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残酷描写が少しあります。
ぴちゃん……ぴちゃん。
「……?」
どこか遠くで聞こえる滴る水音でまこは目を覚ます。
ぼんやりとした意識の中で辺りを見回す。
月明かりが天窓からあまり入ってこないので暗くてよく見えないが、自分の周りにはひんやりと冷たい石畳みの床に古びた壺やら雑多な物が押し詰められるように置かれていた。
まこはここはどこかの屋敷の物置き蔵かどこかなんだろうかなんて呆然と考える。
そしてだんだんと意識が覚醒していって、自分が柱に縄で括り付けれていることに気が付く。
「――!」
驚いて声を出そうとしたが猿ぐつわをされていて声が出せなかった。なんとか外そうと腕を動かそうとするが腕も縛られていて外せそうになかった。
恐い! 何で? どうして? 誰か助けて。
まこの頭の中で恐怖と混乱が渦巻く。
「――! ――――!」
声が出せないとわかっていても助けを求めて声を出す。
「――! ――!」
肉親でもある兄の名や、最近よく一緒にいるどこか抜けているけど頼りになる男の名前を声にならない声で叫ぶ。何度も何度も。
だがその声は届かない。声にならないくぐもった声だけが監禁部屋に響く。
まこは涙を流す。
どうして自分がこんな目に合っているのだろうか?
そんな疑問が浮かぶがまこにはわからなかった。
自分はただ兄に感謝を込めて手料理をご馳走するはずだった。そのついでに神社で兄の無事を祈るためのお守りを買ったその帰りに何かあった気がするが、そこから先は記憶が途絶えている。
自分は誘拐されたのだろうか? と考えるがそれはないと否定する。今の自分は誘拐されるだけの価値がないと。
だとしたら自分は人攫いに捕まったかもしれない。人攫いに捕まったら奴隷として売られ一生こき使われる。もう兄や大和に会えなくなってしまう。
そう思うと恐怖で心が張り裂けそうだった。
絶望するまこに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「火事やー! 火事やでー!」
火事! と焦るがそれよりも先に聞き覚えのある声に反応する。
亜希の声だ。この特徴的な声は間違えようがなかった。
「――!」
亜希さん! と助けを求めて叫びたかったがまたしても声にならない。
「――! ――! ――!」
自分がここにいると伝えるために何度も声を出そうとするが、無情にも亜希の声は遠のいていく。
それからすぐに周囲が騒がしくなった。火事を消化するために人が動いているようだ。
しばらくするとガチャっと扉が開かれる。
もしかして助けが来たのかもと歓喜するまこ。
だが次の瞬間それは悲観へと変わる。
「へへへ。周りが騒がしい今ならあの小娘をやっちまってもバレねえだろうぜ」
「小娘つってもがきだけどな」
「がきでも女は女だ。ったく山賊だって言うのに規律だどうのこうのうるせーからろくに女も抱けやしねーぜ」
「確かに。まあおれはがきの方が好きだからいいけどな」
「へっ。いい趣味してるぜ」
二人組の男が下卑た笑みを浮かべてまこが捕らわれている蔵へとやってきた。周りが消火活動をやっている目を盗んでここまでやってきたようだ。
「――!」
二人組の男と目が合ってまこは身がすくむ。
「なんだ起きてるのか。ならちょうどいい。今からいいことしてやるよ」
「――――!」
嫌だ。
自分の身体に触れようとする男にまこは全身で拒絶する。だが縄で動きを封じられていてろくに動けない。
「嫌がる女をやるってのも乙なもんだぜ。身体は貧相だが顔は悪くねーしな」
男は嫌がるまこの顔を掴んで舌を舐めずりまわして嬉しそうにニンマリと笑う。
「――!」
「いって!」
抵抗しようとまこは唯一自由な足をジタバタさせると足が男の股間に直撃する。
「このくそがきが!」
股間を蹴られて怒りを露わにした男は拳を振り上げる。
殴られる。
そう思ったまこは歯をグッと噛み締めて堪えようとする。
……。
…………。
………………。
しかし待てども殴られない。
不思議に思ってまこは恐る恐る目を開ける。
まこが目を開けると、男の首が胴体と別れてぼとりと地面に落ちて辺りを血で濡らす。
「――!」
声にならない悲鳴を上げるまこ。
「ひっひいい」
仲間が殺されて腰を抜かすもう一人の男。
そして男の首を斬り下ろした人物は腰を抜かした男を容赦なく一刀両断する。
まこはあまりにも凄惨な光景に気を失ってしまう。
気を失う寸前で二人を斬り殺した人物の顔が見えた。それはまこが知ってる人物の顔だった。