4章 4話
『匠、お母さん・・・・結婚しようと思って』
「亨おじさんと?いいんじゃない?」
あっけない賛同に、こちらとしては複雑な思いだ。
『でも貴史とは違う人が、義理の父親でも平気なの?』
「僕、あの人には育ててもらっとらんし。それよりはおじさんの方がいい」
確かに東京にいる時は、生きてるんだかどうだか・・・・・出てきもしない祖父母に育てられた匠。
あたし達の離婚後は、義姉夫婦に預けられた。
育てられてない・・・・・・・・・匠がそう言うのは当然かもしれない。
『匠もいいそうです』
亨さんにそう伝えた。
この部屋に引っ越してきて、増えたものは匠のもの。
食器なども元々5客ずつ揃っていたし、全部の梱包を解いたわけじゃない。
だから引っ越すのにも、そんなに手間はかからない。
でもここに来て数ヶ月・・・・・なんだかもったいないなぁとも思う。
まあでも、ここに3人・・・・というより、あの体の大きい亨さんまでは無理か。
結局は亨さんの希望に併せて、引越しをしたのは10日後のこと。
『だから、あたしは豪勢な式はいやですってば!』
「仕方ないだろう。こっちの身にもなってくれ」
『絶対、いやです!』
「なんでそんなに嫌がるんだ!」
何を揉めているかというと、結婚式のこと。
あたしは、出来ればしたくない派で、必要だと言うなら地味婚希望。
だけど・・・・でもある亨さんは、出来れば大きなホテルかチャペル派・・・・・最悪、海外でを希望。
「綾乃は前も式は挙げてないんだろう?じゃあ、構わないじゃないか」
『もう匠もいますし、色々複雑なので。これ以上、社内で噂の的になるのは御免です!』
「まだ仕事を続けるつもりなのか?」
『当たり前じゃないですか!』
「それじゃ俺の立場はどうなるんだ!?」
確かに彼は専務という立場だけれど、妻になるあたしが働いてはいけないという謂れはない。
「でもそれでは、営業部も取引先もやりにくいんじゃないのか?」
『・・・・・・・・・』
「だから俺としては、特に生活に困るわけでもないし、家庭に入ってもらえると嬉しいんだが」
『・・・・・・・・・・』
「パートナーとして会食に出てもらうこともあるし、営業で不規則だと匠に何かあっても困るだろう?」
『む・・・・・・・』
「そういった点でも、式はきちんと挙げたい。綾乃のお披露目でもあるからね」
ぐうの音も出ないとはこのことだろうか・・・・・・・なんか思い通りに進められて面白くなかった。