16
藍華から戻ったあの夜から、和翠の心はずっと凪ぐことを知らなかった。
自室のベッドの上、膝を抱えてスマートフォンの画面をじっと見つめる。
時計の数字が一つ進むたびに、胸の奥がキュッと締め付けられるような、それでいて熱い塊が込み上げてくるような、不思議な感覚に支配されていた。
(高橋くん、今ごろ……話してるのかな)
彼が今日、親友である久志と唯にすべてを打ち明けると決めたこと。
そして、花桜梨の日記を受け取ったこと。
それを聞いた時から、和翠の心拍数は落ち着きを失っていた。
「……落ち着かなすぎ、私」
ふぅ、と小さく息を吐いて寝返りを打つ。
シーツの冷たさが火照った頬に心地いい。
今まで、誰かの動向をこれほどまでに気に病んだことがあっただろうか。
一輝に対しても、これほど「ドキドキ」することはなかった。
画面は暗いままだ。
通知の光一つない。
「嫌われたり……してないよね」
ふと不安がよぎる。
真実を知った親友たちが彼を責めはしないか、あるいは、彼自身が過去の重みに再び押し潰されてしまわないか。
(もし、彼が一人で泣いていたら?もし、もう私が必要ないなんて思われたら?)
ネガティブな想像が頭をかすめるたびに、和翠は枕をぎゅっと抱きしめた。
けれど、それ以上に「ワクワク」している自分もいた。
すべてをさらけ出した後の彼は、きっと今まで以上に強くて、優しい顔をするはずだ。
その顔を、一番近くで見たい。
「……あ」
その時、手の中でスマートフォンが短く震えた。
和翠の肩が跳ねる。
心臓がうるさいほどに脈打ち、指先がわずかに震える。
画面を点けると、そこには待っていた名前からの通知。
『全部、話してきた。……ありがとう、先輩。先輩が隣にいてくれたから、俺、逃げずにいられました』
その短い文章を目にした瞬間、和翠の口元が、自分でも驚くほど緩んだ。
「そっか……。よかった……っ」
安堵のあまり、力が抜けてシーツに顔を埋める。
ドキドキしていた胸の騒ぎが、ゆっくりと、幸せな余韻に変わっていく。
和翠は、まだ熱を帯びた指先で、大切に、大切に返信の文字を打ち込み始めた。
「お疲れ様。明日、駅で待ってるね」
送信ボタンを押した後、彼女は窓の外に広がる秋の夜空を見上げた。
月明かりに照らされた風景が、昨日よりもずっと輝いて見えた。
to be continued.




