2章 2話
元義姉に連絡を入れると、さすがにびっくりしていた。
無事に着いたことには安堵したのは確かだが、まさか1年半の間ずっと一緒に暮らしていたわけでもない義母であるあたしと暮らしたいと言い出すとは、夢にも思わなかったことだろう。
頼ってきてくれたのは嬉しいが、元夫がなんと言い出すかが問題だった。
たった一人での長旅で疲れたのだろう匠は、食後に車の中で寝てしまった。
一緒に来てくれた専務が、匠を部屋まで運んでくれた。
『お世話になっててなんですけど、さっきのってなんなんですか?』
「さっきの?」
『結婚とかって、あたしはプロポーズされた記憶ありませんし。OKした記憶ももちろんありません』
「何を言ってるんだ。俺を受け入れるって事はそうゆうことだろう?」
『・・・・・・受け入れるとは・・・・・』
「拒否は認めないって言ったろ?」
『どこまで俺様なんですか!』
そんなプロポーズ、元夫ですらしてないわ!と、憤りを感じてしまう。
それに付き合いもせずにいきなり結婚だの婚約だの、さすがにあたしもそれは困る。
『専務・・・・・・』
「亨だ」
『・・・・・「亨」さん。あたしは、お付き合いすらもしていないのに、結婚だの婚約だのは出来ませんが』
「何言ってるんだ。俺は7年も待ってたんだぞ?」
『ええ、そうですね・・・・・・・・・・・・・・勝手に・・・・・・』
そう小声で呟く。
「・・・・・・・・・・・・・聞こえてるぞ」
けっ、地獄耳め・・・・・・と、今度は心の中で呟いて、顔だけ顰めてみせる。
「ところでな、匠君だけどな・・・・・・・彼の家族がいいと言うなら、君の養子にしてもいいんじゃないか?俺は一向に構わない」
『義妹が・・・・きっと許さないでしょうね。離婚の時もあわせてももらえませんでしたし、電話しても替わってもくれませんでしたから』
「そこのうちで育てられたわけじゃないだろう?」
『ええ、義姉のところです』
「この週末にでも行って話し合ったほうがいいだろうな。俺も一緒に行こう」
『いえ、そこまでしていただくわけには』
「俺の将来にも関わってくるからな」
『・・・・・ですから・・・・・!』
「聞こえない」
ほんと都合が悪くなると耳を塞ぐタイプだったなんて、今まで気付かなかった!
上司として仕事を教わっていた頃は、こんな人だと思わなかったのに。
ぐっすり寝込んでいる様子の匠を見やって、短い溜息を1つつく。
来週顔を合わせるであろう、義妹の顔も頭の中でちらつく。
それもまた溜息を誘う1つの要因だった。