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再会(前半)

開いていただいてありがとうございます。


先ほど開いてびっくりしました。


日間一位。


確かに、投稿するからには一回は一位を獲ってみたいとは思っていましたが、まさかこんなに早く実現するとは……。


お気に入り数も1000人を超え、至極光栄に思います。


こんな駄文ですが、これからも読んでいただけたら嬉しいです。


王都『ベルゼア』と『鬼人の森』の間は、二十キロほど何もない荒原が広がっている。

草木は生い茂っておらず、水っけを感じさせない大地には、水分をあまり必要としない草か、厳しい環境に耐えきって初めて実らせる薬草か、風で粗く削られた岩くらいしかない。

道も舗装されている様子もなく、人の気配も全くと言っていいほど感じない。


「……寂しいな」


そんな荒原にポツンと歩いているルークは、ついつい言葉が口から出てしまった。


村を出てから三日目。

森から降りる際に、門出のプレゼントと言わんばかりに魔物が次々と襲って来て大変だった。

ルークは最後に、と思ってご丁寧に一体ずつ確実に仕留めてやった。

その際に剣にこびりついた生臭い血の匂いがさらに魔物を呼んで、そいつらを片づけて、また魔物が集まって、片づけて、とその繰り返しだった。

ルークの予定としては二日もあれば森を抜け出せるはずだったが、結果的にそのせいで時間を余分に消費してしまった。


無人の荒原に、血の匂いが風に乗って漂っていく。

しかし、ここは森ではない。

魔物も来る気配がない。


とても静かで寂しい地。

何だか昔の自分を見ているようだ。

ルークはそう感じて、いつかこの地を草木でおい茂らせたいな、何て思いながら、てくてくと歩いて行った。






森をぬけ出してから約二時間半。

ルークはついに王都にたどりついた。


「ここが……」


目の前に高らかに存在している門を見上げて、ルークはポカーンと口を開く。

今まで誰かの口づてでしか聞いたことのなかった王都、それを間近に見て、想像以上の圧倒感があるのに、驚愕を隠せないのだ。

今まで見たどんな防壁よりも存在感を放ち、そこから先へは行かせんと、気迫が伝わってくるほどだ。


ルークは数分、そのまま気を失っているようにも見える表情で眺めてから、門に向かった。

門には数人の門番が槍を持って、王都に入ってくる者の身元を確認している。


「おいお前、身分証明をするものはあるか?」


一人のがたいのいい門番が、ルークの元に歩み寄って、高圧な態度で聞いてきた。

門番が高圧な態度を取るのは、ルークが明らかに冒険者の恰好をしていたからだ。

鬼人の村で織られた土色のシャツ、その上には薄汚れた、コートというにはやけにモノさみしさを感じさせる布をかぶっている。同じく村で織られた大きめのズボンに、裾まで覆う安物の靴。腰には細長い剣がつるされている。

誰がどう見ても貧乏冒険者だ。


「……あの、俺、田舎から来たもので、身分を証明するものを持ってないんですよ。どうすればいいですか?」


ルークは、門番の態度など気にせず、自分の要件を聞いた。


「む? そうか。ならばこっちについて来てくれ」


そう言って門番は門の端っこにある小さな小屋に入っていく。

ルークも後を追って入っていく。


「失礼します」


丁寧に頭を下げ、門番が座っている机に座った。


「ではまずこれに名前と年齢、を記入してくれ」


ルークは小さな何も書かれていない真っ白な紙を渡される。

そこに名前と年齢を書いていく。


(えっと、名前はルークで、年齢は十五っと)


昔からカイザにはせめて自分の名前と数字くらいは書けるようにしないと、と言われて学んだのが役に立った瞬間だった。


「書き終わりました」

「よし、それなら次はこの水晶の上に血を一滴流してくれ」


門番は水晶を机に置いた。

それを見て、一瞬昔の検査のことを思い出したルークだが、すぐに首を振って頭から掻き消す。


ルークは唇を歯で軽く噛み切って、右手の親指でそれをすくい取る。


「ほう、普通の奴ならバカ正直に指を切るんだが……お前、賢いな」

「どうも」


ルークは剣士だ。

たとえ、ギルドに冒険者として登録していなくても、誰かが違うと言っても、彼は剣士なのだ。

その剣士たる彼が、剣を扱う指をわざわざ自分から傷つけるだろうか?

