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 俺が部屋に入ると辺り一帯には血しぶきが飛び散っていた。はねられた泥沼の首がゴロリと畳を転がる。


 隙はこの一瞬。それを逃せば宗麟に妨害される。だがそれで十分だ。


 俺は即座に畳で寝ているまこちゃんを発見すると救出に向かう。


 しかしそんな俺目がけて何かが飛来した。


「……くっ」


 俺はすぐさまさすまたの柄でそれを防ぐ。


 コンッ。


 さすまたの柄にはクナイが突き刺さる。


 迂闊だった。


 黒幕と泥沼の話ぶりからして部屋の中には黒幕と泥沼、そして宗麟の三人だと思いこんでいたが、もう一人いた。


 クナイを投げてきたのは黒い装束に身を包んだいかにも忍びという装いのくノ一。


 背はやや低く、黒頭巾で顔はよく見えないが目だけは特徴的で、瞳孔が縦に長くネコみたいだった。でもその目は感情を感じさせない冷めた目をしていた。


 おそらく彼女がさっき他の部屋で見た死体を作り上げたんだろう。急所で一突き。いかにも忍者っぽいやり方だ。


 くノ一は追撃してくることなくいつでも動けるように身構えてジッと俺を見詰めている。


「……!」


 俺はチャンスと思ってまこちゃんの元へ行こうとするが、足が動かなかった。


 恐怖とか精神的ではなく物理的に足が動かなかった。さらに足だけでなく身体全身が同じように動かない。まるで見えない鎖でがんじがらめにされているみたいだ。


「やあ、待っていたよ」


 と話しかけたのは宗麟でもくノ一でもない第三者。つまり黒幕だ。黒幕はまるで同世代の友人に話しかけるような軽い口調だった。


 俺は黒幕を見て少し驚く。


 なぜなら黒幕は俺と大して歳が変わらないよう年恰好で、あどけない少年のような可愛い顔立ちをしていたからだ。こんなことを画策しているからかなりあくどい面かと思っていたから意表をつかれた。だが可愛い顔をしているが不思議と可愛げはまったくない。

 着ている服は宗麟のような浪人みたいな格好でもくノ一のような格好でもなく公家とかが着ていそうな格好。ぶっちゃけ陰陽師みたいな格好だ。


「おい、俺に何しやがった」


 幸い口は動く。なんとか時間を稼いで打開策を考えないと。


「不動縛りの術をかけたんだよ。君に大人しくしてもらうために」


「ああ? それは忍術か何かか?」


「違う違う。僕の呪術を忍術みたいな暗殺術と一緒にするなんてひどいな」


 黒幕はやれやれと首を横に振る。


「呪術? 魔法みたいなもんか?」


「魔法? ああ、確かはるか遠い海の向こうにある大陸の人間が使う術のことか。となると君は大陸の方から来たのか。どおりで君の情報が手に入らないと思った」


 とこっちの質問を無視して一人で勝手に納得する黒幕。その態度にイラついてぶん殴りたくなるが身体が動かない。


 ともかく俺はこいつの不思議パワーで動きを封じられたっていうのか? なんだそれ。反則じゃねーか。


「そういえば自己紹介がまだだったね。僕はまだら。この国を滅ぼす蛇骨じゃこつの国の軍師さ」


 とそんなことをにこやかに話すまだら。


「でも君のせいで僕の予定がほんの少し狂っちゃった。つくねだっけ? あれは大陸の料理かな? まさか僕の策をあんな方法で破るなんてね」


「んじゃあテメーは俺にその意趣返しをしようってわけか」


「んー? 違うよ。僕は君に会いたかっただけさ。彼女以外で僕の策を破る相手がどんな相手だろう……ってね」


「彼女?」


「そう彼女――千鳥家当主の千鳥紫苑さ。彼女は中々に手強い。彼女が当主じゃなかったらとっくにこの国を盗れていたのに」


 まだらは唇をすぼめてつまらなそうに言う。その仕草だけ見れば無邪気な子供みたいだ。


 そんな風に紫苑のことを話されても俺にあいつのすごさがわからない。ただの性悪女にしか見えない。


「でもまあ最後に勝つのは僕だけどね。どうだい? 君も千鳥紫苑を裏切って僕についてこないか? それなりの待遇で出迎えるよ」


「断る。裏切るもなにも俺はもともと紫苑の味方じゃねーからな。むしろあいつのことが嫌いだ。だが俺はお前も嫌いだ。こそこそと泥沼を使ってまこちゃんのような可愛い女の子をいびるようなやり方は好かんしまこちゃんを誘拐したことも気に食わん。さっさと無関係なまこちゃんを解放しやがれ」


「あの子を解放?」


 俺の返答にまだらはキョトンと首を傾げる。そしてすぐにポンッと手を叩いて納得する。


「ああ。どうやら君は何か勘違いしてるよ。別にあの子を誘拐したのは君を誘い出すのが目的じゃない」


「俺を誘い出す? お前の目的はまこちゃんを誘拐して馬頭の動きを封じるつもりだったんだろ」


「なーんだ。気付いてなかったの」


 失望したよと言わんばかりにまだらは肩を落とす。


「もちろんそれもあったけど君が僕のあげた手掛かりからここまでやってこれるかどうかも試したのさ。まさか一人でやってくるとは思わなかったけどね」


「なに!」


 俺がここに来たのもまだらの思惑だっただと。俺はこいつの手の平で踊っていたのか。


「でも君も馬頭もしょせんついでなんだよ。僕は始めからあの子を誘拐することが目的なんだから」


 まだらはしてやったりという感じで笑う。


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