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 そして翌日、葛籠を背負い薬屋に変装俺たちは如水城の真ん前までやって来ていた。ここから真っ直ぐ八〇〇メートルほど歩けば城門にたどり着く。


 虎口である城門は遠目からでもこうやって対峙すると圧巻である。


 遠目から見ても一〇メートルを超える高さの城門はまるで来る者を拒むかのよう威圧的に感じられる。遠目でこれなのだから近づいたらどれだけ迫力があるんだか。


 そして目を凝らしてみると城門の兵士がこちらの存在に気が付いているようで視線をこちらに向けて出方を窺っているようだ。


 ……突然弓で射られたりしないだろうな。


 そんな不安に駆られつつ背後に控える蓮ちゃんと栞那に声をかける。


「二人とも手筈通り頼むよ」


「任せてくれ九十九殿」


「……」


 頼もしい返事をする蓮ちゃんとは対照的に栞那はブスッとした表情でこちらを見る。


「どうした栞那? 何か不満があるのか」


「あるに決まってます。どうしてわたしがあんなことを……」


 ぶつぶつと文句を言うが栞那はなんだかんだやってくれる子だから大丈夫だろう。


 ということで俺は如水城に向けて前へと歩み出す。


 如水城に続く一本道は横幅が約三〇メートルほどで先に行けば行くほどだんだんと狭まっていくようになっている。これは敵の勢いを削ぐための工夫なのだろう。道幅が狭まっていることに気付かず突進をすれば味方が邪魔で進みにくくなるし、身動きが出来なくなれば矢の的でしかない。


 道は整備されているが平らというわけでなく少し右に傾いている。これは車輪のついた攻城兵器を真っ直ぐ進ませないためだろう。


 こうやって見ると一本道に様々な工夫がされていて、単調な一本道だが中々侮れない。


 しかし一本道ということは敵からしてみれば負けた際に逃げ場がない。それはつまり生きるか死ぬかのどっちかしか残されていないということだ。


 まさに背水の陣という言葉を体現した城だ。


 正直そんな城を攻めるとなるとやりにくいったりゃありゃしないな。


 とまぁそんな風に如水城について考察していると如水城の城門にたどり着いた。


「はー」


 思わず感嘆の声をあげる。やっぱ間近で見るとすごい迫力だ。重々しそうな門を見ているととてもじゃないが攻城兵器なしじゃ突破はできなさそうだ。まあこっちには攻城兵器なんてないんだけど。


「おい貴様! ここに何のようだ」


 感心していると城門の前に立っていた門番の男が槍をこちらに向けながら声をかけてきた。予想通りの展開にホッと胸を撫で下ろしながら事前に考えていたセリフを言う。


「ああ、すいません。私たちは旅の薬売りでして。森を彷徨っていたらここに出たんです」


「薬売り?」


 俺の言葉に訝しむように観察する門番。


「ええ、そうなんですよ、ほら」


 そう言って俺は葛籠を開けて薬をみせる。


「ふーん。確かに薬売りのようだな」


 門番の男が薬を見て警戒を解く。


「それでもしよろしければ食料と薬を交換してもらえませんか? 森を彷徨っていたせいで食料がなくて……」


「薬と食料をか……」


 考える素振りをみせる門番。


 薬は現代と違ってこの世界では稀少品だ。それこそ一つの村に腹下しの薬が一つあるとかその程度だ。


 戦をするのなら当然薬も必要になってくる。食料でその薬が手に入るのなら悪くはないはずだ。


「……悪くない提案だがあいにく俺の判断では許可できないな」


 と言って肩をすくめる門番の男。


 まあ当然と言えば当然か。たかだか門番ごときが食料を分け与えていいわけが無い。


「でしたらどうか御城主様に取り合ってもらうことは……」


「それはできなくはないがなぁ……」


 チラッと蓮ちゃんと栞那に下心を丸出しにしたやましい視線を向ける。やっぱりそう来るか。だがあいにくそのための対策もしてきている。


「ところでお前の後ろにいるべっぴんさんはお前とどういう関係なんだ?」


「ああ、二人は私の妹で――」


「おぱーい!」


「な、何だ!?」


 突然万歳をするように両腕を上に伸ばし奇声をあげる栞那を見て門番の兵士が胡乱な眼差しを栞那に向ける。すかさず俺がフォローをいれる。


「すいません。あの子は戦で両親の死を目の当たりにして心が病んでしまったんです」


 さも痛ましそうに目頭をおさえ、嗚咽をもらすように喋る。


「そのせいで口を開けばおぱーいおぱーいと叫ぶ始末。治療法を探し薬を売りながら全国を旅をしているんですが未だに見つからず」


「そうか。……そいつはまた難儀なことだな」


 未だにおぱーいと叫ぶ栞那を見ながら俺に同情の眼差しを向ける門番の男。そして栞那には変な物でも見るかのような冷たい視線を向ける。


「じゃあそっちのべっぴんさんは――」


「殺すぞ」


「ひっ!」


 いやらしい笑みを浮かべていた門番の男は蓮ちゃんに殺気を向けられてビビり足がガタガタと震える。

「すいません。この子も両親を失って以来心が病んでしまい近付くものを殺そうとするんです。昨日も危うく私が殺されそうになりましたし。ははは」


「はははって、……あんたすげえな」


 蓮ちゃんの殺気にあてられすっかり毒気の抜かれた門番の男はそう言って苦笑する。


「それで食料との交換の方は……?」


「そうだったな。仕方ない。お館様に確認をとってもらうからちょっと待ってろ」


「助かります。ほら二人ともお礼を」


「おぱーい!」


「殺すぞ」


「何で殺されなきゃならねーんだよ!」


 と文句を言いながら未だにおぱーいと叫んでいる栞那と殺すぞと殺意を振りまく蓮ちゃんを見て顔はいいのにな……と残念なものを見る様に視線を送りながら門番の男は城内に入って行った。


 なんとか蓮ちゃんと栞那にちょっかいを出されずにすんだみたいだ。よかったよかった。心なしか栞那の目が死んでいるのは気のせいだろう。


 けどさすがにどこの者かもわからない行商じゃ城の中まで入れてくれないか。


 それから待つこと三〇分。栞那がおぱーいと叫び続けてそろそろ死んだ目をし本当に心が病むかと心配しだしたころ頃に門番の兵が戻ってきた。


「ほらよ、そんなに量はないがお館様に感謝するんだな」


 と言ってずた袋を差し出してきた。中にはほんの少量の米が入っていた。一合ぐらいだろうか。本当に少ないな。


「助かります」


 心にも籠っていない礼を言い俺も葛籠からいくつか薬を出して渡す。サービスとして馬頭の作った特製馬糞汁もつけておいてやろう。


「そういえば病と言えばここの御城主様も何か患われているとか噂を耳にしました。もしよろしければ何か薬を処方しますが。心の病には効きませんが通常の病なら効くかもしれませんし」


「いや、それは無用だ。卯月の国の薬でも駄目のようだったからな」


 と切なそうに視線を下げる門番の男。それだけここの城主は兵から慕われているのか。


 ともかく城主が病というのは本当のようだ。これは思わぬ収穫だ。


「そうでしたか。卯月の国の薬で駄目となるとこちらの持っている薬では効果は見込めませんね」


「悪いな」


「いえいえ。それでは私どもはこれで」


 と言って俺たちは来た道を戻り如水城を後にした。


 城の中には入れなかったがある程度収穫はあった。


 あとはどうやって攻略するかだな……。

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