3章 2話
「何、あほな事言うちょるん?匠とは血ぃも繋がっちょらんでしょうが!」
案の定、匠の希望を話し出したあたしに向けて飛んだ、舞の罵声。
やれやれ・・・・・・と、義姉の恵津子が溜息をつく。
「あんたはだまっちょきんさい。話がややこしくなるけぇね」
『姉さんは・・・・どう思いますか?いままで育ててきたのは姉さんですし』
「あ~、そうやねぇ・・・・・。面倒とかそうゆうんではないんやけど、匠を進学させてやるんは難しいしねぇ・・・・・」
義姉の家には、元夫との間に高校生の息子がおり、その下には今の夫との間に匠の1つ下の娘がいる。
「義理の仲やゆうても、こうして慕っちょるしねぇ・・・・・。それにこっちにおるよりは、進学も就職も色々希望があるやろうし・・・・・」
「な!じゃあ姉ちゃんは、匠を東京のこの人んとこにやるっちゅうの?どうせ借金まみれになっちょるし、邪魔になったら放りだすじゃろうが!」
「舞!」
・・・・どうせ借金まみれになってる?
確かになったよ・・・・・あんたの兄のおかげで・・・・・・。
でも、なんで舞が知ってるの?
「あの・・・・・少しよろしいですか?」
黙って聞いていた亨さんが、ふいに口を開いた。
「舞さん。借金まみれとは、あなたのお兄さんの残したものの事ですか?」
「え?な、何よ、あんたには関係ないやろ!」
「関係ありますよ。僕は彼女の上司であり婚約者だ。それに綾乃が払ってきた借金の中には、舞さん、あなたが貴史さんに押し付けた300万も含まれている。しかもそれは既に、完済しています。彼女がそれだけ必死に働いてきた結果だ」
「舞!あんた、なんちゅうことしとるん!」
「姉ちゃんには関係ない!兄ちゃんが勝手にやったことなんやし!」
「兎に角、あなたは借金まみれなどと愚弄できる立場にはない。なぜなら、舞さんの300万以外のすべてを、彼女は返済し終えている」
「え?」
・・・・・・・・・・・・・・・・確かに終わってるけど・・・・・・亨さんが払ってくれちゃいましたから。
ほらそんな事言うから・・・・二人とも開いた口がふさがらないって感じになってるよ。
「ねえ、舞おばちゃん。本当のお母さんじゃないと、一緒に暮らしちゃいけないの?」
『匠・・・・・・』
「だってさ、そうしたらえっちゃんおばちゃんとこの善兄ちゃん、僕と同じでお父さん違うやろ?」
義妹のほうをまっすぐに見つめて、匠がそう話す。
「それに、えっちゃんおばちゃんと、お父さんも舞おばちゃんもお父さんが違うやろ?僕、知っとるんよ?」
「あんた、それ誰に聞いたん?」
「善兄ちゃん。ばあちゃんにも前に聞いたけど」
「・・・・・・・・」
「兎に角、おばちゃんたちが何て言おうと、お母さんのとこ行くつもりやし。邪魔せんとって」
その日、貴史には連絡が取れはしたものの会う事が出来ず、市内の大きなホテルの宿泊することにした。
この町は、最近合併で郡から市に変わったばかりで、もともとの市のほうは観光地にもなっている大きな街だった。
その市内を流れる川縁で、花見をするのが気に入っていたことを思い出す。
川沿いに桜並木があり、毎年花見客で賑わうのだ。
まだ4歳だった匠を連れて、1度来たことがあった。
あのままここで暮らしていたら、毎年足を運んでいたのかもしれない。
それは叶うことはなかったけれど・・・・・。