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旅立ち

開いていただいてありがとうございます。


今日、日間ランキングで小説を探していたらこの小説があってびっくりしました。


これからも、よろしくお願いします。


それは旅をはじめて一年くらい経ったある日のことだった。

修業だけを目的として旅をしていたため、ルークとカイザには明確な目的地というものを持っていなかった。

だが、そんな彼らが初めて目的地を決めた。


「鬼人の森に行こう」


二人がこのことを決めた理由は二つ。


一つは鬼人の森の周辺にある『王国認定狩り場』は行きつくしたため、新しい刺激と世界が欲しかったから。

もう一つは、一年間の成果を見るいい機会なのかもしれないと考えたからだ。


二人には自信があった。


それは、決して村にいた頃には体験することのできなかったサバイバルを経たという経験を得たことが一番大きい。


だから、当然通用すると思っていたのだ。


人はこれをうぬぼれという。

そのことを、すっかり忘れて。






鬼人の森の東部から入りこんだ二人は、始めのうちは順調に魔物を倒してきた。

魔物にも人間と同じように、それぞれ実力が異なる。それは必ずしも種類が違うからという理由ではない。同じ種類の魔物でも、ものすごく強いヤツもいれば、一撃で倒せてしまえるようなヤツもいる。

彼らが倒していっている魔物も、他の狩り場で見たことのある魔物と同じ種類だが、実力が全然違う。

彼らが今まで戦って来た中でも、どれも上位に食い込むレベルであった。

だが、勝てないわけではない。

今までの相手に比べれば強い。

それくらいの印象しかなかった。


(これは期待外れか?)


カイザはのんきにも余裕な考えを抱きながらも、剣をふるう。


今、二人が相手をしているのは八体のゴブリン。

緑色の肌に、ごつく崩れている醜い顔をしている魔物だ。


数では圧倒的に上なゴブリンは、特に策も考えず突っ込んでくる。

それを二人はそれぞれに散開し、一体一体確実に仕留めて行く。

数がいくら倍以上であってもかかる時間はそう大して変わらないのだ。


最後の一体の首をはねたルークはため息をついてカイザに向けて笑みを送る。


「あんまりたいしたことないね?」

「むう。確かにな」

「とりあえず先に進もうか?」

「ああ、そうだな」


二人は、剣を腰のベルトに収め、森の中心部に進みだしたそうとした。

そう、「だそうとした」のだ。

二人の足はピタッと止まっている。


目の前に、オークがいたからだ。


「……やっと、手ごたえのありそうなヤツが出てきたね」

「うむ、一年間の成果を測るにはちょうどいいな」


二人は人生で初めてみる「オーク」という魔物に、特に怯える様子もなく、それどころか意気揚々と収めたばかりの剣を抜いて構えた。


二人の構えに特に特徴はない。

強いて言うなら綺麗ではない、ということだろう。

もともと、高度な訓練をしていたわけでもないカイザと、その息子兼弟子のルークに、どこぞの剣術の構えなんてできるはずがない。

今までの旅の中で勝手に出来上がった構えがこれなのだ。


「いくぞ!」


カイザの掛け声に合わせて、二人は駆けだした。

前にいるのはルーク、後ろにいるのがカイザ。

この陣形を崩さずに突き進む。


「ハアァッ!」


短い気合と共に剣をオークの足元に狙いを定めて切りつけた。

オークはゴブリンなどと比べ、とても大きな体を持つ魔物だ。

それ故に、下手に首を狙うと自分が体勢を崩してしまい、隙を見せてしまう。

ならば、足を狙って行動範囲に制限を加えさたほうがいいだろうと、判断したのだ。

だが―――


「!?」


切れない。

いや、それどころか……傷一つ付いていなかった。


「ヤアアアアッ!」


ルークが驚いている間に、後ろからカイザがオークに向かって飛び込んできた。


(ルークの攻撃が通じていない点から見て、硬度が他の魔物とはケタ外れて違うのだろう、だったら!)


