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「おえー」


 気持ち悪い。吐きそうだ。


 一週間分の栄養を取り戻そうとして食べ過ぎた。


「だから言っただろうが食い過ぎだって」


「うるせ! 血が足りないんだよ血が――うっぷ」


 文句を言ったら吐き気がもよおしてきた。吐いちゃダメだ。もったいない。


「おめーを見てると自分の見る目がないんじゃないかとなんだか心配になってきたわ」


 馬頭はこめかみを押さえてため息を吐く。どういう意味だ。


「んなことよりこれからどこに行くんだ?」


「兵舎だ。顔合わせするって言っただろ」


「兵舎? そんなのあったのかよ」


「そりゃあるに決まってんだろ」


 馬頭はいつも長屋に帰って来てるからってきり他の連中も長屋から通ってるもんだと思った。


 でもまあ確かに緊急時とかにすぐ兵を動かせるようにするために城の近くに兵舎は必要だもんな。


 馬頭の場合はシスコンだし例外なのかもしれん。そもそも足軽大将が長屋住みってのもおかしな話だ。


 ってかこんなのが足軽大将とか大丈夫なのかよ。妹をストーキングしたり隊の隊長が一番規律を乱してるような気がする。


 こんなやつが率いる隊の連中はどんなやつらなんだろうな。変なやつらじゃなきゃいいけど。


 なんて考えているうちに兵舎までやって来た。


 兵舎というからどんなものかと思ったが外観は俺が住んでいる長屋と大して違わない平屋建ての建物だった。中はだだっ広く何人かが雑魚寝するような感じの作りだ。


 こうやって見ると俺が住んでいる長屋の生活はかなりいい方なのかもしれない。


「この中で顔合わせをすることになってる。今から会うやつは四人。足軽をまとめる足軽組頭だ。少し癖が強いが腕っぷしは確かな連中だ」


 と言って兵舎の中へと案内する。


 果たして俺は上手くやっていけるのだろうか?


 正直自信がないな。


 クラスメイトともろくに仲良くできなかったし。


 ともかくあれこれ考えても仕方ない。俺も馬頭の後について兵舎へと入る。


「待ってたわよん」


 と背筋がゾクゾクするような猫なで声で俺を出迎えてきたのは艶やかな黒髪を両サイドに分けたツインテールがよく似合う……強面のおっさん。


 背丈は高く二メートルはあろう巨躯。筋骨隆々の体躯のせいで本来ゆったりとしている女物の着物がムッチムッチだった。


 なんだこの化物は? 新手の生体兵器か?


 いやいかん! これからまこちゃんを助けるために力を借りるのだから偏見の目で人を見てはいけない。戦国時代なのだからオカマの一人や二人いてもおかしくはない……はずだ。


「こいつは朱美あけみだ。ちょっと変わってるが気にするな」


「ちょっと?」


 ちょっとなのか? これでちょっととかどんな感性してるだ。


「朱美よ。よろしく」


 パチンとウインクをしてくるおっさん。


「ど、どうも」


 俺も友好を示すために握手する。


「あらいい男ね」


 朱美は握手をするとぺろりと舌を舐めずり回す。


「……うっ!」


 ヤバい。吐き気が……。


「はっ! 朱美相手にびびっているようなやつが戦場で使い物になるのかい」


 吐き気を抑える俺に喧嘩腰で話しかけてきたのは前髪をオールバックのように掻き上げて後ろに束ねている女性。


 背は高く歳は俺よりも上みたいで二〇代半ばくらいだろうか。豊かな胸を抱えるように腕を組みながらこちらを観察してきている。部下の連中には姉御とか言われてそうな凛々しい顔立ちだ。


「誰?」


「あいつはきょう。俺っちがいない時はいつも梗が隊をまとめてくれている」


 俺の疑問に馬頭が答えてくれる。


「ってことは実質隊長みたいなもんか」


「どういう意味だ! まあ梗には頼りっぱなしなのは事実だが」


「うちの隊の野郎はどいつもこいつも頼りないからね! 仕方なくだよ! 仕方なく」


 梗は不満そうに愚痴る。


「それで、こいつが隊に入れたいやつかい」


「ああ」


「ふーん。あたいはこいつを隊に入れるのは反対だね」


 梗は俺をジッと見据えてるとそう言い放つ。


 そしてさらにそれに追随して賛同するように声を上げる少女。


「私も同感です!」


 この子も足軽組頭なのだろうか?


 見た感じ俺とそう歳は大差ない。でも背は小さく一五〇センチほどしかない。生真面目そうな顔をしていてデコが広くあだ名をつけるとしたら委員長とかが似合いそうだ。まあ組頭だからある意味委員長なのかもな。なんか自尊心が高そうだな。


「こんな男がいなくても私たちでなんとかやっていけます!」


 と言い捨てられる俺。


「なるほど。案の定お前らは反対するのか。影野はどうだ?」


「ぼくですか? ぼくはいいと思いますよ」


 馬頭に話を振られた影野と言う青年はのんびりと答える。特にこれといった特徴もなく影が薄いけど彼も足軽組頭なのだろうか。他の面子に比べると普通だな。いや他の面子が濃すぎるのか。


 でもどうやら俺は女性二人には歓迎されていないみたいだ。何で彼女たちは俺を歓迎しないのだろうか?


 わからない。

 だからといってこのままじゃまずいな。


「だったらどうすれば俺を認めてくれるんだ? 俺としてはこんなくだらないことで揉めたくはないんだけど」


「くだらない?」


 俺の言葉にデコ娘は眉を寄せる。


「いい度胸ですね。それなら今すぐ決闘です! 私に勝てばあなたのことを認めてあげます!」


 決闘か。正直今の体調で身体を動かすのはよろしくない。でも受けなければ向こうは認めてくれないだろう。


「わかった。その勝負受けよう」


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