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会話を主体としてやっていこうと思うので説明が足りないところやわかりづらい描写があったら指摘してもらえると助かります。

「ごめんなさい!」


 そう言ってチカちゃんは俺から逃げるように走り去っていった。


 九十九大和つくもやまと。一世一代の告白、失敗。


 誰もいなくなった神社の裏山でカラスの鳴き声だけが虚しく鳴り響く。

 クソッ! 夕日が眩しくて涙が止まらないぜ。


「……うう」


 もう死んでしまいたい。


 何がチカちゃんはお前に気があるから恋が叶うだ!

 何が神社の裏山から夕陽が差し込む瞬間に告白すれば恋が叶うだ!

 何がその神社は縁結びの神社だから一万円以上賽銭すれば恋が叶うだ!


 ダメだったじゃねえかよ。

 エテ吉の野郎騙しやがったな。


 わざわざご縁があるように五万円を全て五円玉に崩して賽銭したってのに。

 いや、つーか待て。よくよく考えたらこの神社あいつの家じゃねーか。


 クソッ!


 全部エテ吉に踊らされてたのかよ。


 恋は盲目ってレベルじゃねーだろ。気付けよ俺。


「不様だな」


 こうなったらせめて金だけでも回収しなければやりきれん。あとエテ吉も半殺しにしよう。


 俺はすぐさま裏山から神社へと行き賽銭箱の前までやってくるが……。


「ない! 五円玉が一枚もない」


 賽銭箱の中は空っぽ。


 ついさっき告白する前に賽銭したのにもうなくなってる。


「なんだよ! 俺にはご縁がないってか、クソったれが!」


 怒りのあまり目の前にあった鈴緒を思いっ切り引っ張る。


 するとブチッと音がして吊るしてあった鈴が俺の頭めがけて落ちてきた。


「あがっ!」


 鈴が後頭部に直撃した俺はそのまま賽銭箱へと頭から突っ込んで気絶してしまった。




 ……。

 …………。

 ………………。



「いてて」


 後頭部に激しい痛みを感じながら目を覚ます。


「ここは?」


 気が付くと森の中だった。


 辺りは無造作に育った木々が生い茂り見たことのない小鳥が囀っている。


 ……どこだここ?


 周囲をキョロキョロと見回すが賽銭箱もないし神社でもない。かといって裏山でもない。


 というか太陽が昇ってるからあれから一晩近く気絶していたのか?


 何が何やらで困惑していると茂み奥からガザガザと音を立てて誰かがやってくる。


「おい、どこに行くのだひょっとこ太郎」


 女性の声が聞こえると茂みから一匹の鳥が飛び出してきた。


「……」


 俺は鳥を見て絶句した。


 その鳥はニワトリとダチョウを足して二で割ったような姿でかなりデカい。目の前に現れた鳥は俺の背より高く、見上げなければならないほどの大きさだった。鳥のくせに馬ぐらいの大きさだ。


 俺はこんなデカい鳥を見たことがない。強いて言うなら某有名RPGに出てくる黄色い鳥ぐらいだ。


 そして鳥にまたがっているのは甲冑を身に纏い腰に太刀と脇差を差し、右手には槍を持った若い女武者。兜はかぶっておらず長い髪をポニーテールのように後ろにまとめている。そしてキリッとした真面目そうな顔に意志の強そうなまっすぐな瞳をこちらに向ける。


 彼女は俺を見ると……。


「きゃ、きゃああああ!」


 悲鳴を上げた。


 不思議に思い自分の格好を見て納得する。


 彼女が悲鳴を上げたのは俺が全裸、つまりフルチンだったからだ。


 神社にいた時に着ていた制服はおろかサイフや携帯すらない。


 なにこれ? なんの罰ゲームだよ。


 未知の場所で全裸になって女の子に悲鳴を上げられるってどういうことだ。


 そして悲鳴を上げた女武者はすぐに我に返ると、真っ赤にした顔で俺をキッと睨み付けながら槍を構える。


「貴様! どこから来た。どうしてこんなところにいる」


 と言って俺の首筋に槍の刃先を突きつけてきた。


「いやー、そのー、ちょっと道に迷ったというか気が付いたらここにいて。いわゆる人生の迷子? みたいな」


 痛っ! 小粋なジョークを言ったら首からツーっと血が流れた。


「くだらん冗談に付き合う気などない。さあ言え!」


 本気だ。この女は本気で斬り捨てる。甲冑を着てるから戦国武将のコスプレかと思ったけど違う。彼女の槍は返り血で赤く染まっていた。ここに来る前にも誰かを殺したのかもしれない。


 もしかしてタイムスリップで戦国時代に来ちゃったとか? でも見たこともないデカ鳥はどういうことだ?


「どうした? 答えぬなら斬るぞ」


「ま、待て! 俺は日本。日本から来た」


「日本? そんな国知らんな」


「えっと戦国時代で言うなら静岡は……駿河の国の生まれだ」


「聞いたことないな」


 怪訝そうに目を細める女武者。


 あっれー? 駿河って戦国時代では知名度低いの?