カイザは剣の刃を横に傾け、刃のない部分で思いっきり叩きつけた。

ガンッという鈍い音の後、オークは体をよろめかせる。

「今だ!」とカイザはルークに向けて叫ぶ。

ルークもすぐさま対応して、剣を横に傾けオークの頭に横から叩きつける。

すると、衝撃に押されてオークは横に倒れた。


「よしっ!」

「やったか!?」


倒れたオークを見て、二人は確かな手ごたえを感じた。

あれだけの衝撃、くらえば死なないにしても気絶くらいはするだろう。

彼らはそう思い、胸の内でガッツポーズをする。


「さてと、止めを刺すぞ?」


カイザはそう言って、オークに近づいて行く。

オークの前に立って剣を下に向けて持ち上げた。

あとは、これを下ろすだけ。


そこで、カイザは思いもよらぬ衝撃を受けた。


「!?」


後ろからもう一匹オークが現れたのだ。


「父さん!」


ルークが叫ぶ頃にはカイザに意識はなかった。


ルークは剣を持ちなおして、オークに突っ込んでいく。


「ウオオオオオオッ!」


剣を振り、オークに衝撃をぶつける、がオークは腕でガードをし、片方の腕でルークを吹き飛ばした。


「ぐああっ!」


飛ばされたルークは何本かの木に当った後、転がるように地面を滑っていく。

やがて摩擦で止まり、体を起こそうとするが、起き上がらない。

骨が何本か折れてしまったようだ。


(くそ……どうする!? なにかあるか? いや、それより父さんは!?)


不安、心配、恐怖など、様々な感情が胸の内で渦を巻いているルークは、どうにか眼球を動かして現状を確認しようとするが、徐々に痛みで意識が薄れて行き―――完全に落ちた。






オークは近くの人間の元へと向かった。

年は三十くらいの男。今は倒れており、絶好の獲物となっている。

その男の頭を掴み、口を大きく開けた。


その瞬間。


「ンガアアアアアアアアッ!?」


オークの腕はそこにはなかった。

あるのはぱっくりと切り裂かれている肩の部分のみ。

オークは悲鳴に近い声を上げ叫んでいる。


そんなオークの前に、今までそこにいなかった男が現れた。

角を象徴としている種族――鬼人族の者だ。


男は手に持っている剣を一回二回と振る。

はたから見れば、ただ剣を振り回しているようにしか見えない。

だが、次の瞬間、オークは唯の肉の塊と化していた。


「ふん、人間か」


肉の塊など目にもくれず、男がまっさきに視線を向けたのは下に倒れている人間族の男だ。

侮蔑を含むものいいで、男は人間族の男を持ち上げた。

そして少し歩き、同じく地面に倒れている少年も持ち上げる。


(村長にとりあえず報告するか)


男は二人を担いで、森の中央に向かった。






「ん……ぅん」


何やらいい匂いがする。

甘く、素朴で、自然の香り。

まるで大地のど真ん中にいるかのような、そんな香りだ。


ルークは瞼を開けた。

見えたのは知らない天井。


「起きたか?」


ふいに近くから声がした。

体を起して見てみると、ベッドの横の椅子に座っている男がいた。

年は三十くらいで、するどい目つきをして、なんだか近寄りがたい雰囲気を醸し出している。そして一番の特徴が、男の額に生えている角だ。


「はい、起きました。……あの、ここはどこですか?」

「ここか? ここは俺の家だ」

「はあ」


要領を得ていない返事のルークに呆れてため息をつく男。


「……状況を理解していないようだな? いいか、お前達は鬼人の森でオークに殺されかけていた。そして、そのオークは俺が始末した。そのままお前たちを放置しておくと気分が悪いから、村まで連れて来て看病した。以上だ。分かったか?」

「……はい。――!? 父さんは!?」

「オークの馬鹿力をモロに喰らったからな……死んではいないが重症だ」


それを聞き、ほっとするルーク。


(むしろ、心配なのはこいつの体なんだけどな。……あの重傷をたった一日寝ただけで回復するなんてな、普通の人間じゃないだろう)


