序章
『匠~、女の子はね守ってやらんといかんのよ?どんな理由があっても、お腹をぶったりしたらだめなんよ?』
それは当時4歳だった義理の息子に言った言葉。
あたしは1つ年下の人と入籍したばかりで、その人には離れて暮らしていた4歳の息子がいた。
実の母親には生まれてすぐに手放され、父親の実家で育てられていた。
知り合ったのは東京の小さなバー。
熱烈なアプローチを受け、付き合いだしたけれど・・・彼の実家にはもう誰もいないんだって聞かされていた。
年の離れた姉のところに行こうと言われ、彼の故郷である西日本の小さな町に向かった。
そして、そこには彼の両親も・・・・そして4歳になると言う息子の匠も存在していた。
『どんだけ嘘言えば気が済むの!!!!!!!』
彼、貴史に詰め寄った。
すごくのどかで、周りには何もない。
本の虫だったあたしにとっては、本屋に行くのにも大変な距離になるだろう。
その町に戻りたいと言う貴史に、あたしは苛立ちを隠せなかった。
「悪かったとは思ってる。でも子供がいるなんて分かったら、嫁になんてこねえだろ?」
『だからって親まで殺すか!!!!』
子供の存在だけでなく、両親のことすら隠していた貴史。
あたしの両親にもそう言っていて、まんまと我が家の婿養子になっていた。
とにかく弁が立つというか・・・・・・・・・完全に騙された感が強いのだ。
でも結局、その結婚は1年半ほどで終わってしまった。
理由は、彼が突然姿を消したから。
しかも捜索願を出した結果、九州に渡り知り合った女性と暮らしていたから。
許せなかった。
でもその程度の男なんだって諦めもついた。
残されたものが、いつの間にか連帯保証人にされていた1000万近い彼の借金だけだったとしても。
毎日必死に働いて、それでもどうにもならないところは司法のお世話になって・・・・・・日々の苛立ちと、自分自身の男を見る目のなさに
やっと折り合いをつけ始めるまでにかかった時間は3年。
風邪をひいてベッドに潜り込んでた、たった一人の部屋。
突然かかってきた携帯への電話と、そのあと突然やってきた人さえいなければ・・・・あたしの人生はきっとそのままだったろう。