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「まだ森を抜けれないのか……」


 デカ鳥に野って森を駆けていると蓮ちゃんがもどかしそうにぼやく。


「焦りは禁物だよ蓮ちゃん」


「しかしこうしている間にも蛇斑城が落ちているかもしれないと思うと……」


「……」


 焦る蓮ちゃんの気持ちもわからないでもない。


 俺たちが蛇斑城を出発してすでに一〇日が過ぎている。だというのに未だに如水城にはたどり着いてはいない。それどころか休憩もろくにとらず森の中をひたすら走り続けている。さすがにデカ鳥も辛そうだ。本来ならこんなはずではなかったはずだ。


 一日目二日目は予定通り進んでいた。だが、三日目を過ぎてからは蛇骨の兵が如水城へ続く街道や山道をことごとく封鎖していたせいで道なき道を進むはめになり到着が予定よりも大幅に遅れていた。


 どうして蛇骨の兵が急に街道と山道を封鎖したかはわからない。


 もしかしたらこっちの奇襲を読んで街道を封鎖した可能性がある。もしそうなら作戦を考え直す必要すらある。


 この奇襲作戦の大前提は蛇斑城に注意が向いて如水城の守りが手薄になっているということだ。


 その前提が崩れたとなるとたった五〇人で如水城を攻め落とすのは難しくなる。ただでさえこの人数で城を攻略するのは難しいというのにそれよりも難しくなるなんて考えたくはない。


 だからといって考えないわけにはいかない。現実を直視せず味方が全滅なんて方がもっと最悪だからだ。


「大和」


 先行きの見えない不安に頭を悩ませていると栞那が話しかけてきた。


「どうした?」


「そろそろ休憩を挟まねば兵が潰れるぞ」


「……」


 栞那に言われてチラリと背後を振り返る。


 後ろを振り返れば連日無理を通して行軍しているせいで兵たちの顔に疲労の色が濃く出ている。もちろん全員のんびり休んでいる暇などないとわかっているからこそ文句一つ言わないが、これ以上走り回るのはまずいかもしれない。疲れ過ぎて戦いでは動けないとなっては本末転倒だ。ここは一度休んだほうがいい。


 俺はデカ鳥のスピードを上げていつの間にか先頭をひた走る蓮ちゃんへと追いつく。


「蓮ちゃん! とりあえずいったん――」


 休憩にしよう、と言おうとするが俺の言葉は蓮ちゃんの言葉に遮られる。


「見えた!」


「えっ?」


 蓮ちゃんの真っ直ぐな視界の先、そこには青く澄んだ湖が広がっていた。湖は広く視界の向こう側まで湖が見える。そしてそんな湖に端の方にそびえ立つ城。


 如水城だ。


 俺たちはようやく森を抜け出ることができたのだ。


「ようやく如水城まで来たぞ。さっそく城攻めに……」


 敵の居城を発見できたことで興奮しているのか、それとも焦りからなのか蓮ちゃんが勇み足でそんなことを言ってきた。


「落ちついてくれ蓮ちゃん。今すぐに攻め込むことはできない。連日連夜走り通しだったんだ。少しでも休まないととてもじゃないが戦うことなんてできやしない」


「……」


 蓮ちゃんも後からやってきた兵士たちの顔色を見てすぐに攻めることは無理だと察した。


「仕方あるまい。では明日に……」


「ダメだ!」


 少しでも早く攻めたい蓮ちゃんに俺は厳しめに言うと、如水城を指差す。


「見てくれ蓮ちゃん。あの周囲を城壁にぐるっと囲まれた堅固そうな城を。あれじゃあこっそり湖の方から侵入することは無理そうだし、こっちには破城槌みたいな攻城兵器もないからあの物々しい城門を打ち破る手段がない。力押しじゃ城内にすら入れない。せめてもっと情報が欲しい」


「しかしその間に蛇斑城が落ちてしまったら……」


「わかっている! けど今のままじゃ犬死だ。もしかしたら敵はこっちの奇襲にも勘付いている可能性だってある。そうなれば敵も警戒している。今のまま突っ込んで行っても万に勝ち目はない! 違うかい?」


「だが……」


「三日だ。三日であの城を攻略する方法を考える。だからそれまで時間をくれ。俺を信じてくれ! 頼む!」


 もう馬頭のように親しい人がむざむざと死んでいくのは見たくない。


「九十九殿……。すまない。間違っていたのは私の方だった。だからなんとしてでも攻略する方法を考えてくれ」


「任せてくれ!」



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