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番外編 まだら

 蛇骨軍敗走。総大将の蛟艦水は千鳥紫苑に討ち取られ、味方は鳥綱軍に寝返るものと撤退を開始するものが続出。


 まだらは座敷牢にてその報告を受けていた。


「ふーん。まさか空から奇襲とはさすがにこれは僕にも予想外だったな。もし僕が出陣していたとしてもこれをやり過ごせたかどうか……」


 自身が出陣してこの予想だにしない奇襲をやり過ごせたどうか考え珍しく苦虫を噛み潰した表情を浮かべるまだら。


「千鳥紫苑。やっぱり侮れない人物だな」


 と思案顔を浮かべるまだらに座敷牢のもう一人の住人である伝令役の男が質問する。


「これからこの国はどうなるのでしょうか?」


「どうもこうもこの国は鳥綱に取り込まれるんじゃないかな。お馬鹿な大将が死んだせいで跡取りもいないから後々国を治める人間もいなくなっちゃったわけだし、この敗戦のせいで鳥綱の国との交渉はこっちが不利になっちゃったしね。本当なら兵を引かせてこちらが有利に交渉を進めようとお館様は考えてたみたいだけどそれも無駄になったわけだ」


「それでは向こうはお館様の首を差し出せと要求してくることもあるということでしょうか?」


「可能性としてはあるけど限りなく低いと思うよ。お館様は民に慕われているからお館様を殺せばこの地域での支配が難しくなる。そうなると困るのは千鳥紫苑だ」


「どうしてです? 謀反を抑えるために旗頭であるお館様の命を絶つのは定石では?」


「確かにそれも一つの手段だ。けど千鳥紫苑はそこまで愚かじゃない。この国を倒してもまだ周辺の国々がどう動くかわからない以上無用な反乱はさけたいはずだ。戦を終わって疲弊したところをつけ狙う国も出てくるかもしれないしね。どっちにしろ鳥綱の国としては勝っても負けても厳しい状況に変わりはないのさ」


「なるほど。ではお館様の命はご無事ということですか」


「そういうことさ。けどどちらにしろお館様は病のせいでもう長くはないと思うけど」


 まだらは如水城にて病に臥せっている蛟傭水の身を案じながら如水城へと帰還する。







 それから一週間後、座敷牢から出て無事に如水城へ帰還したまだらは蛟傭水に帰還の報告にやってきた。


「よく無事に帰って来てくれた。元気そうでなによりだ」


「お館様も元気そうで……というか少し元気過ぎでは?」


 とまだらはやや驚き混じりに言う。


 まだらの知っている蛟傭水は病に臥せっており布団に寝たきりで食事もろくにとれず頬が痩せこけていたはずだ。


 それが今目の前にいる禿頭の老人は元気よくおにぎりにかぶりついていた。


 まるで元気だった昔を彷彿とさせる姿だが、医者が匙を投げるほどの重病だったのにどういうことなのだろうか?


