表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

月とスッポン、周りとワタシ。

掲載日:2026/02/18

目が覚めてしまった。

時計を見ると時間は4時12分。18時過ぎくらいに寝たから睡眠時間は約10時間。起きていても何もすることがないのだから、何かしらまだ夢を見ていたかったのに。

しかもまだ外は暗い。最悪だ。


ワタシは竹山(たけやま) 月光(げっこう)。地球人の名前にしては珍しい方だと思う。まあワタシ自身が地球人ではないのだから当然と言えばそうなのだが。


地球に来た理由は、月での生活に疲れたからである。

月の住人、月人(ツキビト)との付き合いはワタシにとっては最悪の日々だった。皆、悪口をキラキラした瞳と共に放ってくるのだからたまったものではない。

少し感性が周りと違い、月人の中では不細工なワタシはイジられることが多く、心が欠けていく毎日だった。


そこで地球に目をつけた。あの時ほど地球が美しく思えた日はない。

ワタシのように、地球に行く月人はごく稀ではあるが前例はあったらしい。月人が地球人の祖先だとか、地球に行った月人がお姫様になったとか…。今のワタシは何者にもなれていないのに。


深く沈んでいきそうな思考を腹の音が引き戻してくれた。

こんなワタシでも腹は空く。最近のマイブームは、生卵をカップ蕎麦にいれること。蕎麦は腹持ちがいいし、あったかくて美味しい。

欠点は、どうせこれも「月見なんとか」という名前だということだ。月での生活にあまり良い思い出がないので食欲が失せる。好きだったハンバーガーとうどんもそれが理由で食べなくなり、それから食べ物の名前は検索しないようにしている。

故に、ぐちゃぐちゃにした卵が乗っているのがワタシ印の蕎麦だ。見た目が悪いのにも親近感が湧く。


仕方なく、重すぎる体を操縦して冷蔵庫に向かう。足元のゴミを蹴飛ばしながら。


冷蔵庫を開けた。卵がもうない。買いに行くか。

財布どこにやったっけな…ないな。

服どうしようか…汚れてるな。

洗濯機動くかな…考えるのやめとこ。


鏡に映った自分が目に飛び込む。


髪が伸びすぎてるな……まあいいや。

目のクマすごいな……まあいいや。

何日風呂に入ってないっけ……まあいいや。


ふと自分のことを考える。


バイト先ではミスばっかりだったな………


ずっとまわりに迷惑かけてばっかりだったな…………


月でも地球でも良いことなかったな……………


ぐるぐると真っ暗な思いだけが走り続けている。



こんなワタシが生きてる意味、あるか……………………?



よし、死ぬか。

今までこの選択肢が脳裏にチラついていたが、最近ずっとツイてない。これはチャンスだ、神からの天啓だ。

空になった卵パックが誰かに死を告げることになったのは、後にも先にもワタシだけだろう。


自殺を思い立ってからは、羽衣を着たかのように体が軽かった。月にいた時を思い出すが、もうすぐ死ぬのだから嫌な気分にはならなかった。


それからワタシは死ぬための時間、場所、方法を考えた。

ワタシは性格が悪い。できるだけ多くのやつらに不快な思いをさせたかった。

どうせ死ぬんだ。最後に世間を騒がせたかった。


最終的に、晴れた日の正午に高い建物から身を投げることにした。


明るい時間でも、注視すれば月は空に浮かんでいる。

晴れていれば人の目に映りやすく、月がよく見える。それは逆に月からもここがよく見えることを意味している。


本当は月人の目の前で死にたかったのだが…。地球で死ぬことはやつらににとっては自分の部屋で虫がひっくり返ってた程度の不快感かもしれないが、それでもよかった。


そして、決行に移った。もうこの世に未練などない。

元からどこにも居場所がない身。死の向こうに待つのが無であれば今までと何も変わっていない。なんなら天国や地獄が楽しみになってきた。


屋上に出てみると、風が強い。しかしそれは向かい風ではなく追い風だった。いや、追い風だと思いたかっただけかもしれないが。

空の月と、下で行き交う人々を確認して、フェンスの外に出る。

心が満たされているからか、初めて満月を綺麗だと思ったかもしれない。

最後の一服をこの都会の汚い空気で済ますことは嫌だったが、もういい。


手を離した。

地面が急スピードで近づいてくる。

案外飛び降りるのは気持ちいいものだ。今まで飛び降りた人もこれを味わっていたのだろうか。もっと早く教えてくれてもいいじゃないか、こんなにいいものなら。




そして、地面が目の前に来たところで走馬灯が流れた。

しかし、今までの記憶はくだらないものだったからか、

ワタシの走馬灯は、白紙のページをパラパラとめくっていくようなものだった。つまらない。こんなものなら見せないでくれたってよかったじゃないか。

そして、白は終わった。

そして、赤が飛び散った。




同時刻、月の都。

「やっぱ、地球って青いね。」

「ね。今日も平和だね。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