1章 4話
『それで?なんの御用であたしをここに?』
そうここに来てかれこれ15分。
専務の名前は・・・・・高槻亨という。
その高槻氏が入れてくれたコーヒーを飲みながら、もうかれこれ15分経つのである。
「ん?だから綾乃と休日を過ごしたいと思ったからさ」
『そして、なんで呼び捨てになるんです?』
「俺がそうしたいから」
『どうしてそうしたいんですか・・・・・』
少々投げやりな気分で聞いてみる。
「綾乃を俺のモンにしたいから?」
『は?』
「聞こえてただろ?ちなみに連休中、帰す気ないから覚悟して?」
『・・・・・・は?』
突如我が家に訪れた専務によって、どうやらあたしは囚われの身になったらしい。
「着替えも化粧品も揃えてあるから、安心してここにいればいいよ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・いや・・・・・安心できる輩がこの世のどこにいるのでしょうか。
囚われの身なのに、安心なんて出来るわけないでしょうが!!
「ああ、俺のことは役職で呼ばないように。亨って呼ぶこと」
『無理ですぅ・・・・・』
「平気平気。すぐに慣れるからね」
にっこり笑ってそう言った。
あたし、いったいどうなっちゃうんだろう。
このさわやかな笑顔を見せるこの男に、何をどうされてしまうんだろう。
『それにしても、なんで突然こんな事なさるんです?』
そう、そもそもの疑問はそこ。
なんでこんな目にあうのかが分からない。
「まあ確かに君にとっては突然だったのかもしれないけどね。俺にとっては突然じゃない」
『は?』
「気付いてもいなかったってことか?営業部時代から、俺は君しか見ていなかったっていうのが理由だ」
気付いてもいなかったってことか・・・・・ですって?
あたしは元夫の残した借金清算に向けて必死で働いてたのよ?
そんなの気付くわけないじゃないの~~~~!!
『ありがたいお話ですけど・・・・・・・でも今のあたしにはそんな暇もありませんし』
「元のご主人の残した借金?」
『ご存知なんですか!それなら・・・・・』
「それ、俺が全部立て替えるって言ったら?」
『・・・・普通に考えれば美味しい話かもしれませんけど、そんな気は・・・・・』
「っていうか、もう問い合わせて支払い済み」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?』
意味が分からない・・・・・今、なんて?
あいつが残した借金を、専務が払い終えた?
正直、あたしはマンションを見上げた時よりももっと、開いた口がふさがらなかった。




