4章 3話
「・・・・・いやだというのか?」
「・・・・そうは言いません。あたしは多分、亨さんの事を嫌いじゃない。好きなんだと思います。でも、バツイチのあたしでも、きちんと言葉が欲しいこともあるんです』
うん、嫌いじゃない。
多分・・・・・ううん、好きなんだと思う。
匠だって慕ってるし、関係は良好だ。
名前だって、最初は彼の希望からだったけど、いつの間にか亨さんと呼んでいる。
「・・・・気持ちは伝えたはずだ・・・・・」
『ええ、気持ちだけは。だから、お付き合いをするということであれば、それは私も否定はしません』
そう、交際をするというだけなら問題はないのだ。
『でも・・・・・・それなら婚約者というのはおかしいです。あたしはプロポーズされたわけではありませんので』
「・・・・それでも俺は、君を手放す気はない」
『・・・・・じゃあ、きちんとどうしたいのか・・・・・言ってくれませんか?』
「ここの近所に良さそうな物件を見つけた。匠も転校する必要もない。だから・・・・二人揃って引っ越してきて欲しい。君たちと・・・・・・家族になりたいと思っている」
『亨さん・・・・・・』
「結婚してくれないか?俺と・・・・・」
『・・・・・』
あたしの返事を待つ間、どんどん眉尻が下がって不安そうな表情になっていく。
その表情が、いつもの自信満々な彼とは別人のようで、おかしくて仕方なかった。
噴出すのを一生懸命堪える。
「・・・・・綾乃?返事は?」
『・・・・・・・・・バツイチですけどいいですか?』
「そんなのは承知の上だ」
『・・・・・・義理の息子がいますけど、構いませんか?』
「匠とはうまくやっていけると思う」
『亨さんに、借金が残ってますけどいいですか?』
「あれは俺が勝手にやったことだ。気にしないでいい」
『・・・・・・・・じゃあ・・・・・・・・』
一瞬、目を輝かせる。
『・・・・・・・・・前向きに考えますね』
「・・・・え?」
本気で情けない顔してるよ・・・・・・・・この台詞は、ほんの出来心なんだけど。
『冗談です。今まで散々、焦らせた罰です・・・・・』
「・・・・・じゃあ・・・・・?」
『・・・・・・お受けします・・・・・』
心底ほっとした顔をしたあと、嬉しそうな顔をしてこう言った。
「絶対に、君たちを幸せにするから・・・・・」




