4章 1話
『まったく・・・・・・』
みんなが知っていたという三浦先輩の言葉に、本当に溜息が出た。
気付かなかったことを申し訳なく思うだけでなく、自分がどれだけ鈍感だったのかを考えると頭が痛い。
そして、決して嫌いではない彼との未来を考える。
何しろ、考えもしなかった相手なのだから。
意外と俺様だったけど、匠のことではかなりお世話になった。
そして、当の匠もべったりな位に懐いている。
それと・・・・・そっちの相性も・・・・まったくもって悪くはないわけで。
好きだったとは言われた。
愛してるとも言われた。
でも、付き合ってくれとも、結婚したいとも言われてない。
なのに・・・・・匠の件の時には「婚約者」だと言われた。
バツイチだけど・・・・・そうゆう言葉は欲しいものだ。
『どうしよっかなぁ・・・・・・』
朝からミスばかりで、何度も修正を重ねていた。
「高木!いつまでもうじうじ考えてないで、すぱっと言いたいこと言ってきな!」
定時の就業間際、顎をしゃくるように帰宅を促される。
帰宅・・・・といっても、きっと彼はまだ社内にいるはずで。
でもこんなことで、専務室に行くのはいやで。
『・・・・・・・・・・・・・・・』
夕飯に呼んで、どうしたいのか聞いてみようか。
これからの彼のシナリオを聞いて、それから決めても遅くはないのかもしれないと思った。
『すいません、今日は先に帰ります』
まだPCに向かう三浦先輩や他のメンバーに声をかけると、バッグを手にして部署を出た。
近所のスーパーで買い物をする前に、亨さんにメールを送る。
【 今夜、夕飯を食べにいらっしゃいませんか? 】
5分ほどして返信があった。
仕事中だろうに、なんとも速い返信だと思う。
【 7時半くらいになるけど、必ず行くよ 】
・・・・そうですか、必ず来るんですか。
まあ自分で誘ったんだし、これからのことも考えたいし。
そう考え直し、買い物を始める。
匠はあんまり野菜が得意ではないようなので、メニューには気を使う。
でも細かくみじん切りにしたり、手間はかかるが分からないようにすれば結構食べられる。
いくつかの野菜は、バーニャカウダにしたら気に入ったらしいが。
そうそういつもバーニャカウダなんて作ってらんないから、今夜はみじん切り方向になりそうだ。
あれこれ考えながら、あたしはカートに乗せた買い物籠に食材を入れ始めた。