「かっかっかっ! 儂もこれには驚きだ。飯がこんなに美味いと思うのも久方ぶりだしの」


 とおにぎりを頬張る蛟傭水。


「本来なら雲雀の孫と一戦交えたら死ぬ覚悟だったのだが、あの男――九十九大和に殴られてからは不思議と身体の調子がよくなってのう」


「……」


 そんな馬鹿なと呆れそうになるがまだらは以前に蛟傭水からもらった文を思い出す。


「それはもしやあの男が文に書いてあった通りのお方だったということですか?」


「……」


 ピタリとおにぎりを食べる手を止める蛟傭水。さっきまでの陽気な雰囲気は消え失せ今は真剣な表情でまだらを見据える。


「わからん。儂にも確信は持てんのだ。何しろ昔のこと過ぎて正確な情報は残っておらんからの」


「もし、お館様の予想が正しかったとしたら?」


「間違いなく時代が動くだろう。この乱世の世を終わらせるほどのなことが起きてもおかしくはない。その際にお前はあの男のそばで支えて行かねばならぬのだ」


「それゆえにあの男との婚姻を画策したのですか?」


「無論だ。だがあの男はなぜだか頑なに拒んでおったがな。お前が女としての魅力がないからか?」


「っんん! それはきっと僕があの男と敵対していたからです。別に女としての魅力は関係ないです」


「そうか? その黒染めの陰陽服とか色気とか皆無だぞ。なんとか許嫁の立場として交渉したがそんな格好では男は落とせぬぞ」


「……ぐふっ」


 ズバッと言う蛟傭水に少し傷つくまだら。


「おまけにあの男は嫁探しをするとか諸国を旅するらしいぞ。大丈夫か」


「ならば僕も一緒に旅をすればいいのでしょう。その間に僕に夢中にさせてみせます」


「ふーむ、お前は呪力や知力は高いが女子力は低いからな。心配だ」


 と腕を組みながら考え込む蛟傭水。


「それよりもお館様! 僕が旅に出たら今後この国をどうするおつもりですか。僕はそっちの方が心配ですけどね」


「そのことなら心配はいらぬ。儂はこの国の行く末は千鳥紫苑に任せるつもりだ」


「なっ! それはどういうことです」


 蛟傭水の発言にまだらは信じられずに真意を問う。


「儂は名将だとか名君だとか言われているがしょせんは先代から引き継いだものを守っておっただけにすぎない。そのせいで地方の家臣達が好き勝手にやっていたのも仕方のないものだとして見逃してきた」


 地方の好き勝手やっていた家臣達とは朽縄城の城主とかのことを言っているのだろう。そのことはまだらも知っていたし、それを処罰すれば他の家臣達と揉めることとなることも知って容認してきた。


「おかげで自分の膝元では民たちが幸せに過ごしていたが地方の民たちのことはほったらかしにしておった。それに儂は息子の横暴にも目を瞑ってきた男だ。それに比べてあの千鳥紫苑と言う者は不正を行う者は誰でも処分する。例えそれが肉親であろうとな。儂にはそれが出来なかった。あの者ならこの国に蔓延る腐敗を正してくれるであろう」


「ですが千鳥紫苑というのは薬で言うのなら劇薬です。刺激が強すぎれば薬とて毒にもなります」


「だろうな。だから腐敗を正してくれたら旗色を変えればいい話だ。それまで雌伏の時だ」


「なるほど。さすがお館様。転んでもただではすまないということですか」


「そうことだ。お前は気にすることはない」


 そう言って蛟傭水はまだらを下げさせる。そして一人になった部屋で蛟傭水は不安を口走る。


「もっとも、儂の命がそこまで長く持つかどうかわからぬがな」


 体調がよくなったとはいえいつ往生してもおかしくはない歳だ。そうなった際にこの国の行く末がどうなるか不安は残るが、まだらにはあえてそのことを伝えなかった。まだらにはこの国だけでなくその先を見てほしかったからだ。


「九十九大和。儂の弟子を頼んだぞ」







「大和はどこにいるだろうか」


 大和が嫁探しの旅に出ると聞いてまだらは如水城を出発して鳥綱の国までやってきた。


「珠」


 まだらがそう呼びとどこからともなく珠があらわれる。


「……」


「珠、大和を探してきてくれ。僕はここら辺を散策してくるから見つけたら報告を頼むよ」


「……」


 珠はコクリと頷くとすぐに姿を消す。


 まだらは街をうろつきながら大和がいないか探す。


「にしてもこの国はやっぱり活気があるな。他の国も活気がある街はあるがここはそれとはまた違った活気がある気がする。道中も賊に襲われることもなかったし、貧困に苦しむ村もほとんど見なかった。やっぱり千鳥紫苑の手腕は恐ろしいな」


 などと考えながらうろつくまだら。前に来たときは商人の大沼という男を使ってこの国を内部から落とそうとしに来たが、こうやって街を見て回るのは初めてだった。


「あれはつくねの屋台か」


 街の一角にある屋台を見つけまだらはつくねを買う。


「うーん。美味いな。肉の旨味もさることながらこのたれが絶妙な味をかもしだしている。このたれを考えた大和はすごいな」


 とまだらがたれの味に感心していると珠がやってきた。


「おや? もう見つけたのかい?」


「……」


 珠は首を縦に振り肯定する。


「思ったより早かったね。ご褒美にこのつくねをあげよう」


 と言ってまだらは屋台で新たにつくね買って珠に差し出す。つくねをもらった珠はそれをじーっと眺めながら一口食べると少し瞳を開いて驚くと瞬く間につくねを食べ終える。


「美味しかったかい?」


「……」


 珠はぶんぶんと首を縦に二回振り答える。


「君がそこまで感情をあらわにするなんて珍しいこともあるもんだ。さて、それじゃあ僕の許嫁に会いに行くとしようか」


 まだらは珠に教えてもらった大和がいる場所を目指し歩く。

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