そんなことするわけがない。

剣とは、その剣の重さや構え、持ち方や戦法によって扱いがことなるが、己の手を使う、という点では、当たり前だが同じだ。

少しでも手に傷がつくと、剣をふるう時に違和感を感じるなんて珍しいことでもない。

だから、冒険者や騎士、ルークのような自称剣士の大半はグローブをはめているのである。


ルークはすくい取った血を水晶に垂れ流した。


血が付いた水晶は白く光り出す。

その水晶に、門番は先ほどルークが書いた紙切れを水晶にあてがう。

するとどうだろうか、紙切れは水晶に飲みこまれるように中に入っていく。

やがて、全て入りきると水晶の光はさらに輝きを増し、形を変えて行く。

それは四角形のようなものになり、光は消えた。


「よし、これで登録完了。これからはこのカードを身分証明に使え」


ルークは門番に渡されたカードを見る。

そこには名前と年齢が書かれていた。


不思議な気持ちだ。

鬼人の村にいた頃も、それ以前に住んでいた村にいた頃も、そこに居座って生活していれば、自然と自分と言う存在を認識はしてもらえていた。

自分の身分証明など、考えたこともなかった、というよりも知っていてもらって当たり前、と思っていたルークにとっては、カードに記されている『自分』がとても新鮮なのだ。

そしてそれは、手にしてからさらにその感覚が湧きあがってくる。


「?」


ルークは自分の名前と歳の下が、不自然に空いているのに気がついた。


「この隙間は何ですか?」

「ん? ああ、それは他の情報を記載するためのものだ。たとえば、職業やその職業での立場、資格、成績などだ。それらは、仕事に就いた時にその職場で登録するものだから、今は出来ない」


