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「蓮ちゃん。弓矢の射程距離ってどんぐらいあるの?」


 如水城を後にし、一本道の半ばまで歩いてくると俺は蓮ちゃんに訊ねる。


「殺すぞ」


「えっ? あっ! もうここまで離れたら演技しなくてもいいんだよ蓮ちゃん」


「……ん? すまぬ、つい役に入り込んでいた」


「そうなんだ」


 役に入り込むほど複雑な役ではなかったと思うけど。


「おぱーい!」


「栞那ももう演技しなくていいんだぞ」


「おぱーい!」


「えっ? 栞那さん?」


「おぱーい!」


「……」


 ヤバい。栞那が壊れた。


「ふむ。大した集中力だ」


 なぜか感心する蓮ちゃん。


 ……もう何でもいいや。


「それで蓮ちゃん。弓矢の射程距離なんだけど……」


 栞那のことを放置し本題に戻す。


「弓矢か。使う弓にもよるが普通なら最大四町といったところだろうか?」


 一町がだいたい一〇九メートルだから四三六メートルってことか。


「ただ敵に当てるとなると有効射程は四五間ぐらいなるな」


 一間が約一.八メートルだから八一メートルか。飛ばすことはできても当てるとなると相当難しいということだろう。それこそ風とかで流されるだろうし。


「敵の息の根を止めるとなるとだいたいその半分以下ぐらいの距離になるな」


 半分以下か。遠ければ遠いほど威力が落ちるのだから防具を突き破るのは難しくなるだろうし当然だろうな。


 今の蓮ちゃんの言葉をおおざっぱにまとめると、最大射程が約四〇〇メートルで、有効射程が八〇メートル、殺傷射程が四〇メートルほどということになる。


 ってことはとりあえずはこの一本道の半分まで近づくと弓の射程距離内には入るということか。


 ん? けどたったそれだけでこの一本道を敵を死守できるのか? 俺たちには無理だが数が多ければ押しつぶされるんじゃないか? 弓矢の十字斉射でも限度があるんじゃ……ああ、そうか。この国には動きを封じる呪術があるんだった。呪術師が動きを封じて弓矢で仕留めるのが狙いか。


 そう考えるとこの城はこの国の特性を活かしたつくりになっているのか。


「それで九十九殿はどうのように攻めるつもりなのだ?」


「どうしたのもかな? ただ、正面から堂々と攻めるつもりはないかな」


 どう頑張っても正面から戦ってこっちの戦力じゃ勝ち目が万に一つない。


「となると湖の方から回り込むか?」


「いや、湖の方は無理だと思うよ。こっちには船もないし泳いで行けば矢の的になるだけだしね。なにより城を囲う城壁を超える手段がないからね」


「そうだな。こちらは最小限の装備しかないからな」


 と蓮ちゃんも俺の意見に納得する。


 そうこう話しているうちに一本道を渡り終え森の中に入って行く。栞那はあいかわらず元に戻らない。叩いたら治らないかな?


「うーむ。しかしあそこまでいって中の様子が見られなかったのは痛いな」


 惜しむように後ろを振り返る蓮ちゃん。


「それだけ敵も甘くはないってことだね。けど中の作りはそこまで複雑じゃないみたいだけど」


「どうしてなのだ?」


「だってあの門番食料のことを城主に掛け合いに言って四半刻ぐらいで戻ってきたでしょ? それってつまり城門から城へは行くのにそこまで距離はないってことでしょ?」


「おお! 確かに。複雑な作りの城ならもっと刻がかかるはずだな」


「もちろん門番の兵が城主の許可を得ずにやったというのなら別だけど、あの門番は城主のことを慕っていたみたいだし城主を裏切る可能性は低い。となると城の作りが単純もしくは直線距離で城に行けるつくりなのかもしれない」


 これがもし姫路城のような螺旋を描く様にして城に行くタイプになると時間は倍以上かかっていたはずだ。


「さすが九十九殿。たったあれだけの間でそこまで読み切るとすごいぞ」


「そうやって改まって褒められるとなんだか照れるなぁ」


「謙遜することはないと思うぞ」


「そうかな? けどまあなんにせよこれである程度攻略の案が浮かんできたよ」


「本当か?」


「うん。入り口が一つしかないなら正面から入れてもらうとするよ」


「しかしさっき正面突破は無理だと……」


「そうだね。だからこっちから突破できないのなら向こうに入れてもらおうと思う」


「向こうに入れてもらう? どうやって?」


「それについてはまた明日話すよ。まだ完全じゃないしもう少し練ってみるけど、明後日には決行できるようにするよ」


「……わかった。九十九殿にはすまないが頼んだぞ」


「任せてよ蓮ちゃん」


 そう言って俺たちはやや遠回りをしながら奇襲部隊が野営している場所まで戻って行った。


 ちなみに栞那はその後小一時間ほど壊れたオルゴールの様におぱーいと叫ぶとようやく正気に戻った。どうやら途中から記憶が飛んでいたようだった。なんかごめん栞那。

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