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「まこちゃんを誘拐するのが目的だと。どういうことだ!」


 俺の問いにまだらは不満そうに唇をすぼめる。


「えー、そういうと僕が悪いみたいじゃない。正確には誘拐というよりも連れ戻すというのが正解かな」


「連れ戻すだと?」


 それじゃまるで自分が正義だという口振りじゃねーか。


「そうさ。あの子は但馬たじまの国を治める黒駒くろこま家の娘なんだよ。そして黒駒家はうちの国と同盟を結ぶために彼女を差し出したのさ」


 まこちゃんが国を治める家の娘だと。馬頭は名家と言っていたがまさか国主の家だったとは。馬頭の馬面からは想像できないが。


「つまりまこちゃんの親父は政略結婚の道具として娘を差し出したってわけか」


「そうそう。なのに彼女はそれを拒否して勘当された兄と一緒に家出しちゃったってわけ。だからこっちには連れ戻す正当な理由があるのさ」


 俺はまだらの言葉にカチンときた。


「……正当な理由だと」


「そうだよ。まったく、婚姻を拒否するなんて一国の姫としての自覚がないのかねこの子には。おかげで同盟の話も延期になって後処理がどれほど苦労したか」


 まだらはあきれるようにため息を吐く。


「でもこれで同盟までもってけそうだ」


「ふざけるなよ! 本人が嫌がってるのに無理やり結婚させるつもりかよ!」


 それじゃまるでまこちゃんが政略のための道具じゃないか。


「何で君はそんなに怒ってるんだい?」


「当たり前だ! そんな愛のない結婚認められるかよ」


「愛? あははは。君は面白いこと言うなー。この乱世の時代に力を持たない女は家のために身をささげることしか価値がないんだか結婚に愛がないのは当然じゃん。たとえ、彼女がどんなに嫌がろうと関係ないんだよ」


「てめえええええ!」


 まだらに殴りかかろうとするが身体が動かない。


「ふーん。案外感情に流されやすいんだね。期待外れにもほどがあるなー。でもそんなんじゃ僕の不動金縛りの術は破れないよ。この術は僕の霊力を見えない鎖にしてるんだ。力任せに破ろうとすれば自分の身体を傷つけるだけだよ」


「黙ってろ!」


 動かそうとすると体中が悲鳴をあげる。だがそんなこと気にしてられない。


 筋肉がミチリミチリと引き裂かれ骨がミシミシ軋む。無理に動こうとした反動なのか身体のところどころから血が滴り畳を朱色に染め上げる。


「ほら見たことか。人が善意で言ってあげてるのに」


 と余裕しゃくしゃくといった感じで肩をすくめるまだら。


「さて、そろそろ彼女もやってくるだろうし抜け道を使ってここから脱出しようか。珠、彼を始末しちゃって」


「……」


 珠と呼ばれたくノ一は無表情でコクリと頷くとクナイを構える。


 クソッ! このままいかせてたまるかよ。


「うおおおおおおお!」


 動け!


 たとえこの身がどうなってもいいから動きやがれ!


 まこちゃんをうちの両親みたいにさせてたまるかよ。望まない結婚をして望まない子供を産んで望まない夫婦生活をするなんて……。


 あんな冷えきった家庭は最悪だ。思い出しただけでも反吐が出る。


 だから俺はまこちゃんに望まない結婚をさせたくはない。


 まこちゃんみたいないい子は幸せになって欲しい。そしてあの兄妹が笑って暮らせて温かい家庭を持ってくれれば。


 ブチリ。


 何かが千切れるような音が聞こえたきがした。すると同時に身体が動くようになる。


 ちょうどそのタイミングでくノ一の珠が投げたクナイが飛んでくる。


 俺はそれをなんとか紙一重でかわすと術を破られて固まっているまだらへと駆け寄る。宗麟も珠も予想外のことでまだ反応できていない。


「喰らいやがれ!」


 全身全霊を込めた一撃。


 その一撃はまだらの顔面へと直撃する……はずだった。


 ゴン!


 しかし俺の拳はまだらに当たる前に見えない壁の様なものに阻まれてしまった。


「いやー。驚いた。まさか気合いで術を破るなんてね。君は常識はずれだなぁ」


 とまだらは嬉しそうに話す。一方俺はムチャをした代償で身体がいうことをきかずだんだんと意識が遠のいていく。


「でも残念。僕は常に霊力で障壁をはってるから攻撃を当てようとしても無駄だよ――ってもう聞こえちゃいないかな。あれだけ無茶をしたんだか仕方ないよね。まあ結局無駄死にだけどね」


 倒れ伏した俺を見てまだらはクスクスと笑う。


 その声が無性に腹が立って殴ってやりたい。でももう身体は動かない。




 わああああ!




 薄れていく意識の中で外が騒がしくなってきたのをなんとなく感じる。


 馬頭が夜襲をかけにきたかと考えたがすぐに否定する。

 早すぎる。どんなに急いでも夜襲の準備が終わるのは日が明ける前ぐらいだ。


 そうなると……ダメだ。血を流し過ぎた。頭が回らない。


「やっぱり彼女が出てきたか。さあ天下を揺るがす戦の始まりだ」


 と何やらまだらが呟いていたのが俺の意識はそこで途絶えた……。


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