つまり、ルークが持っている身分証明はまだ未完成と言うことになる。


「へえ……分かりました」


と、頷いてカードを見る。

すると今度は、空欄の最後に剣と冠が重なっている紋様が付いているのに気がついた。


「この紋様は?」

「その紋様は、王国で作ったという証だ。その紋様を持つのだから、決して愚かな行動はしないようにしろ、分かったか?」

「え、あ、はい」

「あと、それをなくすと、もう一度ここで発行することになる。が、なんらかのペナルティーが科されるので注意しろ」


王国の紋様を持つのだから当然だろう。

ルークは納得し、「分かりました」と告げる。


「もう質問はないか?」

「はい、ありません」

「よし、それならもう行っていいぞ」

「ありがとうございました」


ルークはポケットにカードを入れてから一礼して、小屋を出た。

小屋の扉を開けると、風がビュウと顔を叩いてくる。

その風に顔をしかめて目を手で隠した。

今日は風が少し強いかな、ルーク思いながら手越しに王都の街並みを見る。


「!?」


「へいいっらしゃいっ!」

「そこのガタイのいいお兄さん! ウチの武器はどうだい?」

「冒険者のお供といえばコレ! 速攻性のあるポーション! お買い得だよ!」

「店主直々に魔術を組み込んだ鎧……買わなきゃ損だよ!」

「え? まけてくれって? ……しゃーねーな! もってけ泥棒!」


そこにはルークの知らない世界が広がっていた。

一本の道。

その道の両端を沿うようにして数え切れないほどの店が奥まで連なっている。

そして、驚きなのが道を行き交う人の数だ。

ルークは今までこんなにも多くの人々を一度に見たことがない。

以前いた村、鬼人の村、二つの村人を足しても、全然足りないだろう。


「一体これは……」


ルークは魂が抜けた様に体をふらつかせながら道に入っていく。


すると――


「お! そこのひょろそうな兄ちゃん! 今ウチで、軽量に特化した剣を売ってんだが……どうだ?」

「へい! そこの青年! 王都特製の甘酒! どうだい?」

「おっと、若者よ。冒険者ならもっと身なりに気を配った方がいいぜ? ウチによっていきなよ!」


獲物を捉えるハンターの如くいろんな店から、熱烈なアタックを受けた。


「え、あ、……へ?」


間抜けな声を上げながら後ずさるルーク。

初めての体験が唐突に襲ってくると、人はこうなるのか。

……いや、彼の場合はただ店員の勢いに押されているだけである。


「なに!? 剣じゃなくて槍が欲しいだと!? よし分かった! 特製の槍を売ってやろう……どうだ?」

「むむむ! 酒が飲めないだと!? フンッ! 安心しろ! そんな青年にピッタリなジュースがあるぜ? どうだい?」

「なんと! その格好がポリシーだというのか!? ふっふっふ、おもしろい。その考えを打ち砕いて新しい世界を見せてやる! だからウチによっていきなよ!」


ルークはこの瞬間、かつてないほどに己の中にある警報が最大級のレベルでなり響いているのに気付いた。


(このままじゃまずい)


先ほど勢いに押された自分をしっかりと胸に取り戻し、頬を引きつらせながら、後ずさっていた体勢を整える。


そして体から余計な力を抜き、肌で空気の流れを感じる。


今日の空気の流れは少しうねっているようでややこしいが、彼にとっては大した差でもなかった。


ヒュウウゥ、と小さな風が吹く。

それは歩く人々の髪を少し浮かす程度の風だ。


だが、そんな弱弱しい風に流されたかのように、彼はその場から消えていた。


「「「あれ?」」」


ルークを勧誘していた店員たちは瞬きをする。


それから首をひねって各々自分の店に戻った。


ここは様々な人が行きかう王都『ベルゼア』


不思議なことなんて日常茶飯事である。








王都『ベルゼア』

王国最大の広さを持っている王国の中心都市。

都市の形は円形に広がっており、その枠をそるように防壁が囲っており、東西南北に一か所ずつ出入りが可能な門がある。そこから依頼をこなしに行ったり、取引をしに出て行ったり、あるいは外交のために出ていったりと、している。その逆もまた然り。


王都の中は商人や芸人や観光人や冒険者やらで常ににぎわっている。

ルークのように外から来た者は、「祭りか何かだろうか?」と勘違いをしてしまう程だ。

一本道を経て横に敷き詰めた道沿いに店が連なっており、それはまるで祭りの店構えをしている時とほとんど変わらないので、毎日が祭りといっても差し支えない。

もっとも、国王の誕生祭や建国祭の時は、この比にならないぐらいに熱気漂い、賑わっているのだが。


ベルゼアの最大の特徴と言えば、大陸屈指の魔術師の育成機関があることだ。


有能な魔術師は、所有属性の数と魔力によって定められている。

それは、生まれ持った才能が全てを言う。

人々はそのことを理解はしていたが、納得はしていない。

だから、色々な可能性を模索し始めた。


ある者は「火」の属性を得るために火山に飛び込み、ある者は強い魔物を倒せば魔力が上がると信じ、ある者は属性を持っている者と体を重ねればその属性を得ると思いこみ、ある者は属性を持っている者を殺せば、自分がその属性を得ることが出来ると考え――各々が実行した。


結果は明らかであった。


火山に飛び込んだ者は塵も残さず灰となり、強力な魔物に挑んだ者は無残にも食い散らかされ、体を重ねた者は属性の代わりに意志なくして子供を授かり、人を殺した者は、その狂気に体が飲まれ、本物の殺人者になってしまった。


これ以外にも多くの持論を試したが、人々は結局属性を得ることも、魔力量を増やすこともできなかった。


魔力や属性は神様から与えられたものなのかもしれない。

人々はそう考えるようになり、誰もが魔術の成長を諦めた。


そんな時だった。

王国で一番の魔術師である男が、現実に打ちひしがれている人々にこう言ったのだ。


『所有属性の数や魔力を増やすのはたしかに現状無理だ。それは仕方がない。だが、そこで立ち止まってはならない。今、所有属性や魔力を増やす以外にも出来ることがあるだろう! 魔力のコントロールや術の精度、モーション……出来ることは山ほどあるはずだ!

