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 まこちゃんを助ける。


 と言ったもののどうやって助けるかろくなアイデアが浮かばずに泥沼の屋敷まで到着してしまった。


「どうしたらいいもんか」


 馬頭には人数が多いから潜入してもバレないと言ったが、こういう場合普通だったら合言葉とかを用意しているものだ。ここまで念入りに下準備をしてきたんだからそれぐらいの備えはあるはずだ。じゃなきゃ三〇〇人もいたら仲間かどうかなんて判断できないからな。


 屋敷の中に入っちゃえば合言葉なんて必要はないだろうけど入り口には見張りぐらいいるだろう。


 見張りを叩きのめすにしても侵入したことがバレればまこちゃんの身が危うくなるかもしれない。


 俺が考えあぐねていると聞き覚えのある人物の声が聞こえた。


「なんでや! 金を払わんってどういうこっちゃ! こっちには証文もあるんやで」


 亜希の声だ。亜希は門番と何か言い合っている。こんな夜遅くに何をやっているんだ?


「黙れ黙れ。さっきからずっと言ってるが、お前がいくら言おうとも大沼様が今日は取り合わないと言っている。今日のところは大人しく帰れ。さもなければ斬るぞ! というかいつまでここにいるつもりだ」


 門番はうんざりしたように言い放つ。


「なんや! そうやって暴力に訴えようって言うんかいな。もうええわ! そっちがその気ならこっちもやったる。明日のお天道様を拝めると思うなや!」


 と啖呵をきると亜希はこっちへずんずんとやってきた。そして亜希は俺に気付く。


「なんや、大和やんか。こんな夜遅くにこないなとこで何してん?」


 さっきの啖呵をきった時の態度とは違ってケロッとした態度で俺に接する亜希。


「それはこっちのセリフだ。何やってるんだお前」


「そや、聞いてや大和。あいつら契約破るつもりみたいやで」


 話の流れからして契約とはつくねを作るための資金援助のことだろうか。


「今日になって急に金を払わないとか言いだしてな。せやからうちがこうやって出張って来たんや。かれこれ一刻ほど門前で粘ったけど駄目やったわ」


 一刻というと二時間か。粘り過ぎだろ。


 でもまあ契約を破るってことは向こうは踏み倒すだけの自信があるってことの裏付けだ。やっぱり泥沼は下剋上を起こすつもりか。


「ちゅーことで大和。このままじゃうちの気がおさまらん。あいつらを一泡吹かせる方法は何かないんか? 焼き討ちとか」


「ムチャ言うな。こっちはこっちで大変なんだから」


 焼き討ちなんてしたらまこちゃんまで巻き添えを食らっちまう。できるのならとっくにやってる。


「……いや、待てよ。焼き討ちか!」


「やるんか? 焼き討ちやるんか!? 道具ならあるで」


 と言って亜希は葛籠から火打ち石や油と言った放火道具一式を取り出す。……準備が良すぎる。


「焼き討ちまではやらない。せめてボヤ程度の騒ぎでいい」


「ん? どういうこっちゃ?」


 そういえばまだ亜希はまこちゃんが誘拐されたことは知らないんだよな。


「実はまこちゃんが泥沼の野郎に誘拐された」


「なんやて! 何でまこが誘拐されたんや!?」


 驚く亜希に俺は全て話す。まこちゃんが誘拐された経緯から泥沼の野郎がやろうとしていることまで。


「そういうことやったか。だから大沼のやつは今日になって支払いを渋ったわけやな。それに門前払いやったのも屋敷の中にいる山賊を見られないするためやったんか」


 全て合点がいったという感じで納得する亜希。


「ほんで、大和がまこを救出するのはわかるんやけど小火ぼやなんて起こしてどないするつもりなんや?」


「周りの人間の注意を逸らして屋敷の中に潜入する」


「上手くいくんかいな?」


「ああ。泥沼の野郎はこの計画を内密に進めている。となるとここにきて絶対にバレたくはない。そんな中ボヤなんて起きたら騒ぎになって計画が明るみになるかもしれない。だからやつは表沙汰になる前に慌ててボヤを消しにかかる。そうすればドタバタしてネズミが潜り込んでも気付かない」


「ほー、でもその計画には穴があるな」


 と亜希は意地の悪そうな笑みを浮かべる。


「どこに?」


「誰がその小火を起こすんや? わざわざそんなことしてくれるお人好しがおるんかいな?」


 亜希の言う通り今ボヤを起こして捕まったらただじゃすまないだろう。そんなお人好しはそうそういない。


「そりゃあもちろん金を払わないことに腹を立てた商人が起こすに決まってるだろ」


「そんなことしおったら商人失格やな」


「そいつが本当に商人だったらな」


「……言うやんか」


 何か察した亜希はニヤリと笑って特徴的な八重歯を見せる。


「この借りは高くつくで」


「利子まできっちり払うよ」


「そりゃ楽しみやわ」


 不敵に笑う亜希と別れて俺は亜希がボヤを起こすのを待つ。


 しばらくすると火の手があがり亜希の声が聞こえてきた。


「火事やー! 火事やでー!」


 遠くからでも亜希が楽しんでいるのがわかるほどの声音だった。


 屋敷のすぐ近くで火の手が上がり慌てて火を消そうと屋敷から人が飛び出してくる。飛び出してくるやつはどいつもこいつも人相の悪そうな連中ばかりだった。


 ボヤはすぐに収まって消火作業をしていた連中は屋敷へと戻る。俺もその連中に混ざって屋敷の中へと侵入する。

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