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『前代未聞の食い物だぜ!知りてぇか!?その名もハンペンだ!』略して前編

翌日、学校の屋上。

フェンスの上に腕を組み、顎を乗せ、校門を見つめる。

私はある人を見ようとしていた。私の日課。これは、魂になっても変わらない。


「なぁなぁ、何やってんの?」


隣の氷室耕一とかいう男が話し掛ける。

この人はずっと私にくっついてきている。


私は一瞥する。


「……あなたには関係ないでしょ。」


「つれないねぇ。」


「というか、なんであなたは私についてくるの?」


「貴女の事が、好きだから……。」


「…………。」


「……こほん。昨日も言ったろ?俺は成仏屋。アンタを成仏させにきたんだ。」


そう、この男は私を成仏させにきた。

あの世には、そういう職業が存在するらしい。

魂は生まれ変わる。

死んだら次の命へ、その命が尽きたらまた次へ。

だけど、私みたいなこの世に未練がある人は生まれ変われないらしい。

その命の循環を円滑にするために、成仏屋が存在する。と言う事だ。

成仏屋はこの世への未練を取り除くまで、ずーっとくっついてくるみたい。


「氷室さん、私は成仏屋なんて必要ないです。」


「まーまー、いたら便利だぜ?一時的だけど、魂をこの世に実物化させる事だってできんだ。」


「いらない。私は成仏する気なんてないですから。どっかに行ってください。」


「嫌!私、あなたについていくって決めたんだから!」


「…………。」


「ま…まぁ、これも職務なんだ。俺のことは気にすんな。気体だと思え。スモッグガスだと思え。」


ずいぶんと有害な気体だね。


氷室さんは座り込んで、煙草に火をつけた。


私は、視線を校門に戻す。校門には登校中の生徒。

その中に、目当ての人物が現れた。


そう、その人物は小坂君。私は朝早く学校に来て、登校中の彼をいつも屋上で見るのが日課だった。


勉強や部活動、いや、すべてに興味が湧かなかった私が初めて興味をもった人。


私は、勉強は努力しなくてもそこそこできたし、運動も得意だった。

外見も、すごい綺麗とまではいかないけど、それなりには整っている。

すべてが中の上。だから、何にも興味が湧かなかった。


そんな時、小坂君に出会った。

小坂君は、いつも何かに一生懸命になっている。

勉強や部活動、趣味の釣りも、すべでに全力で取り掛かる。

一度、友達とみんなで釣りに行って、小坂君は

「シャァァ!!魚来いやぁ!!」

とか言いながら、静かに釣り糸を垂らしてたな。


そんな姿に、私は次第にひかれていった。


でも、この思いも、二度と届かないのだろう。


「…小坂君…。」


この声だって、届かない。


「ふーん、片思いの彼ねぇ……それが原因か。」


私は思わず、飛び上がってしまった。


「なっ…!なんでそれを……!」


「成仏屋は読心術もできるのだよ。」


氷室さんはフフン、と鼻をならす。


「……テー…」


「え?何?今日のうんこは一段とかてぇ?」


「サイテーって言ったの!このバカ!」


バチーン!


氷室さんの頬を思いっきり平手で叩く。


「やべぇ目覚めそう。」


「変態!」


私はそう言い捨て、視線を戻す。

小坂君は、すでに建物の中に入ってしまったようだ。


「…ハァ……」


「ずっとそうやってんのか?」


私は氷室さんを見る。


氷室さんはあぐらをかきながらフェンスによりかかり、手を頭の後ろで組んでいた。


「ずっとそうやって、遠目から見つめて。アンタはそれで満足なのか?」


私は氷室さんの隣に座り、膝を抱える。


「そりゃ…告白とかしたいけど……。」


「じゃ、すりゃいいじゃねーか。」


「したいけど!」


私は頬を膝に乗せる。


「したいけど……できないよ…。私、死んでるんだもん……。告白しても意味ないよ。」


「いや、そいつはどうかな。」


「え…?」


「いや…まあ、死んでても死んでなくても思いをぶつけるのに意味なんていらねーだろ。大切なのは心だよ。」


「でも、それが小坂君の重荷になったら…?」


「カーー!男っつーのは、重荷を背負ってなんぼなんだよ。それに、そういうのを重荷だって思う奴なのか?」


「小坂君はそんな人じゃないよ!」


「だったら、告白しなさいよ。」


この人は、そんなに私を成仏させたいのか…。


私は、少し軽蔑しながら氷室さんを見た。


だけど、氷室さんの目は真っすぐだった。


この人は、損得勘定なんてしてないんだろう。ただ心から、私の未練をなくそうとしているのだろう。


そう思わせる目は、少し小坂君に似ていた。


氷室さんが、私に笑いかける。


「小坂君って奴も、自分を思ってるせいで成仏できないなんて知ったら、そっちの方がいい思いしねーって。それに、」


氷室さんは、私の頭にポンッと手を置いた。


「こんなかわいこちゃんに好かれるのに、悪い思いなんてしないよ。」


「……告白……してみようかな……。」


「おお!決まりだな!よし、そうとなりゃあ俺も手伝うぜ!」


「……フフ。」


「ん?どーした?」


「なんか、氷室さんって、お兄さんみたい。」


「……お兄さんじゃなくて、お兄ちゃんって言って?」


「…?…お兄ちゃん。」


氷室さんは頭を抱え、地面を転がり、悶絶していた。…大丈夫かな…。


「…ハァハァ…じゃあ今度はお兄ちゃん大好きって」

「言いません。」


氷室さんは膝と手を地面について、ものすごく落胆していた。

…大丈夫かな…。


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