4章 6話
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、いいです。
この先なんかあって、もう一度結婚・・・なんて羽目に陥っても、もう結婚式だけは却下。
こんなに恥ずかしいのは、もう絶対にいやだ!!!!!!!
出来るだけシンプルに!質素に!!って言ってたのに、立場上そうはいかないと言われ・・・・ある程度は妥協したよ。
でも、ほんと・・・・・顔を引き攣らせないように笑うのが精一杯だったわ・・・・・・。
匠の目はまん丸だし、友人たちのにやついた顔・・・・・・。
確かに必死にこらえてるあたしを見れば、友人たちは笑いたくて仕方ないはずね。
お偉いさんたちの祝辞が長すぎるとか、ひっどい歌唱力の後輩の歌とか・・・・・そんなんどうでもいいの。
何回もやらされたお色直し、ハート型のキャンドルへの灯火とか、馬鹿でかいケーキへの入刀とか・・・・・。
あと、既に大きくなり始めたお腹とか・・・・・・何考えてるの?
だから悪阻の時期を避けて、ちょっと式も延期して今日に至ってるんだけど。
なんだけど・・・・・・・・・・・・・あの酒乱、どうにかしろ・・・・・・・・。
あのバカを招待したのは誰だ・・・・・・・・・あたしだ。
『ニャロウ・・・・・・退職前にいじめてやる・・・・・・。あいつには仕事はやらん!』
そいつは営業部の後輩だった。
退職するあたしの仕事を、ほぼ引き継ぐはずのやつだった。
あんなのを後任にしたら、恥さらしもいいところだ。
っていうか、取引先の方々もいらしてるわけで、すでにそれだけで恥を晒してることになる。
あー、もう飲ませるな!ってか、つまみ出せ!
「綾乃?大丈夫か?」
隣でいらいらと引き攣りそうな笑みを見せているあたしに気付いて、亨さんが声をかけてくる。
『・・・・だめかも。あんにゃろう・・・・あとで抹殺してくれる・・・・・・』
「ん?・・・・・・ああ、あいつか・・・・・」
あたしの呟きで対象の相手が誰か気付いて、そいつ・・・・・・春日雄介を一瞥する。
「大丈夫、俺に任せておけ。君の後任はあいつにはさせないから」
当の春日はご機嫌で、大酒をかっくらっている・・・・・。
引継ぎは、春日以外の今年度の新人数名に分けて、任せることになった。
かなり春日は渋っていたけれど(自分の成績UPを見越していたらしい)、あたし達の結婚式での失態を理由にした。
当たり前だ、バカたれ!
お偉いさんも取引先もいる中で、大酒かっくらって大騒ぎするバカがどこにいる!
そう上司にきっぱり言い渡され、がっくりしてたけど。
おかげで引継ぎもスムーズに済み、無事に退職の日を迎えた。
「綾乃さん、お疲れ様でした!!」
「元気な赤ちゃん生んでくださいね!」
そんな言葉と共に、大きな黄色いバラの花束と、シルバー細工にアラバスターの蓋がついたオルゴールを同期から貰った。
私物は殆ど片付けてあって、職場を出たときの荷物はあまりなかった。
それでも急に大きくなってきたお腹が邪魔で、足元が危なくて帰りにはタクシーを贅沢にも使ってしまった。