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「敵襲! 城内に敵がしんにゅ――」
「推して参る!」
「――ぐはっ」
「おのれ――ひうっ」
敵襲を知らせる見張りの兵士に蓮ちゃんの槍が一突き。さらにそれを見て襲い掛かろうとしてきた兵も返す刀で瞬時に仕留める。
これが戦場で蓮ちゃんの姿。今まで間近で戦う姿を見たことがなかったけど、雄々しくてそれでいて洗礼された無駄のない槍さばき。まるで戦場に舞い降りた戦女神のようだ。
「足を止めている暇はないぞ。 このまま一気に登りつめるぞ」
「ああ!」
思わず蓮ちゃんの姿に見惚れてしまったがすぐに気を取り戻して城の中へと走り出す。
この城は外観のとおりなら四階建て。残り時間は約二〇分ほど。一つの階を五分で突破しないといけない計算になる。それ以上時間をかければ城門に集まった兵もやってきて勝機はなくなる。シンプルな作りのせいでこういう時は時間を稼ぐことができなくて厄介だ。
「曲者め! ここは通さぬぞ!」
さっき倒した見張りの声を聞いてどこからか別の兵がやってきた。
「邪魔だ!」
俺は目の前にやってきた敵兵に躊躇することなく斬り伏せる。
それを皮切りに次から次へと敵兵が襲い掛かってくる。
俺たちはそいつらを斬り伏せながら進む。
城に突入してすぐは一人二人と襲い掛かってくる数も少なかったが、城の中を進めば進むほど敵の数も増えてきた。そのせいでこちらの移動スピードが落ちてきている。
しかし敵も突然の奇襲で混乱状態のようだ。兵たちに統率はなく数は多いが動きがまばらでまとまりがない。
これなら一気にこの階を突破できるかもしれない。
問題は上に上がる階段がどこにあるかだ。上に比べてした方がフロアが広いのだから階段を探すだけで一苦労だ。ここでモタモタしていたら敵が持ち直してしまう。
だがこういう時に闇雲に探すのは得策ではない。
考えろ。どこに階段がある?
俺ならどこに階段を設置するか……。
……んーわからん! そもそも俺は建築に詳しいわけじゃないから階段を設置する場所なんて想像できない。
もっと別のアプローチで考えないと。
「曲者め! 覚悟!」
「危ない大和!」
「……っ!」
敵の矛先が頬をかすめる。そしてかわすと同時に刃を走らせ敵の喉元をかっきる。
危なかった。考えすぎていて気が付かなかった。
栞那が声をかけてくれなければ危なかったかもしれない。
「助かった栞那」
「油断しないでください。ここは一瞬の気の緩みが命取りとなる戦場ですよ」
「悪い」
落ち着いて考えようにもこうやって敵が襲ってくると考えるのも難しい。
……ん? 待てよ。敵か。
そこで俺はあることに気が付く。
「みんな、こっちだ!」
そして俺はある一点に向かって廊下を駆け抜ける。
「待て九十九殿! そっちは敵の数が多いぞ」
駆け出す俺を呼び止めようとする蓮ちゃん。
「だからだ! それだけ敵にとっては通したくないってことだろ」
「……っ! そういうことか! ならば先陣は任せろ!」
そういうと蓮ちゃんは俺を追い越し敵が大勢いる方へと向かって行く。
「者共かかれー! 敵をここから先に行かせるではないぞ!」
「「「「うおおお!」」」」
敵も蓮ちゃんの動きを見て気合いを入れて迎え撃つ。
「嘗めるな!」
しかしそんな敵の気合いもなんのその、蓮ちゃんの振り回す槍の前では気概など意味もなく薙ぎ飛ばされる。鎧を着て一〇〇キロ近くある男など紙切れの様にあっさりと吹き飛んでいく。
「我が槍の錆になりたくなければ退け!」
鬼神とはまさに今の蓮ちゃんのことを言うのだろうか。蓮ちゃんの鬼気迫る気迫に敵兵が怯む。
「今だ! 一気に駆け抜けるぞ」
蓮ちゃんのおかげで敵が怯んだ隙に一気に駆け抜ける。
そしてその先には上へと続く階段があった。
「やれやれ、不甲斐ねえ連中だな。侵入者をここまで通しちまうなんてよ」
階段の目の前までくると階段に陣取るように座っていた一人の大男がのそりと立ち上がると一メートルほどある大太刀を構える。
「ここを通ると言うのならこの俺様を倒してか――」
「失せろ!」
「――らぶっ!」
大男が何か言い終わる前に蓮ちゃんの槍で横っ腹を薙ぎ払われ壁へと激突した。
瞬殺だ。
あの大男、何か強者っぽい雰囲気を醸し出していたけど蓮ちゃんの前ではただの雑魚だった。槍が当たった際にメキャッと音がしたからあの男はもう動けまい。
もう俺の策なんてなくても蓮ちゃん一人でもこの城を落とせそうな勢いがある。
……いや、さすがにそれは無理か。現に今の蓮ちゃんは少し息が上がってきている。
「蓮ちゃん。少し無理をしすぎだ。このままじゃ天守まで持たない」
「しかし休んでいる暇はない」
蓮ちゃんの言う通り俺たちに残された時間はない。思った以上に一階で手間取ってしまったせいで五分はとうに過ぎている。敵の増援ももう間もなくすれば駆けつけてくる。そうなればたった六人しかいない俺たちはお終いだ。
「でも蓮ちゃん……」
「心配無用だ九十九殿。私が途中で倒れようともこの中で誰かが蛟傭水のとこまで行けばよいのだから」
「……」
「休んでいる暇はない。行くぞ!」
「お待ちください雲雀様」
蓮ちゃんの部下が階段を駆け上がろうとする蓮ちゃんを呼び止める。
「どうした。話しているほど刻はないぞ」
「我々はここに残り敵が上に上がるのを防ぎます」
「そうすれば多少刻を稼げます」
「どうかその間に蛟傭水のところまで行ってください」
「お前たち……。それがどういうことかわかっているのか」
「「「はい」」」
蓮ちゃんの部下は決死の覚悟をした目で頷く。
ここで敵を足止めするということは敵の猛攻をもろに受けるところということになる。いくい階段の狭いスペースで戦うとはいえ押し寄せる敵の軍勢をたった三人で受け止めるとなると生き残れる保証はない。
蓮ちゃんは部下たちを一瞬だけ切なそうな目で見るがそれ以上は何か言うつもりはないようだ。
「……わかった。綾、那美、玲。ここは頼んだぞ」
「「「はっ!」」」
「行くぞ九十九殿、栞那殿」
「わかった!」
「ここは頼みます」
俺たちはここを蓮ちゃんたちの部下に任せて二階へとあがる。