「今川って人が統治してる国なんだけど知らない?」


「知らん」


 と女武者は即答する。


 おいおい、今川さん。東海一の弓取りとか言われたくせに全然知られてないんですけど。そんなんだから桶狭間で信長にやられちゃったんだよ。


 いや、そもそもここは日本じゃないかもしれない。デカ鳥とか意味わからん生物がいるし。


「じゃあ源義経とか聖徳太子って人知ってる?」


 適当に有名な歴史上の人物の名前を上げてみる。


「誰だそれ?」


 彼女の反応からして本当に知らないみたいだ。


 ということはここは日本じゃないのか?


「ちなみにここはどこなんです?」


「ここは鳥綱ちょうこう。我が主君千鳥様が治める国だ。知らないとはいわせないぞ」


「えっと、領主どころか国の名前すら知らないんですけど」


「はぁ? なら貴様はどうやってここに来たんだ?」


 どうやってって……。


 告白してフラれたあげく信頼していた友達に金を騙し取られ気が付くと全裸で森の中。今は槍を突きつけられて絶体絶命。


 あれっ? 目から水滴が。おかしいなさっきまで晴れていたのに雨でも降って来たのか?


「おい、いい年した男が泣くな」


「……殺してくれ」


「ど、どうしたんだ急に」


 さっきまで殺すと勇んでいた女武者は俺の言葉を聞くと急に心配そうに声をかけてきた。


「俺なんてもう生きていたってしょうがない。好きな子にはフラれるし、友達だと思ってた男からは金を騙し取られる。こんな意味のわからない世界に来ちゃって殺されかかってるし。もういっそのこと君みたいな可愛い女の子に殺されるんだったら本望だ」


「待て待て待て! 私はお前がさっき討伐した山賊の一味じゃないかと疑っただけだ。殺したりしないから死ぬなんて言うな。だいたい女に振られたり騙されたぐらいで死ぬな」


 女に振られり騙されたぐらいだと……。


「十年」


「えっ?」


「十年もずっと片思いだったんだ。彼女に好かれようと彼女の趣味を調べたり後をつけたりと色々努力してきたのに」


「……」


「友達だったやつは幼稚園からの仲だった。チカちゃんの情報も友達価格で一つ千円で教えてくれた」


「……」


「何もかも失った俺は何を生きがいに生きていけばいいんだ」


「よ、よくわからんが元気出せ。生きていればいいことがあるぞ」


 女武者はデカ鳥から降りるとやさしく俺の頭を撫でてくれた。


 見ず知らずの俺にこんなにやさしくしてくれるなんて。彼女は女神なのか?


「うおお! 結婚してくれ」


「ちょ、は、離せ。抱き着くな!」


「もう俺には君しかいない」


「黙れ! 斬るぞ」


「君に殺されるなら本望だ!」


「なんだこいつは! 気色悪い! だいたい私には婚約者がいる」


「……えっ?」


 俺はショックのあまり固まってしまう。その隙に彼女は俺から距離を取る。


「婚約者? 大根役者じゃなくて?」


「ああ。お爺様が決めた婚約者がいる」


 そ……んな……。


「殺してくれ。もうこの世に希望なんてない!」


「待て待て待て。早まるな。契りを結ぶことはできないが友でよかったらなってもいいぞ」


「本当か!?」


「そうそう死なれては寝覚めが悪いからな。私は雲雀蓮ひばりれんだ」


「俺は九十九大和だ。これから蓮ちゃんのためにこの命尽きるまで誠心誠意尽くすよ」


「いや、そこまで尽くさないでいい」


「そ、そう?」


 友達とはそういうもんだとエテ吉が言ってたんだけどな。


「とりあえず屋敷に帰って何か着る物をとってくる。その格好じゃ町に入れないだろうし。お前が何者なのかちゃんと話を聞かないといけないしな」


 そういえば俺は全裸だった。さっきから目を合わさないように話してたのはそういうことだったのか。


 それなのに俺は蓮ちゃんに抱き着たりして申し訳ない。そんな男がいたら俺だったら間違いなく斬り捨てる。


 やっぱり蓮ちゃんは女神だ。


「報告とかあるから少し遅くなるかもしれないが変なことはしないようにな」


 そう言って蓮ちゃんはデカ鳥にまたがって走り去っていった。


 まったく、善良な俺が変なことなんてするわけないのに心配性だな。


 しかし蓮ちゃんはいい子だなぁ。最初は殺されるかと思ったけどこんな身元不明の俺に優しい言葉をかけてくれるし。おまけに服まで用意してくれるなんて。婚約者がいなければ彼女に惚れていたかもしれん。


「ん?」


 蓮ちゃんが走り去った方向とは反対の方からガサガサと茂みをかきわけて誰かがやってきた。


「おい蓮! 何があった!」


 慌てた口調でやってきたのはデカ鳥にまたがった女武者。その女武者も兜はつけておらず前髪を横に切りそろえたロングの姫カットという髪型だった。蓮ちゃんよりも身分が高いのか蓮ちゃんの着ていた甲冑よりも煌びやかな作りの甲冑を着ている。


 口振りからして蓮ちゃんの知り合いだろうか? もしかしたら蓮ちゃんがさっき上げた悲鳴を聞いて駆けつけてきたのかもしれない。


 蓮ちゃんの知り合いらしき人物は全裸で突っ立てる俺を見て、切り揃えられた髪から覗くつり上がった目がさらにつり上がる。


「そこを動くな変態野郎」


「ちょ、まっ!」


 俺が弁明するよりも早く彼女はデカ鳥から降りると腰に差した太刀を抜いて襲い掛かってきた。


「ぎゃあああ!」


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