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「格好つけるのはいいがお前にまこを救う策はあるのか?」


 と馬頭は正論を言ってのける。


 確かに格好つけといて策がないじゃ話にならない。


 さっき聞いた話の要点は三つ。


 一つ、まこちゃんが誘拐されて馬頭の家に文が置かれていた。

 二つ、馬頭と山賊団の頭目とは因縁がある。

 三つ、山賊団の規模は三〇〇人ほど。


 情報がこれだけじゃ心もとないがある程度策を立てることはできる。


「策はあるにはある」


 しかし最善の策というわけではない。まこちゃんの命がかかってるとなるとヘタな策を打つわけにはいかない。せめて相手の狙いが何なのか分かれば……。


 クソッ! 情けない。


「なんだ、あるならもったいぶらずに早く教えやがれよ」


 こっちが必死に策を考えてるというのに馬頭のお気楽そうな言葉に軽くイラッとくる。


「少しは自分で考えてみたらどうだ馬鹿」


「なんだと!」


「ああ間違えた。字面が似てるから呼び間違えた」


「手前は喧嘩売ってるのか!」


 ムキになった馬頭が俺に掴みかかる。


 しまった。今はこいつとケンカしてる場合じゃない。


 まこちゃんが誘拐されて俺も冷静さを失っている。こういう時こそ冷静にならないと。冷静さを失えばエテ吉に踊らされてチカちゃんに振られた時みたいになるに決まっている。


 こいつだって俺を信頼してるからこそ気楽そうな言葉をかけてるんだ。


「悪かった。こっちだって向こうの狙いがわからないからイラついているんだ」


「狙いだと?」


「お前はおかしいと思わないか?」


「何がだ?」


 どうやら馬頭は気が付いてないようだ。


 俺は掴んでいる馬頭の手を振りほどいて説明する。


「お前の長屋に文があったってことは向こうはお前の住んでいる場所を知ってるってことだ。なのに向こうはお前の住んでいる場所を把握しておきながら今日まで何もしてこなかったんだぞ。私怨を抱いているなら何でもっと早く行動を起こさなかったんだ?」


「そりゃあ……たまたままこの後をつけて今日俺っちの家を見つけたとか? あいつならまこの顔を知っててもおかしくないし」


「それはない。それなら誘拐せずに長屋でまこちゃんを人質として捕らえて待ち伏せをすればいいはずだ。なのに長屋には文だけが置いてあった。お前と因縁がある男の名前でな」


 たまたま見つけたのだったらもっと突発的な行動をとってもおかしくはない。なのに文があったということは事前にしたためてあったと考えるのが妥当だ。


「つまりお前は何が言いたい」


 俺の話を聞いて姿勢を正した馬頭は真顔で尋ねる。


「向こうの狙いはまこちゃんじゃなくて明日までお前の動きを封じたいということだ」


 もし人質を殺せばこいつは躍起になって山賊を探すはずだろう。でも人質がいる限り馬頭はヘタに行動を起こせなくなる。向こうは何が何でも馬頭に明日まで動いて欲しくないみたいだ。


 もしかしたら宗麟とかってやつも馬頭に信憑性をもたせるために名前だけ使ってるのかもしれない。となると向こうは馬頭のことをかなり知ってることになるな。


 だが……。


「なんでぇ。向こうの狙いがわかってるじゃねーかよ」


 と楽観的な馬頭にまたしてもイラッとする。


「だけど何のためにテメーみたいなカスの動きを封じたいかわかんねーんだよ。テメーみたいなカスにそこまでする価値はないだろうが!」


「あっ! 言いやがったな! 俺っちはこれでも足軽大将なんだぞ」


「足軽大将!? 足臭大賞じゃなくて?」


 足軽大将っていえば部下を率いて最前線で戦う実戦部隊の隊長だ。多ければ一〇〇人以上率いることだってあるほどだ。


 こいつがその足軽大将だと。


「誰の足が臭いって言うんだよ! 俺っちは流民を率いるから一〇〇人を率いる足軽大将なんだぞ」


 そうか。馬頭は流民で顔役だから流民を統率するために足軽大将にしたのか。流民をばらばらに配置するよりもまとめて一部隊にした方が管理が楽だし他の家臣との不和を減らせるかもしれないしな。