人間が鬼人村のオークに一撃でも喰らえば、重症になるのは当たり前、どちらかといえば死ななかったことは不幸中の幸いと思えるくらいだ。

だからこそ、カイザとルークの二人が瀕死直前の重傷を負うのも例の通りだ。


だが、男が『異常』と感じたのはルークの回復力だ。


全身十か所近く骨折に内臓はメタメタに潰れていたルーク。

それが一寝た今では、上体を起こすまでに回復している。

普通の人間ならば、ここまで回復するのに半年くらいはかかるものだ。


―――異常という枠すらも超える異常性だ。


「あ、あの~」

「ん、なんだ?」


ルークは不安そうな顔で男に話しかけた。


「俺達はいつまでここにいていいんですか?」

「ああ、そのことか。それなら、昨日村長と話し合って、お前らの体が完治するまでここに住まうことを認められた。つまり……だいたい一年近くだ」


傷が癒えるのに半年、体を動かすことが出来るようになるのに半年、という計算だ。

わざわざ完治するまで、と考えた村長に、男は少し驚いたが、それが村長と言う者の器か、と納得した。


「今日から一年間お前らは、俺達鬼人の村の住人だ」






「今日が旅立ちの日か」

男はあの日のことを思い出して、椅子に座る。

あの頃の彼は人間を嫌っていた。

傲慢で、自分至上主義で、常に他種を見下して。

何よりも、平穏を崩す。

だから、人間が嫌いだった。


では今はどうか?


「フンっ、一人前にいい目をしていやがって……」


優しい目つき。初めて彼らと対面した時の侮蔑するような顔は幻の如く消え去り、それは成長を喜ぶ親に誓い顔なのかもしれない。


「もう、俺はお前の師匠なんかではないんだ。これからは友として、その胸に刻んでおけよ。俺の名――ジークという名をな」


小声で呟きながら、男――ジークは自分の剣の手入れをし始める。

今日からは、ルークの分まで自分が狩らなくてはいけないから大変だ。

彼は終始滅多に見せない笑みを浮かべて、準備をしていた。






この村には決まりがある。

狩りに出て行く者たちには、行きの見送りと帰りの出迎えを必ずしなければならない。

だが、狩りに行くのではなく、旅立ちをする者には見送りをしてはならない。

それは、『旅立ちの儀式』だ。

これから村を離れれば、もう村の人はいない。自分で生きて行かなくてはいけないのだ。

だからこそ、見送ってはいけない。

その場は覚悟を見直す最後の機会なのだから。


カイザはそう、村長の話を聞いて、驚いていた。

別にその決まりについて驚いたわけはない。

彼自身の心境に驚いたのだ。


(何だろうな、この安心は)


きっと、ルークが旅立つ時はさびしくて、心配で、行かせたくなくなるんじゃないか?

彼はこう思っていた。

だが、実際は全くと言っていいほど感じていない。

確かに、さびしい。

最愛の息子が自分の元を飛び立ってしまうのだから、それは当然だ。

しかし、それだけではない。

他に、誇らしく思う自分もいる。

今のあいつなら大丈夫だ、と思う自分がいる。


(そうか――あいつはもう、俺を安心させられるほどに成長しているんだ。……もう、子供じゃないんだな)


子供はいつか、親の元から飛び立つ。

その時の親の心境は様々だ。

悲しい、さびしい、つらい、憎い、切ない、喜ばしい、うれしい。

カイザは今、最高にいい気分だ。


「お前なら、やれるぞ!」


カイザは胸の中でルークの頭をくしゃくしゃにしてから、背中を押す。

仮想ルークでやるのは、いささか寂しいモノがあるが、今のカイザには関係ない。どんな形でもエールを送ってやりたかった。


「行って来い!」









「あれからなんだかんだで居ついたんだっけ? 懐かしいな」


ルークは六年間過ごした村を眺めて、記憶をたどっていた。

そこから溢れてくるのはいい思い出ばかりだ。

旅をしていた頃も楽しかったけど、ここに来てからもとても楽しかった。

以前の村では感じることのできなかった『繋がり』というものを直に触れ、優しさに触れ、自然に触れ、世界に触れ、ルークは体や剣技だけではなく、心も成長できた。


「本当に、恵まれているよな、俺」


こんなにもすばらしい村に住むことが出来、こんなにも温かい思い出を貰って、これを恵まれていると言わずして何と言えようか?

そう素直に思うことが出来る。


ルークが今立っているのは、村の門の前。

ここを決意を持ってくぐることこそが、旅立ち。


目を閉じて己の真価を改めて問う。


(俺はどうしたいのか? 何がしたいのか?)


出発前に怖気づいたのか?

いや、そんなことはない。

これは最後の覚悟。

これから迷うことなく、その道を突き進むための、最後の覚悟だ。


ゆっくりと目を開けて、口角を吊り上げる。


「決まっているだろ!」


ルークはその線を超えて、旅立った。


本日快晴の空模様。


青が世界を覆い尽くす中、一瞬だがわずかに色が桃色を含む色になった。




学園編まであともう少し……頑張ります。

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