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「まこちゃんが誘拐された?」


 一瞬まこちゃんによる昼間の馬頭に対するイタズラかと考えたがまこちゃんがそんな周りを心配させるようなイタズラをするわけがない。となると本当に誘拐されたのか。


「一体何があったんだ馬頭」


 焦る気持ちをなんとか抑えて馬頭に問う。


「んなもん俺っちが知りてえよ! 俺っちが長屋に帰ったらこの文がおいてあったんだよ!」


 馬頭は苛立ち混じりに文を俺に投げつける。俺はそれを黙って読む。




『お前の妹は預かった。帰して欲しければ明日の夕刻に羽生うもう神社まで来い。来なければ妹の命はないと思え。角端かくたん盗賊団頭目、宗麟そうりん




「山賊だと? 馬頭、この山賊に身に覚えがあるか」


 最近屋台の売上がいいから身代金目的の誘拐かと思ったが、この時代にわざわざ誘拐なんてまどろっこしいことなんかせず部屋の金品を奪えばいいだけだ。だが馬頭の話から察すると部屋は荒らされておらず文だけがあったようだ。


 誘拐なんてまどろっこしいことをしたうえに文まで残したとなると馬頭に怨みがある連中がやったと考えるのが妥当だ。


「角端盗賊団といえばここら一帯で一番幅をきかせてる連中だ。人数はざっと三〇〇は超えるとか」


「三〇〇……」


 盗賊でそこまでの規模の連中は中々ないだろう。ただでさえ無法者で扱いづらいのにそんな連中をまとめ上げるなんて並みの人間にできることじゃない。


「紫苑様も何度かやつらを討伐しようとしたがいつも上手い具合に逃げられちまってな。やつらさえいなければ山賊どもの横行を減らせるんだが」


 と角端盗賊団について語る馬頭。だが俺が知りたいのはそんな情報じゃない。


「そんな一般的なことじゃなくて俺が聞いているのはお前と山賊どもとの関係だ。例えば昔その山賊に所属していたとか」


 こいつの気性ならありえる。というか見た目からしてあり得る話だ。


「馬鹿言うな! 山賊なんてやっていたら死罪だ。ただ……」


「ただなんだ?」


 馬頭は話をするか迷うが、ここは話した方がいいと判断して話をする。


「少し長い話になるがいいか?」


「断る……と言いたいがまこちゃんを救うために今は情報が欲しい。なるべく簡潔に話せよ」


 誘拐されたとなると何をされるかわからない。ましてや身代金目的じゃなくて私怨だとしたら早く助けないといけない。見せしめに殺すなんてこともありえる。


「わかった。その盗賊団の頭目は俺っちの知り合いだった男だ」


「ふーん。知り合いだったってことは何かあったのか?」


 俺の問いかけに馬頭が少しだけ驚く。


「察しがいいな。俺っちと宗麟は同じ国の出身でな。やつは農民の子でありながら幼い頃から武芸に秀でてて麒麟児なんて呼ばれるほどだ。一方俺っちは名家の生まれで小さい頃は優秀で鳳雛ほうすうなんて呼ばれたりもしていたんだ」


 ホース? 確かに馬みたいな顔しているが今は自虐ネタを聞きたいわけじゃない。


「それで?」


「あいつと俺っちは歳がちょうど同じでな、何かと俺っちはやつと比べられた。小さいときは大して差がなかったが歳を取るにつれてあいつと俺っちとで才能の差が出始めたんだ」


 そりゃあ馬と麒麟じゃ差がでるわな。


「剣術、槍術、弓術、戦術、どんなに努力をしようろも俺っちは全てにおいて宗麟には勝てなかった。名家の子が農民の子より劣るなんて知った家族は俺っちを邪険に扱った。そのせいで親族や周囲の人間までもが俺っちを厄介者だの落ちこぼれだの罵ってきた。さらに宗麟を養子にするなんて話も出てきた」


 昔を思い出し馬頭は悔しそうに拳を握りしめた。


「そしたらだんだん宗麟が憎くなってな。あいつさえいなければなんて考えるようになって気付いたら俺っちはあいつを殺そうとしたんだ」


「で?」


「宗麟に闇討ちしたんだが命までは奪えなかった。でも片目と片腕を失ったあいつは武芸者としての道を絶たれて養子の話も流れて流れ者になったらしい」


「らしいってのはまたあやふやだな」


「俺っちは俺っちでそのことがばれて国を追放されてまこと一緒に流民になってたから詳しくは知らなかったんだ」


「なるほどな。宗麟ってのがお前を怨むのは筋が通ってるな」


 話を聞いた限り馬頭が完全に悪い。その宗麟ってやつは馬頭のやつ当たりのせいで出世はおろか片目と片腕を失ったのだから。そんな身体じゃ農民としても生きていけないしな。盗賊に身をやつしてもおかしくはない。


「今思えば何でそんなことやっちまったのか後悔してる。悪いのは宗麟じゃなくて周りの人間だったというのに」


「そんなもん今さら嘆いたって変わんないんだから気にするな。ハゲるぞ。でも話を聞くとまこちゃんは名家のお嬢様なんだろ? 何でお前と一緒に国を出たんだ? わざわざ流民になってまでついていくほど価値のある男じゃないだろお前は」


「お前は励ましてんのか落ち込ませたいのかどっちなんだよ」


「お前を励ます気なんてさらさらねーよ。事実を言っただけだ」


「手前俺っちが禿げるって言いたいのか!」


 そう言って掴みかかろうとするがサッとかわす俺。そこに突っかかるのかよ。


「それでどうなんだ? まこちゃんが国を出た理由は」


 地面に這いつくばった馬頭は気まずそうに答える。


「知らねえ。まこがどういう考えで俺っちなんかと一緒に国を出たのか怖くて聞けなかったからな。でもまこがいなかったら俺っちはとっくに野垂れ死んじまってたな」


「そっか」


 こいつがシスコンなのはまこちゃんに恩を感じてるというのもあるのかもしれないな。家族に見放され国を放り出された自分なんかについてきた妹に対して何も感じないはずがない。一人は寂しいからな……。


「頼む大和! お前の力を貸してくれ。俺っちの命はどうなってもいいからまこを助けてやってくれ。大沼の野郎からまこを助けてくれたお前ならできるはずだ!」


「それはつまり盗賊どもからまこちゃんを救い出せってことか?」


 三〇〇人もいる盗賊団からまこちゃんを救い出すなんてこっちも命を賭けなきゃ無理な話だ。言い換えれば馬頭は自分の妹のために俺に命を賭けろって言ってるようなもんだ。


「ああ。この通りだ。まこを救えるなら俺っちは死んでもいい」


 と言って馬頭が土下座をする。プライドの高いこいつにとって嫌ってる俺に土下座するなんて屈辱のはずだ。俺が逆の立場でも嫌だ。それだけこいつにとってまこちゃんが大事なんだろう。


 まこちゃんが日頃馬頭に感謝してるように馬頭のやつもまこちゃんに感謝してるのか。これが兄妹愛ってやつかね。


 なら俺の答えは決まってる。


「断る」


「なんだと!」


 俺の返事を聞いて馬頭は怒りで声を荒げるが俺はすぐに言葉を続ける。


「お前が死んだらまこちゃんが悲しむからな。俺はお前が死のうがどうでもいいがまこちゃんの悲しむ顔は見たくない。だからお前も死なせずまこちゃんを助け出す」


「……はっ! 格好つけやがって」


 馬頭は振り上げた拳を下して照れ臭そうに腕を組む。


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