もし、学びたいと思ったなら、少しでも向上心があるなら、俺の元に来い! 才能に固執しているその硬い頭を目覚めさせてやる!』


その言葉は、多くの者の胸に突き刺さり、自分を見直させ、『出来ることをやる』という簡単な発想だが、とても大切なことを思い出させてくれたのだ。


そこから男の周りには人が集まり、彼らは出来ることを増やしていった。

人は増え、いつしか王都を、いや王国中からも人が集まり、いつしか国王自身も動かざるを得なくなったのだ。


こうして出来上がった魔術師の教育機関が『王立第一魔術学院』。


後に魔術師増加のために第二、第三と増えて行く学院の第一歩である。





少女は第一魔術学院の誰もいない図書室で勉強をしていた。

大きくキレ長い瞳に一本の筋が通ったような鼻、少しやせ過ぎなのか顔はほっそりとしている。その顔の両側に長く薄い束の髪が垂れており、残りの髪は後ろにまとめて束ねている。誰もいない図書室で、真剣そうな表情で勉強するその姿は、誰もが見とれてしまう程似合っていた。


少女が読んでいるのは『所有属性の可能性』と呼ばれる書物だ。

これは、どこぞの魔術師が書いた、あくまで『可能性』について色々な意見が述べられている。

少女が注目しているのは、その『可能性』の中のある項目である。


『所有属性の増加に関して』


曰く『現在、所有属性の増す方法は、確立するどころか不可能とさえ言われている。その一番の理由は、原因すら判明されていないことにある。人は、いやどんな種族でも、生まれながらにして、脳や心臓、腕や足といった体の一部と同じように持っている。これは神の恩恵によるものだ。そこに確固たる理由はない。男女の行為が神に届き、そこから神が男女に子を授ける。つまり、その子の体に何か差があるとしたら、それは神の恩恵の差によるものであると考えるのが妥当だろう。つまり、所有属性の数が多い者はそれだけ神に愛されていると考えられる。ただ、これはあくまでも私の持論だ。実際は神の恩恵の差かどうかなどは分からない。それこそ、神のみぞ知る、といったところであろう。』


少女は本を机の上に置いて、体を伸ばす。


「あんまり参考にならなかったなー」


本日少女が読んだ本は四冊。

それぞれの本の至るところまでくまなく読みふけってみたが、少女が欲しい情報はなかった。


(ま、当たり前よね。もし、そんな方法が確立していたら今頃大ニュースになってるだろうし)


少女が欲しい情報は『所有属性の数の増やし方』。

それは、少女が昔からの想っている少年にとって必要な情報である。

彼のために本を調べ、人に尋ね、あらゆる可能性を模索して、もう七年になる。

この図書室に置いてある本は一通り読み終えたが、どの本もさっき読んだ本と同じようなことし書かれていない。


つまり、『神様の恩恵』こそが、魔術師の才能に大きく影響する、ということだ。


(あいつが……あいつが神様に愛されていないって言うの?)


少女は顔を振る。


(そんなこと認めない!)


少女の目には闘志が宿る。


少女は信じている。

彼が神に愛されていると。

だから、その証を形として与えてあげたい。


少女の決意は七年前のあの日から変わってない。


―――いつか、強くなったルークが私の前に来た時、私は最高のプレゼントを送ってあげたい。


少女――エリーは、むんっ、と小さく胸の中で拳を握り、また新たな本を読みにかかった。




まさか、ルークがすぐ近くにいるとは夢にも思っていない……。





タイトルでは「再会」となっていますが、前半では会いません。

次に投稿予定の後半で出会います。


これからもよろしくお願いします。


……なお、誤字脱字がございましたら、遠慮なく言ってください。

お願いします。

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