堀、出しもの
「さぁ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! ここに置いてある本、すべて百円だよー! 本日限りの販売だよ!」
朝八時。高校の昇降口に大声を上げて客引きをしている男子生徒がいた。
その名は、堀。
校内では随一の本好きとして、ちょっとした有名人である。
昇降口の前には本の山。何十冊も詰まれてできた本のタワーに囲まれて、彼は座っている。
「あなたの探していたあの本が! 読みたいと思っていたあの漫画が! なんとたったの百円で買えちゃうよー! さぁ、見てって。早い者勝ちだよ!」
登校してくる生徒たちに向かって、扇子を床に打ちながら声をかけていく。
五分もしないうちに人が集まってきた。
「おっ堀じゃん! 何やってんの?」
「おお、前田か! 見ての通り本を売ってんだ。ちょうどいい。お前の好きな漫画もあるぞ」
堀は、クラスメイトの前田に漫画の山を見せる。
「んー、そうだな。お前なら一冊五十円で売ってやるよ」
「まじかよ! これも? ええっ、これも! やべぇテンション上がってきた!」
「ああっ、持ってけ泥棒!」
堀は前田から千円を受け取ると、二百円のお釣りを返した。
「まいどありっ!」
「サンキューな!」
前田は本を抱えて下駄箱へ入っていった。
しばらく堀の商売は続いた。
時刻は八時二十分になり、本の在庫も残すところ、あと少し。堀は立ち上がって叫ぶ。
「さぁ、残りはわずか! ここからは半額の一冊五十円で売っちゃうよ! 今がチャンスだよ! 今日限りだよ!」
残った本は人気のないものだったが、安いこともあって始業五分前にはすべての本を売り終わった。
「ふぅ、なんとか全部売れたな」
堀はお金をかばんに入れて、下駄箱前を掃除した後、帰宅した。
それからその高校で、堀の姿を見ることはなかった。
どうも、田崎史乃です。
前田の友人、堀が今回の主役。
「誰だよ、そいつら」
と思った方は、私の他の作品を読んでみて下さい。
(読んでもわからないかもしれませんが……)
あと「自分探し」って、古いですかね。ま、いっか。
よろしくお願いいたします。