2章 3話~亨side 1~
新人研修のあと、俺の下に配属された新人は2人。
一人は大卒の男で、もう一人が綾乃だった。
彼女は大卒ではなかったが、もの凄く努力をして営業成績を上げつつあった。
「せっかくの週末なのに、彼氏に怒られないのか?」
2年目にもうすぐなるという頃、相手のいるやつはそそくさと帰っていく金曜日。
綾乃はというと、もう既に10時になろうとしているのに、まだPCに向かって資料を作っていた。
『ああ、平気です。里帰りとか言って、今頃は西日本の片隅ですから』
「そうか。そりゃ、寂しいな」
自分で振っておいて、何故か胸の奥がチクチクと痛みを持つ。
『ん~・・・・・それがそんなでもないんですよね(苦笑)あたし、感情が冷めてるみたいで』
もしかしたら彼女は、相手とあんまりうまく行ってないのでは・・・・・そう考えるとなんだかホッとするものを感じてしまう自分に気が付いた。
「まあ、あんまり無理するなよ?ところで、あとどれ位かかるんだ?そろそろ10時になるぞ?」
そう言うと、時計を見上げて目を見開いた。
『え、もうそんなになってたんですか?うわ~、また夕飯食べ損ねた!』
「高木、実家じゃないだろう?」
『はい、違いますよ?ちょっとマンションからは離れてますけど、海の傍で従兄が奥さんとサーフショップとカフェをやってるんです。なので、暇な週末はそこで食事することが多くて』
「そうか・・・・じゃあ終わりそうなら夕飯奢ってやるぞ?」
『ほんとですか?やった!!もう終わりなんで、急いで片付けます!』
「じゃあ、外に出たところで待ってるから」
『はい!』
その日、俺は入社以来必死に突っ走っている綾乃に、自分が惹かれ始めているのに気が付いた。
でもその気持ちは、伝えることはなかった。
どんな関係であっても、彼女には相手がいるわけで。
今伝えてしまえば、綾乃を悩ませるだけだと分かっていた。
そんな事はしたくなかった。
でもその時の判断が、後々後悔の元となる。
綾乃は半年後、その相手と入籍をしてしまったからだ。
そして自分自身営業を離れることになり、寿退社する予定のないという綾乃とは社内でも極たまにすれ違うのみになってしまった。




