから洗い流しに行ったなんて彼女の名誉にも関わることだからやめておいた。


 まあしばらくすれば戻って来るだろう。俺を殺しに。


「男に負けまいと訓練ばかりに明け暮れてお洒落に興味がなかったあの子が乙女みたいなことを気にするなんてねえ」


 と感慨深げに話す梗。


「馬頭。今回はあんたの思惑に乗ってやってもいいかもね」


「そうか」


 馬頭は心強い援軍を得たみたいに満足げに頷く。


 馬頭の思惑って何だ?


「あら? なんかすっぱいにおいがするわね」


 クンクンと周囲のにおいを確認する朱美。


 においがそんなにきつくなかったことと外だったことで他のやつはゲロに気付いてなかったみたいだけど朱美は気が付いたみたいだ。


「誰かがげろでも吐いたんだろ。んなの珍しいことじゃねえ。それよりこれからのことについて話し合いたいから栞那のやつが戻ったら次の戦のことについて説明するぞ」


 大雑把な馬頭はそう言って兵舎へと入る。それに続くように他の二人も兵舎へと戻って行く。俺は近くにあった井戸で軽く口をゆすいでから兵舎へと戻る。


 それからしばらくすると栞那が兵舎に戻ってきた。


「おい栞那。大和が隊に入るのを認めたって本当か?」


 馬頭が栞那に確認する。


「はい。できれば彼を私に預けてもらえると助かります」


 と言ってこっちを睨む栞那。


「お前にしては情熱的じゃねーか」


 馬頭がまたしてもニヤニヤと笑みを浮かべる。


「できることなら今からでもやりたいくらいですけどね」


 栞那は殺意をみなぎらせながら俺を見る。


「「「!」」」


 一方栞那のやりたい発言を聞いて他の三人が明らかに動揺していた。


「か、栞那。そういうのは人が見てないところでやりな。あんまり大っぴらにしてやることじゃないよ」


 何故か頬を赤らめながら梗が注意する。


「……そうですね。以後気をつけます」


 梗の態度に違和感を感じながらも栞那は年配の言うことを素直に受け入れるようだ。


 確かに人前で人を殺そうとするのはよくない。でも注意がそれだけか。人を殺すことについては何にも言わないなんてさすが戦国時代だな。それだけ命が軽いということなのだろうか。


 馬頭は馬頭で「最近のがきは節操がねえな。まあそれも次の戦次第かぁ」と呟いていた。


「おほんっ!」


 そして浮ついた雰囲気を馬頭が咳払いをして引き締める。


「とりあえず全員揃ったみたいだからこ次の戦のことを説明するぞ」


 気が付けば影野とか言う男がいた。さっきまでいなかったはずだけどいつからいたんだ? 存在感が薄すぎて気が付かなかった。


「俺っち隊はこれより三日後に出陣する。そして蛇骨の国で陽動作戦を行う」


「「「……」」」


 神妙な語り口で話す馬頭の言葉を聞いて周囲もことの重大さにすぐに気が付き場の空気が重くなる。


 陽動。それはつまり俺たちは本隊の安全を確保するための囮だ。


 もっとわかりやすく言えば捨て駒と言い換えてもいい。


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