お互いに顔が好き!
こんなことがあるというのかと今も不思議だが、私と夫は互いに一目惚れだった。
顔に。
お互いに群を抜いて好みの顔がいたものだから、目があって、時が止まったように見つめ合っていた。
そして、同じタイミングで声をかけた。
「「あの…!」」
それだけで十分だった。
彼は隣国の親戚のところに遊びにきていて、たまたま連れられた夜会だった。
私は女の戦いに疲れて、夜会にも嫌気がさしていた頃で、友人のアシスト役で仕方なくついていった夜会だった。
私はというと、夫を見た時にはじめて自分の好みってこういう顔だったんだと気づいた。
道理で、祖国の男性陣にときめかないわけだと思った。
夫はというと、ガツガツこない女性というものが物珍しく思って、私が視界に入ったんだとか。
疲れ切っていたことが、まさかの功を奏したのだ。
2人で庭に出て、ゆっくりお喋りでもしようかというところで、夫は顔を真っ赤にさせて口がきけなくなっていた。
緊張して、頭真っ白だったとか。
そんなのも可愛いと思うくらいには、顔が良くて、私も珍しく浮き立って口がよく回った。
「こんなことを不躾に申すものではないのですが、あなたの顔がすごく好きみたいです!一生見つめていたいと思った方は、あなたがはじめてです!」
私のこの一言目で結婚が決まったのだから、夫も相当変だと思う。
何にも包めていないところが好感を持ったとのことで、夫は赤い顔ではにかんでいた。
「奇遇ですね。僕もあなたの顔をずっと見ていたいと願ってしまいました。ですので、お名前を教えていただいてもいいですか?」
というわけで、あっという間に婚約まで決まって、次の月には隣国へと旅立っていた。
私の両親は渋っていたが、夫の身分が十分高いことで一気に掌を返した。
現金である。
理由はなんであれ、許可がもらえればこっちのものである。
夫の母には、「嫁を連れて帰ってくるなんてよくやった!」と大歓迎された。
とんとん拍子で進んでいったが、意外にも結婚生活はうまくいっていた。
最初の頃は、私が外に出ることを夫が渋っていたので、隣国ではそういうものなのかと思っていたら、どうやら違ったようで義母からの大激怒を受けていた。
「だって、アリアーナは僕の顔が好きなんだよ!?他の男に目を奪われたら、困るじゃないかっ!!!」
とのことだった、なるほど一理あると頷いてしまったら、半泣きされた。
それは私が悪かったと今でも思っている。
夫にしっかりガードされながら出た夜会にて、夫以上に好みの顔は見つけられなくて、「やっぱりあなたしかいないみたい」というと、きつく抱き締められた。
喜んでくれたのなら、何よりである。
そしてこの度、私が無事に妊娠したのだ。
義両親は手放しに喜んでくれたし、使用人も夫がなかなか結婚しないのを陰ながら心配していたのもあって、お祭り騒ぎだった。
実際に、侍女長と執事長には握手までされて泣かれたし、料理長は私の食べたいものだけで豪勢なディナーを作ってくれた。
私たち夫婦よりも、自分のことみたいに喜んでくれたのだった。
ところが、私と夫は嬉しい反面、ものすごく悩んだ。
互いに打ち明けなかったが、妊娠発覚以降ギクシャクし始めた。
お互いに顔を見ては目を逸らしたり、逆にじっと見るくせに何も言わなかったり、と。
明らかに私たちの態度がおかしいことに気づいた家の全員が不安になったらしく、代表でお義母様にお茶をしましょうという名の呼び出しをくらった。
「あなたたち、最近よそよそしいのはどうしたの?親になるのに、何か不安でもあるの?できることなら、なんでも手伝ってあげるから言ってみなさい」
そこまで言ってもらったのに、私も夫も曖昧に笑って、あはは…と頭を掻くことしかできなくて。
「もう!夫婦なのだから、きちんと話し合いなさい!」
と至極当然のお説教を頂戴してしまったので、私たちはその夜ベッドの上で座って向き合うこととなった。
「「…」」
自分たちまで夜になってしまったのかと思うほど、しんとしていた。
どちらも口を開きそうになっては噤む、というのを繰り返して、あうあうしていたが、最終的に夫が静寂を破った。
「僕、子どもができたと聞いて、本当に嬉しかったんだ」
「ええ、私も嬉しかったわ」
「性別もどちらでもいいと思っているし、アリアーナとお腹の子が健康ならなんでもいいんだ」
「ええ、あなたのそういうところに好感も持っているわ」
「うん、僕もアリアーナの懐の深さにはいつも助けられているよ。…でも、ね」
夫は言い淀んだあと、ぐっと顔を上げて、私を真正面から見つめてきた。
月明かりに照らされた夫の顔は、ますます好きだった。
「僕、僕っ…!どうしても、君に似た子ならいいのにと思ってしまうんだ!」
その告白は、私が悩み抱えていたものと同じで、うっかり泣きそうだった。
「私も!あなたに顔の似た子が生まれてきてって思っちゃったの…!」
それだけ言えば、もうすっかり見つめ合って、抱き合っていた。
「僕に似ちゃったらどうしよう!絶対にアリアーナそっくりの子の方がかわいいよ!」
「本当にそう!絶対にあなたにそっくりな子が可愛いわ!でもそんなの選べないじゃないっ!」
「この国では男親に似ている方がいいと言われているけど、そんなことないよ!絶対に君に似た方がいいよ!」
「いいじゃない!最高じゃない!あなた似がいいわ!」
ぎゅうぎゅう抱き締め合いながら、言いたいだけ言い合った。
朝になるまで、「どちらでも本当はいいはずなんだけど」「そうだよね!?」「でもやっぱり…」みたいな感じで、結局無事生まれてくれればいいよね、ということで一応決着した。
翌日からは、妊娠発覚以前に戻って、互いを見つめ合う日々に戻った。
義母に真相を聞かれて白状したら、「頭が痛いわ」とさすがに言われた。
私たちからしたら、死活問題なのだけれどね。
そんなこんなで出産を迎え、母子ともに健康に、夫似の子が誕生して、私がガッツポーズしたのは記憶に新しい。
「あんなに喜んでいるアリアーナ、はじめて見たよ」と言われたくらいだった。
夫は夫で、「君が命懸けで産んでくれたから、どっちに似てても、愛しいのには変わりないって気づいたよ。アリアーナありがとう」と言って、私の好きな顔で笑っていた。
それが、一番嬉しかった。
私の顔もいい夫は、今日も今日とて、私と子どもを大事にしてくれている。
最高である。
了
お読みくださりありがとうございました!!
毎日投稿157日目。




