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壬生谷駅前にある、マクテリアバーガーショップ。
優也はカウンターで受け取ったアイスコーヒーを手に、混み始めた店内をゆっくりと見渡した。
「どこだろう……」
奥まった四人掛けのテーブル席に、和翠と、彼女によく似た面差しの中学生くらいの少年が座っているのを見つけた。
「ごめん、待たせたかな?」
「ううん、大丈夫だよ。急に呼び出しちゃって、こちらこそごめんね」
「いえ……えっと、どこに座ればいいかな?」
「えっ、あ……じゃあ、私の前とか?」
「わかった」
優也はトレーを置くと、和翠の正面に腰を下ろし、冷たいアイスコーヒーを一口飲んで喉を潤した。
「それで、用事っていうのは何かな?」
「えっと、まずは紹介するね。隣にいるのは弟の一輝」
「初めまして、高橋優也です」
優也が一輝に軽く会釈をすると、一輝も背筋を伸ばして丁寧に頭を下げた。
「あなたが噂の高橋さんですか。僕は木原一輝です。姉がいつもお世話になってます」
礼儀正しい一輝の挨拶を受け、優也はさっそく本題を切り出した。
「それで、用件っていうのは?」
優也の問いに、一輝が言葉を継ごうとする。
「それは、僕から話__」
「あ、ちょっと待って。一輝くん」
優也が一輝を制した。
「念のために聞くけど、ここ、そんな話ができる場所なのか?」
和翠が改めて周囲を見渡すと、まばらながらも家族連れや学生たちの話し声が響いている。
秘め事をするには、あまりに開放的すぎた。
「そうだね。一輝、場所を変えよう」
「確かに。こんな所で話すような内容じゃないですからね」
一輝は納得したように頷いたが、すぐに眉をひそめた。
「でも、人目につかない場所なんて、お互いの家以外に思いつきませんけど」
優也は少し考えを巡らせてから、ぽつりと提案した。
「そうだな……少し距離はあるけど、『恋風』か『藍華』はどうだろう?」
「確か『恋風』はキャンプ場で、『藍華』はゴーストタウンですよね。どちらかと言えば、キャンプ場の方が落ち着いて話せそうじゃないですか?」
一輝が現実的な選択をしようとした時、和翠が弾んだ声で割って入った。
「私は『藍華』がいいな!」
「姉さん、どうして? あそこはただの廃村だよ」
一輝が不思議そうに理由を求めると、和翠は少し遠くを見つめるような目をした。
「うーん……なんでって聞かれると困るんだけど、見てみたいの」
「廃墟以外に、何を見に行くんですか?」
優也の問いに、和翠はいたずらっぽく、それでいてどこか切なげに微笑んだ。
「噂で聞いたの。あそこには、四季に関係なく『真っ白な花びら』が舞ってるんだって。それ、見てみたくない?」
「その噂なら僕も聞いたことがあります。でも、ただの都市伝説ですよ。……まあ、先輩が行きたいなら、断る理由はありませんけど」
「姉さんが良いなら、僕はそれでいいよ」
「なら、決まりだよね!」
善は急げとばかりに、和翠はトレーを片付けて足早に駅の方へと向かっていく。
その弾んだ背中を見送る優也と一輝は、顔を見合わせ、やれやれといった様子で彼女の後に続いた。
to be continued.




