勇者ライアンの変化
「スカウター始動!」
ライアンの左目前のレンズに、流れるように敵データが表示される。
■ SCAN・SYSTEM ―START■
《空間魔力波形スキャン……完了》
《対象:魔王級1体、強魔獣2体、》
■ TARGET ANALYSIS(対象分析): DEMON BEAST(魔獣) ■
▶【堕天使 蠅王ベルゼブブ:LV73】
┗特性:強再生能力 属性:腐敗、弱点:聖・炎属性・胸元の核
▶【多頭竜型魔獣ヘル・ヒドラ:LV44】
┗特性:再生能力有、毒性有、弱点:炎属性・再生中の首元の核
▶【 蛇王型魔獣バジリスク・レクス:LV42】
┗特性:石化(即死級)・呪い能力有、弱点:反射鏡・遠距離攻撃
ベルゼブブの両脇から、多首の強魔獣と多足の強魔獣が警戒しながら、じわりとこちらへ迫る。
しかし幾多の修羅場をくぐり抜け、恐ろしいほどの戦闘経験を積んだゼインとアナキンは、ライアンの指示があるまで臨戦態勢を崩さない。
最大戦闘効率はライアンの指揮によって引き出されると理解しているからだ。
ライアンは間髪入れず叫んだ。
「そのまま来い、ルシファー!」
ライアン専用AIがすぐに起動する。
《よし、遂にこの時が来た。最速戦闘計算開始》
《あの裏切蠅との対決は機械の身体ながら震えるわ》
《ライアン、蠅王は帰還対象でもある。今日、必ず滅殺しろ!》
《計算完了。最適解は……》
しかし何を思ったかライアンはルシフェルの言葉を遮ぎり、貴族達に向かって叫んだ。
「ちょっと待て。 皆さん! 私の真後ろにある非常用階段からすぐに退避しなさい!!」
「「《何!?》」」
ルシフェルとゼイン、アナキンが驚愕した。
一見、勇者にとって当たり前の行動だが、死線上のライアンパーティーにとって無駄でしかないその3秒間はあり得ない行為だったからだ。
――実はライアン自身も、『涼』の持つ優しさの影響を無意識に受けていたのだ。
指示に気付いた貴族から混乱しながらも少しずつ退避が始まる。
だが強魔獣たちも、みすみすと見逃すはずはなかった。
「ひぃぃっ! く、来るな――ッ!?」
逃げ遅れた護衛の騎士がバジリスクと視線を合わせた瞬間、その肉体が急速に石化し、ただの石像と化して無残に砕け散る。
さらにヒドラの一つの首が猛毒の酸を吐き出し、階段前に殺到していた数名の貴族をドレスや装飾品ごとドロドロに溶かし去った。
断末魔の絶叫が広間に響き渡る。それは圧倒的なまでの、理不尽な蹂躙。
《つっ、続けるぞ……》
ルシフェルは驚きつつも最速でライアン達の脳内に直接助言を流し込んだ。
《それと奴は汚い手を使う。気をつけろ》
「了解だ。皆、聞こえたな?」
助言が終わる前に、ライアンは魔導ポーチから圧縮された聖剣、とイージスの盾を抜いていた。
そして、取り出したイージス盾をゼインへ放り投げた。
「ゼイン、それを使え! 左の多足の魔眼を絶対に直視するな。反射させて、奴自身を逆石化させろ!」
「アナキンは右の多首だ! 従魔で全ての首を焼き払え!『付け根の核』を露出させろ!止めは私が刺す」
二人は阿吽の呼吸でそれぞれの獲物へと躍り出た。
「【影道潜闇】」
「出でよ、バハムート!」
カインのそれとは違いゼインの【影道潜闇】は洗練されていた。逆に暗闇ならどこにでも潜れたのだ。
突如暗闇から出現したゼインに戸惑い、バジリスクが思わず視線を向けたが、見えたのは盾に映った自分の顔と、目を見開いたメデューサの顔だった。
途端バジリスクの石化が始まった。しかし完了前には目の前のライアンが呟きながらエクスカリバーを振り下ろしていた。
