番外編 蓮と紫苑
「紫苑様」
「なんだ蓮」
「少しお休みになられたどうですか?」
部屋にやってきた蓮は紫苑の前に積まれた書類の山を見ながら進言する。
「休んでいられるか。あの禿爺が蛇骨の国のことをあたしに丸投げにしてくれたおかげでやらねばならないことが多いのだ」
紫苑の前に積まれている資料は全て蛇骨の国に関する資料だ。
「とりあえず一刻も早くこの資料を読み込んで打開策を打ちださなければならない。あの国もあの国で潤っているのは中央だけで地方にいけば家臣共が好き勝手やっていたおかげで悲惨な有様だからな」
紫苑が資料をざっと見た限り地方の年貢の取り立ての記録はずさんでかなり記録を誤魔化している跡がありありと見える。このことには蛟傭水も気が付いていても余計な不和を生むために手が出せなかったのだろう。こういった資料を送ってきたからにはそこをなんとかしろと暗に言っているようなものだ。
「では蛇骨の国のことは放っておきますか?」
「それはできないな。そんなことをすれば反乱の芽が育つだけだ。それならば蛇骨の国を取りこんで次なる戦に備える方が得策だ」
「次なる戦ですか?」
「ああ、前にも言ったがあたしらが蛇骨の国を打ち滅ぼしたことで他国も黙ってはいない。特に大国の天虎と地龍の国なんかは何かしら動いてくるはずだし、他国もなんらかの行動を移してくるだろうからな」
「それまでに足元をすくわれないように地盤を固めると言うことですか」
「そうだ。まあ今回の戦のおかげで不正を働いていた輩はそれなりに死んだようだから蛇骨の国の件はなんとかなるだろう。それで、お前の用件は何だ。あたしに休めといいに来ただけではあるまい」
「はっ、実はここ最近窮鼠の国の辺りから盗賊が流れてきているようです。強さも大したことなく装備もろくなものがないことから農民崩れだと思われますがどうしますか?」
「農民崩れか。あの国は溝鼠どもの巣窟だからな。農民共も哀れだが略奪に手を出したものは容赦なく処罰しろ。流民として流れてくるのなら手厚く保護してやれ」
「はっ!」
「それと窮鼠の国に行く街道を通る連中には盗賊が出るという触れを出しておけ。あとは自己責任だ」
「わかりました」
「用件がそれだけなら出ていけ。あたしはもう少し資料に目を通さないといけない」
「ははっ」
蓮は恭しく頭を下げると仕事の邪魔をしてはまずいと考え部屋から退出する。
「……しまった。結局紫苑様を休ませることが出来ていなかった」
部屋から出て紫苑を休ませることができてないことに気が付く蓮。一度出た手前戻るのも気まずい。それに蓮とて紫苑と同じまではいかないが処理する仕事も残っている。
「こういう時九十九殿がいれば心強いのにな」
蓮はすでに旅立った人物のことを残念そうに思い返す。
「今頃九十九殿は何をしているだろうか?」
本日22時より戦国乱世で愛を叫ぶ! 窮鼠の国編の投稿を開始しました。
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