1章 3話
『で、どこに行くんですか?』
溜息混じりに問いかけると、助手席のドアを開けながら「着いてからのお楽しみ」と言った。
なんか胡散臭い・・・・・・・彼のその時のほくそ笑んだかのような顔を見て思う。
『なんか、企んでません?』
やっぱり何か考えがあるような気がして、そう問いかけた。
「いいや?企んでなんかいないよ?」
『・・・・・・・』
彼の運転する車がどこに向かっているのか、正直分からない。
方向音痴ではないし、地図の見方だって分かる。
でも訳が分からないうちにこうして走っているから、どこへ向かっているのか見当がつかないでいた。
まさか連れて行かれる場所が、彼所有のペントハウスとは思いもせず。
到着した瞬間に、呆然とそのマンションを見上げることになると思いもせずに・・・・・・。
そうして、到着した高層マンションを見上げて、あたしは口をあんぐりあけていた。
営業部での元上司にして、今では専務にまで上り詰めたこの男・・・・・・いったい何者なのだろう。
「ほら、行くぞ」
右腕を取られて、半分引き摺られる様にエントランスをくぐる。
『あ、あの!専務!いったいここは?』
「ん?俺んちだけど?」
何か問題でも?
そんな顔つきであたしを見下ろした。
問題大有りでしょ~~~~~~~~!!!!!
そんなあたしの心の叫びは、このあと完璧に無視されることになる。
エレベーターが到着したのは最上階で、その階には当然のようにドアは1つだけで。
『な・なんで専務のご自宅なんですかぁ・・・・・・』
「なんでって、連れて来たかったから?」
『意味がわかりませぇん・・・・・・・』
「意味なんて、そのうち分かるよ。おいで、綾乃」
『な・・・・・なんで呼び捨て・・・・・・』
「いいから入って。ここじゃ近所迷惑だろ?」
『一部屋しかないじゃないですかぁ~~!!!!!』
そう叫ぶも、無理やり部屋の中に引き込まれてしまった。
部屋のインテリアは、高級ではあるのだろうがシックな色合いで落ち着きのあるものだった。
ベージュとブルーが基調で、そこに黒系の物が配置されている。
『行き先がご自宅ならご自宅とおっしゃってください!』
そうすればここまで緊張せずにすんだのに・・・・・そうぶつぶつ呟く。
「自宅だなんて言ったら、それこそ来ちゃくれなかっただろ?」
『む・・・・・・確かに』
自宅なんて分かってたら、絶対に外出する準備なんかしちゃいない。
のんびりマッコリを口にしながら、自宅での休日を満喫していたはずだから。