「一匹目」
バジリスクの形をした石が爆散した。
巨大な魔法陣から顕現したバハムート・改が拡げた顎前に莫大な量の閃光が集結する。
そして、初披露となる【極界爆炎】をヒドラの七つの首を目掛けてぶっ放した。
何キロ先からでも視認できる閃光を被弾するヒドラ。
『グァ!!!!!!!』
強固な魔法障壁を持つはずのヒドラの全ての首が一瞬で蒸発し、首下の核がめくり上がる。余りの超高温で首の再生が全く追いつかないうちに、ライアンのエクスカリバーが核を貫抜いていた。
「二匹目」
部下たちが激突する中、中央に陣取る最大の脅威――蠅王ベルゼブブもまた静観してはいなかった。
六枚の漆黒の羽を羽ばたかせ、周囲の空間そのものを腐敗させる猛毒の球体を無数に生成し、一斉にこちらへ放ってくる。
『流石ルシファー。良いゴミを集めたな。【万蝿腐球雨】』
触れれば一瞬で肉体が崩壊する死の雨。だが、ライアンの足取りに微塵も揺らぎはない。
ライアンがマイクに向け呟いた。
「シールド展開!」
前回の涼戦から自分のギアを更に進化させ、あらかじめ呪文を圧縮登録し、詠唱を必要とせず魔法障壁を展開させる事が可能になっていたのだ。
ライアンの周囲を一瞬でバリアのような多重結界が覆った。
迫り来る死の球体を次々と相殺しながら距離を縮めていき、ベルゼブブをひどく冷めたい目で見降ろして呟いた。
「貴様も私の邪魔をする者か?」
ベルゼブブの左右には既に号令待ちのバハムートとゼインが攻撃態勢をとっていた。
「チェックメイト、だな?」
魔王級で戦闘力5000はあろうかというベルゼブブであったが、実はバハムートの爆炎とエクスカリバーの聖属性とは相性が悪く、実際の所本当に『詰み』状態だった。
《ライアン時間をかけるな! 今すぐ殺るんだ!》
『強いねー君達ぃー、想像以上だよ。これはハデース様たちも手こずるかもね』
「強がるな。ただ死ね」
ライアンが聖剣を振り上げた。
『待ったーー! 外見て、外!』
ライアン達が城の外を見ると、中庭には魔獣達に捕らえられ、血を流しているギルガメッシュがいた。
その横で、雷神剣、剛魔剣、鬼徹でジャグリングをしている得体の知れない奇術師がこっちを見てニヤニヤと笑っている。
『今、僕を殺せば彼も死ぬけど、どうする?』
ゼイン、アナキン、ギルガメッシュの三人は思った。
何を言ってるんだアイツは?
ライアンの怒りの聖剣で間違いなくぶった切られるだろうと。
ギルガメッシュは死の覚悟を決め、静かに目をつぶった。
――その時だった
「せこい蠅だな。 謝れば見逃してやる」
「「「何!?」」」
ライアンのその言葉に三人が驚愕した。
異世界人と迄は知らなかったが、ライアンは目的の為には手段を選ばない冷徹な男だ。今後いつ訪れるかわからない魔王を倒す絶好の機会を逃すはずがないと思っていたからだ。
『何!? 何で僕がそんな事を……』
ライアンの恐ろしく冷たい瞳を見たベルゼブブは、生まれて初めて人間に恐怖した。
これより一言でも余計な言葉を発した瞬間に殺されるだろう。
『……すまない……見逃してくれ』
ライアンはようやく振り上げた剣をおろした。
人質交換の際はライアンの交渉術で宝刀三本も返還させた。
ベルゼブブと謎の奇術師たちは苦虫を噛み潰した様な顔をしながら引き上げていった。
勇者ライアンの急激な変わりように困惑した三人だったが、同時に、この人に命を預けようと考えた。
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