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 俺は決闘を承諾すると外へ連れてかれる。


「それで、決闘って何するんだ?」


「ふざけてるんですか」


 俺の態度が気に入らないのか、キッとまるで汚物でも見るような目つきでこっちを睨み付けてくるデコ少女。別にふざけてるわけじゃないんだが。


「打ち合いです。先に参ったといった方が負けです」


「へえ」


「まあ打ち合いと言っても実戦を想定した戦闘ですから大怪我をしても責任は取りませんけどね」


 と言ってデコ少女は片手に持っていた木刀をこっちに放り投げてくる。


 俺はそれを受け取る。


「なにこれ?」


「武器です。まさか素手で戦うつもりだったんですか」


 俺が質問するとデコ娘はムッとした表情で答える。


「えっ? 武器とか使っていいの?」


「当たり前です。女だからといって舐めないでください」


「いや、そんなわけじゃないけど」


 今まで何度か決闘染みたことをやったことはあるが武器を渡されたのは初めてだ。相手から奪ったことは何度もあるけど。


 俺は念のために木刀を触って異常がないか確認する。


「何をしてるんですか?」


「一応ヒビが入ってたり欠陥がないか確認してただけだ。気にするな」


「私はそんな卑怯なことはしません」


 彼女が俺を睨む視線が強くなる。気にするなって言ってるのになぁ。


 しかしなぜだろう? さっきから話せば話すほど彼女の機嫌が悪くなるぞ。


 何がそんなに彼女の気に障るのか……。


 まあとりあえず武器に異常はなさそうだ。


 ついでに周囲も確認しておく。


 今は周囲には人がおらず閑散としている。馬頭たちは馬頭たちで兵舎の中で話し合いをしてるようで俺たちの決闘を見に来てはいない。


「何であなたは周囲を見回しているんです?」


 俺の行動を不信に思ったのかデコ少女が訊ねてくる。


「どこに伏兵を配置させているのか確認してただけだ」


 俺が決闘したやつらは決闘の場所にやってくると必ず「バカが!」とか言って伏兵をひそませて数の暴力に出てきやがったからな。あれはきっと友達が少ない俺に友達が多いことを自慢したかったんだろう。許せんから全員返り討ちにしてやったけど。


「私は……そんな卑怯なことはしないと言ってるだろう!」


 彼女は怒鳴り散らすと木刀を構えこっちへと突っ込んでくる。


 彼女の言う通り伏兵はいなさそうだが、だからって怒鳴ることもないのに。


 俺はいつもそうだ。よくわからず相手を怒らせてしまうことが多々ある。こんなことで隊の連中と上手くやってけるかどうか。


「はっ!」


 ともあれ彼女は俺に接近するとただでさえ背が低いのに姿勢をさらに低くして足元を狙って横に薙ぎ払ってくる。


 俺はそれを一歩下がってかわす。


 すると彼女は狙っていたかのように一歩前に出て下からすくい上げるように切り上げる。


 これも何とか身体を後ろに大きくのけぞってやり過ごす。


 しかし彼女の連撃はそれで終わりではなかった。さらにそこから踏み込んで全身のバネを使って首元目がけた薙ぎ払い。


 これはかわせそうにないと思った俺はとっさに木刀で受け止める。


 カツンと木刀と木刀がぶつかる音が響き渡る。


「ちっ! 仕留めそこないました」


 悔しそうに呟くデコ少女はさっと距離をあける。


 まるで今までの一つ一つの動作が一連の動作のようにアルファベットのゼットを描くような剣筋。


 最初の背の低さを利用した足元を狙った攻撃は剣じゃ防げなくよけるしかない。そして二撃目はよけた隙をついてのすくい上げるような斬撃。二撃目で仕留めきれなかったら止めの三撃目は横のなぎ払いで首元を掻っ切る。


 考え抜かれた三段構えの攻撃。


 普通の相手なら今の連撃でやられてもおかしくないだろう。


 馬頭の野郎が腕が立つといったのはあながちウソではないみたいだ。


「でもまだ終わりではないです」


 と彼女は言うと再び斬りかかってくる。そして俺はその連撃を防ぐ。


 彼女は強い。


 でもあの宗麟と比べると大したことはない。


 彼女の攻撃は速いが一撃は軽い。痛みで激しい動きが出来ない俺でも防御に徹すればやり過ごせるほどだ。


 でもこれ以上はまずいな。


「……うっ!」


 ぐっ! ヤバい。俺は咄嗟に口元を押さえる。動き過ぎたせいで今まで堪えていたものが限界にきている。


「隙あり」


 怯んだ隙を見て彼女が俺に突っ込んでくる。


「来るな!」


 と俺は彼女を呼び止めるが彼女は嘲るように笑う。


「泣き言など情けない! 恥を知れ!」


 そう言って彼女は俺の懐に潜り込む。


「うっぷ」


 あっ、もう限界だ。さっきから必死に堪えていたが、食べた後に無理して動いたせいで吐き気を堪えきれなくなっていた。ただでさえあのオカマのおっさんで限界だったって言うのに。


「はあああ!」


「オロロロロロロ」


 俺は吐いた。懐に潜り込んだ彼女に向かってゲロを。


「いややややああああああ!」


 ゲロまみれになった彼女は悲鳴を上げる。


 だから来るなと言ったのに……。


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