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今回は短い中で視点変更が何度かあります。小説としては視点はなるべく統一した方がいいみたいなので読みにくかったらすいません。

「むー、なんなんですかあの方は……」


 柚子姫は不満そうに頬を膨らませる。


「まあ落ち着きなされ姫。九十九殿のおかげで目の上のたんこぶじゃった大沼の力が大きく削げた上に、流民の受け入れを反発する輩が減るのは確実じゃ」

「そう……ですけど」


 勘助の言うことももっともだった。


 流民排斥派の筆頭である大沼が仕方がなくではあれ流民を認めた上に支援までしたとなると屋台骨が大きく揺れる。そのうえ流民が作ったつくねという料理が広まれば民衆の意識も多少なりともいい方向に向かうはずだ。


 あの男はそれを偶然ではなく狙ってやったのだ。自分たちがどうにかしなければならない問題をこの世界に来てたった数日の男が解決したのだからあの男の実力を認めないわけにはいかない。


 それは頭でわかっていても心では納得できなかった。


「だってあの方はわたしのことを食いしん坊とか、子供とか言ったんですよ」


 大沼のような遠回しな悪口には慣れていたが、今まで面と向かって暴言を吐かれたことがなかった柚子姫は大いに傷ついていた。


「子供ということはまだまだ成長の余地のあるということじゃから気にするほどのことでもあるまい」


「成長ですか……」


 チラリと胸を確認する柚子姫。勘助としては人間としての成長という意味だったのだが柚子姫は気が付いていない。


「大丈夫。姉上には勝ってるはずだし」


 などとボソリと自分に言い聞かせるように呟いていた。


 勘助はそれを聞かないことにして話題を変える。


「早くこのことを殿に知らせねばなるまい」


「はっ! そうでしたね。早く姉上にことのことを知らせなければなりません。大沼が今後どういう行動をするのか対策を考えなければなりませんし」


 すぐに気持ちを切り替えた柚子姫は紫苑に文を書くため急いで城へと帰る。







「ううう」


 とある商人の屋敷の寝室でうめき声が響いていた。


「は、腹が痛い。死ぬぅ」


 と猛烈な腹痛に襲われて苦しんでいたのは大沼成助だった。大和のところから去って家に帰ると急に腹痛に見舞われてさっきからずっとこの調子だ。


「あの男だ。あの男が。私の身体に何かしたに決まってる」


 と大沼は自分の身に起きた異変を全て大和のせいだと決めつける。


「許さん。許さんぞ――いたたたっ」


 復讐を考えるものの、腹の痛みでまともに思考ができない。


「こんな不甲斐ないことがあの方に知られたら……」


 恐怖で一瞬だけ腹の痛みを忘れる。


 そこへ襖の向こうから声がかけられる。


「旦那様。客人が来てますが……」


「きゃ、客人!?」


 使用人の話を聞いて身がすくむ泥沼。


「まさか……あの方か?」


「いえ、客人というかなんというか……。ただ、金を寄越せとさっきから要求するものばかりが屋敷の前に何人も尋ねてきて」


「知るか! そんなもの追い返せ!」


「し、しかし金を払わなければ百万貫払うことになるぞなどと申しておりますが……」


「……ぐっ!」


 苦虫を噛み潰したような表情になる泥沼。


 やってきたのは大和の話を聞いてつくねを作るために資金の援助を申し出ている連中だ。

 捨て置けと言ってやりたいがそんなことをすれば金を払わなければならない。百万貫なんていう大金そうそう用意なんてできない。

 なんとしても金を払いたくないがいい方法が思いつかない。腹痛のせいで余計に考えがまとまらない。


「……くっ。払ってやれ」


「はい?」


 どケチで知られる主人の口から出た言葉が信じられず呆ける使用人。


「払ってやれと言ってるんだ愚図が!」


「は、はい!」


 怒声を上げられて使用人はドタドタと慌てて廊下を走り去って行く。


「ぐぬぬ。このことがあの方に知られる前になんとかしなければ」


 自分を追い込んだ大和を忌々しく思っていると突然後ろから声をかけられた。


「ふーん。それって僕のこと?」


「ひっ!」


 聞き覚えのある声が聞こえて泥沼は怯える。


「どうしてそんなに怯えてるんだい? まるで蛇に睨まれた蛙みたいだ」


 クツクツと面白そうに笑う。


「ど、どうしてここにいらっしゃるんです?」


 恐る恐る背後にいる人物に尋ねる泥沼。


「もしかして僕がここにいられちゃまずいのかな?」


「いえ! そんなことは」


 と言うものの恐怖のあまり後ろを振り返れない。気が付けば腹の痛みも忘れていた。


「きょ、今日はどういったご用件で?」


「別に用件ってわけじゃないんだ。ただね、僕は結構君の悪辣さが気に入っていたんだよ。でもどうやら君は屑だが外道ではなかったみたいだ」


「な、何を言ってるんですか。仰ってる意味が私には理解できませんが」


「大したことじゃない。君が外道だったならもっと簡単にことが済んだって話さ」








「ヘックシュン!」


「大丈夫ですか大和さん? 少し休憩します? さっきからずっとつくねを焼いてますし疲れたんじゃ……」


「大丈夫大丈夫。きっと誰かが俺の噂でもしてるんじゃないかな」


 と俺は返す。


 屋台の方は順調だ。さっきからずっと客がきているおかげで今日の分は完売できそうだ。


 まったく、泥沼の野郎が外道ではなくクズでよかった。


 もしやつが外道だったらあいつは俺たちと交渉なんかをせずに暗殺なりなんなりしていただろう。そうすればつくねの作り方は失われるが面倒事がなくなるからな。多少なりとも不穏な噂が流れるがそんなものあとでどうにでもできるし。


 まあもちろんそうなった時の対策も考えていたが。


 ともかく一番安全な方法で解決できた。


「あっ、まこちゃん。そのつくねはもう少し焼いてね。生焼けは恐いから。じゃないと誰かみたいに腹痛になるからさ」

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