瀕死のカインとリリア 七武神の救済
俺たちは黒鉄鉱山の深部まで来ていた。
スマートフォンの画面をタップし、スカウターを起動した。
レンズ越しに薄暗い岩壁を映し出すと、画面上に地層の成分や魔力濃度の分布図が拡張現実のようにオーバーレイ表示されていく。
「……マジか。岩盤の成分解析までできるのか。スカウターにこんな使い方もあったとはな」
俺の視線の先、画面には目当ての鉱脈がはっきりと緑色でハイライトされていた。
「見つけたぞ。純度100%、混じり気なしの『アダマンタイト』だ。これだけあれば目的の装備は十分に打てる」
俺の報告でパーティに笑顔が浮かんだ、その直後だった。
ズズン、と地響きを立てて岩壁の一部が崩れ、土煙の中から五体の巨大な影が躍り出てきた。人面獣身の凶悪魔獣、スフィンクスだ。
「接敵! 兄貴、解析を!」
カインの鋭い声と同時に、俺はスマホのカメラレンズを素早く魔物の群れへと向ける。
《ターゲット:スフィンクス(複合型合成魔獣)》
《推定魔獣平均LV:30(A級指定) × 五体》
《弱点:腹部の装甲の隙間、および雷属性魔法――》
画面に表示された弱点データを即座に読み上げると、前衛のカインと身軽なリリアが迷いなく死角へと回り込んだ。的確な情報共有がもたらす、流れるようなコンビネーションで次々とスフィンクスを切り伏せていく。
「レイナも撃つよ! 『紫電の槍』!」
後衛のレイナが杖を振り抜くと、俺の指示通りに放たれた雷撃が、スフィンクスの一体を正確に撃ち抜き、黒焦げにして絶命させた。
そして、最後の一体の首をカインの剣が両断し、誰もが完全な勝利を確信した。
「兄貴!トドメをどうぞ」
「サンキューカイン!これは経験値高いぞ」
「ふぅ……」
リリアが安堵の息を吐きドラゴンスレイヤーを地面へと降ろす――その油断こそが、致命の隙だった。
「ヒャッハー!」
天井から突如として降り注いだのは、毒々しい羽音を立てる無数の黒い蟲だった。
防具無しのリリアの素肌に、蟲たちが一斉に群がり牙を剥く。
「うわあっ!?」
「黒ひげ海賊団、四番隊隊長、蟲使いのアミバだ」
「リリア! 駄目だ、ウチの魔法じゃリリアまで巻き込んじゃう……!」
レイナが杖を構えるが、魔法を撃てない。
カインが助けに入ろうと身を翻した刹那。
「――お前たちの動きは、対策済みだ」
足元から響くような不気味な声。
気づけば、カインの真横に『影を持たない男』が立っていた。
「五番隊隊長、ジャッカルだ。そら、サウザーの仇だ!」
男の毒手刀が、蟲に噛まれ悶えるリリアと、カインの急所を同時に、そして無慈悲に貫く。
鮮血が舞い、二人の体が力なく崩れ落ちた。
「カイン! リリア!」
エリスが涙ながらに最高位の回復呪文を唱え、俺が慌ててエクスポーションを傷口に振りかける。素早い処置で即死こそ免れたが、傷口から立ち昇る紫色の瘴気が、回復効果をことごとく弾き返した。
「ダメです……! 強力な呪毒で、私の魔法じゃ塞がらない!」
みるみるうちに顔色が悪くなり、命のカウントダウンが始まる二人。
「クソッ! 俺のせいだ……スフィンクスだけだと油断したから……!」
リーダーとしての己の甘さを呪い、血塗れの拳を地面に叩きつけた。
「よくも……よくも二人を!」
緋色目のレイナが怒りの極大呪文の詠唱を始めるが、ジャッカルが冷酷に片手を上げる。
「遅い。『重力断層』」
見えない巨大な鉄槌が上空から叩きつけられたかのように、レイナの体が地面にめり込む。全身の骨が軋む絶望的な重傷。俺が瞬時にエクスポーションを浴びせたことで命は繋ぎ止めたが、戦況はもはや完全に崩壊していた。
(今更ノアを出しても間に合わない)
(くっ!詰みか!?)
万事休す。そう思われた時、俺の手に握られたスマホスカウターが、けたたましい【緊急警報】を鳴らし始めた。
《EMERGENCY!》
《EMERGENCY!》
《警告!災厄級個体》
《警告:対象の戦闘力、測定不能!》
画面を埋め尽くす真っ赤な警告エフェクト。
そこに表示された戦闘力数値は、測定不能を示す『ERROR』の文字だった。
《データベース照合……個体識別:暗黒騎士、および白魔道士》
(何!?……更に新手の『七武神』だと!?)
聞き覚えのある警告音に他のみんなも確信していた。
坑道の奥から歩いてくる漆黒の鎧の騎士とハーフエルフの白魔道士が、『七武神』であるということに。
しかし、敵の隊長たちには、彼らがただの不運な通りすがりにしか見えていなかった。
「あ? なんだそのうるせぇ玩具は。ってか、誰だテメェら。邪魔臭え、ついでに死にな!」
ジャッカルが、暗黒騎士へ向けて鼻で笑いながら重力魔法を放とうとする。
だが、暗黒騎士は立ち止まらない。
そして、低く呟いた。
「――『暗黒斬』」
次の瞬間、ジャッカルの首がポロリと地に落ち、その肉体が塵となって消え失せる。
「なっ……て、テメェ、その強さ……まさか『七武神』かよ!? ふ、ふざけんな、覚えてろよ!」
相棒が一瞬で消し飛ばされ、ようやく圧倒的な力の差と相手の正体を悟ったアミバが、蟲を撒き散らしながら逃走していく。
静寂が戻った坑道。
俺たちが呆然とする中、ハーフエルフの白魔道士が、血だまりに倒れるカインたちに目を留めた。
「あらあら、ひどい怪我。あなたたち、こんな所で何をしているの?」
彼女は俺たちが何者であるか知る由もなかった。静かに杖を振るう。
光の粒子が降り注ぐと、エリスの魔法でも治せなかった呪毒があっさりと浄化され、カインとリリアの致命傷が嘘のように塞がっていった。
これには、俺もエリスもショックを隠せなかった。
自分たちの実力では救えなかった仲間を、結果的に本来敵になるはずの底知れぬ力を持つ『七武神』に救われてしまったという葛藤。
ギリギリのところで命を拾った安堵よりも、圧倒的な無力感が胸を支配する。
だが、今はただ、感謝の礼をするしかなかった。
「……本当に有難う。助かった」
「気にするな。俺はどうでも良かったが、コイツが勝手にした事だ」
「ついでよ。 つ・い・で」
どこまでも底が見えない二人の態度に、俺は歯を食いしばる。このまま貸しを作った状態では、あまりにも情けなかった。
「あんたらの目的もアダマンタイトだろ? そこに多めにあるから、先に持って行けよ」
「まあ、有難う。じゃ、遠慮なく」
白魔道士が微笑むと、およそ人とは思えない滑らかな動きで、暗黒騎士が鉱石を魔導バッグに詰め込む。そして、二人は幻のように坑道の奥へと消え去っていった。
「あいつらの行先も、鍛冶屋だろうな……」
俺は誰にともなく呟いた。あの化け物クラスの連中が、わざわざこんな辺境まで足を運び、次々と装備の強化をしていこうとしている。
――やはり奴ら、何かデカい事をやろうとしているな。
残されたアダマンタイトをポーチにしまいながら、俺は深い溜息をつき、元気のない仲間たちと共に帰還の準備を始めた。
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