 でもそんな流民にわざわざ力を与えるようなことは普通ならしない。

 大方この部隊を編制したのは紫苑だろう。


「にしてもお前が一〇〇人を……って、そうか! そういうことか」


 俺の中で閃く。


「おい、何一人で納得してやがる。俺っちにもわかるように説明しろよ」


「山賊どもの狙いは城だ」


「城だと!? おいおい、いくらなんでも山賊ごときが城……待てよ。そういうことか」


 馬頭もようやく理解する。


 今は紫苑や蓮ちゃんといった主戦力は周囲の村や町を周ってこの城下にいない。いるのは俺一人にやられるような雑魚ばかり。


 山賊どもはその隙をついて城を奪取しようって魂胆だ。


 馬頭の動きを封じるのは流民の軍勢を機能させないためだ。


 流民とはいえ一〇〇人いては山賊でも苦戦する。だが指揮官がいなければしょせん烏合の衆だからな。馬頭はバカだが人をまとめるだけの力はある。


「馬頭、今すぐ城に行って柚子姫と雲雀のジジイにこのことを伝えてすぐに夜襲するよう提案しろ。山賊が動くのは明日の夕刻だ。油断してる今晩に襲撃だ」


「明日の夕刻だと? どうして向こうの襲撃時間が予想できるんだよ」


「文に書いてあっただろ。明日の夕刻に羽生神社へ来いと。あれはお前を前線から引き離すためだ」


 羽生神社はまこちゃんと最後に会ったあの神社だ。あそこから町までは距離がある。馬頭は襲撃に気付いてもすぐには城に戻れない。


「それはわかったがどこに夜襲をかけるっていうんだ」


「考えてみろ。城を襲撃するなら分散して配置はできない。三〇〇人もいる山賊どもを一か所に匿える場所なんてそうそうあるか? 食事の手配まで考えるとここら辺で一番広い屋敷を持っていて金があり国に牙をむくようなやつなんて一人しかいないだろ」


「まさか……大沼か!?」


「そういうこった。今まで山賊どもが上手く逃げれたのもあいつが情報を流してたからだろ。なんたってあいつは山賊討伐の費用を出していたんだからそれぐらい知っていてもおかしくはない」


「くそっ! そういうことか」


 馬頭が悔しそうに地面を叩く。


 そして馬頭は大事なことに気付く。


「まこはどうするんだよ!? 夜襲なんてかけたらまこが殺されるかもしれないんだぞ!」


「お前が夜襲を仕掛ける前に俺が単身泥沼の屋敷に潜入する」


「正気かお前! 見つかったらただじゃ済まねーんだぞ」


「大丈夫だ。三〇〇人もいるところに一人ぐらい増えても気付かねーだろうよ。全員の顔なんて覚えちゃいないだろう」


「だが!」


「いいからお前はさっさと城に行って来い! お前が潜入してもすぐにバレるんだよ、顔で! それなら俺が潜入した方がいい。お前はお前で流民をまとめて夜襲をかける準備をしなくちゃならない。適材適所だ」


 馬頭からしてみれば自分の手で助け出したいという気持ちはよくわかる。だが山賊たちをこのままにしておくわけにはいかない。今の戦力で山賊たちを討ち取るには夜襲しかない。


「……くっ! わかった。絶対にまこを助け出せよ」


 馬頭は渋々俺の言うことを聞くようにしたようだ。


「わかってる。出来なかったらお前の言うことなんでも聞いてやるよ」


 と返事をして俺はさっそく大沼の屋敷へと急いで向かう。


 向こうの狙いが馬頭の注意を逸らすことだとしたらまこちゃんの身が危ない。


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