3章 6話
『こんなに分かりやすいところにつけるなんて!』
翌朝、出勤するために着る服に困ってしまった。
匠の朝食を用意するときは、ジムに行ったりする時に着るトレーニングウエアをきていたから誤魔化しが効いた。
昨夜は深夜になっても離してもらえなかった。
深夜どころか・・・・・離してもらえたのは明け方近かったのではなかろうか。
『ハイネックなんてないから、スカーフでも使うしかないわね・・・・・』
その所有印をつけた本人は、学校に行く匠と一緒に部屋を出て着替えるために帰宅した。
コンシーラーでも隠れない、濃度を持ったその印。
『はぁ・・・・・・・』
普段スカーフなんか殆ど使わないあたしが使えば、出社した途端に何がしか言われることだろう。
「お?どうした?高木。珍しいじゃない、スカーフなんて」
案の定、営業部の三浦先輩がニヤニヤと笑いながら茶化す。
三浦先輩は2つ年上の、かなりさばけた性格の女性だ。
「彼氏にいたずらでもされたんでしょ」
『はあ・・・・・まあ、そんなとこでしょうか。彼氏っていうのが、どうなんだかって感じなんですけど・・・・・』
「なによ、彼氏じゃないの?」
『なんていったらいいのか・・・・微妙な感じで』
営業部といっても、毎日外出しているわけではない。
今日は三浦先輩もあたしも、内勤予定でいた。
「昼になったら、話聞かせなさい」
『はい・・・・・』
兎に角、今は仕事に集中しないと・・・・・。
色々自分の営業先に関する書類やデータ処理をしながら、時々嘆息する。
やっかいなタッグを匠と亨さんに組まれてしまったのだから。
それでも黙々と、PCに向かって操作を続けた。
「で?どうなっちゃったわけ?」
『実は・・・・・・・・・・・・先輩もよく知ってる人なんですよ・・・・・・・。告白されて、あれこれ助けてもらっては貰ってたんですけど・・・・・なんか息子とタッグを組まれて取り込まれちゃったみたいな感じで』
「はは、匠君だっけ?タッグ組まれちゃったんだw」
『はあ・・・・よりにもよって彼に「頑張って」とか言っちゃってまして』
「で?相手って・・・・高槻専務?」
『・・・・・・・は?』
「何でって顔してるね。悪いけど、営業にいた頃から彼の態度はバレバレだったもの。よく諦めないなぁって感心してたくらいだし。それにうちの連中で、気付いてないのは高木だけだったんだから」
『む・・・・・・・・』
あたしってどんだけ鈍感だって思われてるんだろう。
まあ、みんなが気付いてたというなら、それなりに鈍感なんだろうけど。
軽く・・・・ショックかも。
「で、どうするの?」
『・・・・どうしましょう・・・・・・』
「嫌いなの?専務のこと・・・・・・。出世もしてるし、金も持ってるし、見た目だって悪くない。お勧め物件よ?」
『・・・・・・・はぁ・・・・・・・』
急激に自分の周りが変化している・・・・・もう少しゆっくりだったら助かったのに。
ニヤニヤ笑う三浦先輩の前に座って、また1つ溜息をついた。