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乙女ゲームなブームに流された作者。
そのピンク色の逆三角マークはなにか。
「なにそれギャグ?」
毎朝の代わり映えのしない登校から、教室に入る際、私はどうしてもどうしても言いたいことがあった。ちらりちらりと目の端に写り混むピンク色の逆三角マーク、それが何かはわからないが言いたいことがあったのだ。
癖のないストレート、短めに揃えた清潔間溢れる髪型を持つ男子生徒の頭の上にあるそれ、どうしても突っ込みを入れるべきだと、ずっと心が叫び続けている。
「田所…お前いきなりなんだよ」
「いや、それギャグかなにか?その頭のやつ」
「は?」
教室に入った瞬間、私はとある男子生徒の前に立ち塞がった。進路を阻まれた彼は怪訝そうな顔をして、私の名前を発した。
因みに、私の名前は田所、あえて名前は語らない。
「だから、その頭の上の逆三角マーク」
指を向けてほらほらここにあんじゃねぇかと指摘をするものの、彼が気づく様子がない。
彼は頭の上に何度も手を置いたり、払ったりをしてはいるものの、その手がピンク色の逆三角に届く様子は一行にない。一心不乱に寝癖か?とぼやきながらさ迷う手を見て、こいつ馬鹿なのかと呆れてしまう。
そんな馬鹿っぽい彼の名前を紹介しよう。
彼の名前は、遠矢 卓と言う。
万年平均点を取り続けるな私とは違い、優秀で勤勉な成績を納め、教師を常に笑顔にさせている人物であり、また、彼はこの高校において絶対的な存在である生徒会に入っていた。
生徒会という存在は、この高校では特殊な立ち位置にあり、生徒に対する干渉という面で大きな権限を持っている。勉学はもちろん、その他のジャンルにおいて優秀能力を持つ生徒たちを集め、放課後に特別なクラスを設けることによって将来の成長を支援、期待しているものだ。
というのは建前で、ただ優秀で使えそうな人物を集めて生徒会に多くの人脈を築きあげることが目的だそうな。私にはよくわからない。
ぼうっとしていると、扉がガラッと開く。
「遠矢、お前なにしてんだ?」
「澤渡先輩…いやなんか、田所が頭の上になんかあるとか言ってきてですね」
「頭?なんもついてねーぞ」
プリント片手に入ってきたのは長身の男子生徒だ。
クラスメイトである遠矢と会話を始めたこの男子生徒も、生徒会の一人である。
名前は澤渡 楓である。
「そういや、これ先生から渡された生徒会用のプリント。今週の生徒会配布物は俺が当番だから回ってたんだが、取り込み中みたいだったな…邪魔して悪かった。田所さん?」
気づいてしまった。
ここに来た理由を告げた男の頭、長身だから見えないと思って油断をしていたが、謝る際に軽く頭を下げた。
瞬間、私は嘘だろうと目を逸らす。
澤渡先輩の頭の上にも遠矢と同じようにピンク色の逆三角マークがプカプカと上下運動を繰り返していたのだ。
「田所…」
「なんか俺、嫌われてるっぽいな。じゃ、プリントは渡したし、今日の朝礼に遅れないようにな」
澤渡先輩は私の頭を勢いよくわしゃわしゃと撫でると、颯爽と教室を後にして行った。
本来そこまで交流のなかった私と遠矢の間に気まずい空気が流れる。
「相変わらずだな澤渡先輩は、誰の頭でもああして撫でていくから直ぐに女子が勘違いするんだろうな」
「えー、あんな風にやられたら髪も乱れるし最悪だと思うけど」
「……そうか」
「おーい、お前らそろそろ時間だぞー」
そのまま黙り混む遠矢を尻目に、前の扉から先生が朝礼のために体育館へ出発しろという声が響いた。
その後、体育館に着いた私は気づいてしまった。
朝礼のために並びだした生徒たちの中にちらほらと見えるピンク色の逆三角マークを見つけたのだ。
後輩が並んでいるほうに一つ。
同級生が並んでいる場所に二つ。
先輩が並んでいる所には三つも見える。
そして、その斜め前に並ぶ教師陣の中に一つ。
遠目だから誰の頭の上に付いているのかは確認出来ないが、あれは特定の人物に付いているのだろう。
合計して七個あるピンク色の逆三角マーク、一人は同級生である遠矢 卓、もう一人は上級生の澤渡 楓ということはわかるが、その接点は生徒会の人間ということだけだ。
生徒会の人間は二十人もいるから、その全てにあの逆三角がないし、教師のうち誰か一人にも付いているのということは生徒会限定の印ということではないのだろう。
こうして私は日常生活において突如出現したピンク色の逆三角マークの謎を解こうとするのだが、必死になってその謎を追い求めていくうち、その色が変化したり、形状が三角から丸に変化したりすることによって多いに混乱を重ねていくのである。
この世界が乙女ゲームの世界とも知らず、頭の上に浮かぶ謎の物体を追い求めていくうちに、攻略キャラである彼らのイベントをこなす私の未来を、まだ誰も知らない。
続くかどうか謎です。