リリアのスリーサイズと七武神の影
黒ひげたちが去り、不気味な濃霧を抜けると、空はすっかり茜色に染まっていた。
張り詰めていた空気が緩み、メンバーの腹の虫がグゥと鳴る。
「よし、一旦船を止める。今日はここでメシにするぞ」
俺が宣言すると、ドワーフの爺さんがおまけで積んでくれていた釣り具セットを引っ張り出した。
「涼殿、こんな所で釣りでござるか?」
「ああ。釣りってのはな、朝と夕方が一番釣れるんだぜ。『夕マズメ』ってやつだ」
俺が釣り糸を垂らしていると、カインが「黙ってられないぜ! 俺が潜っていいモン獲ってきてやるよ!」と服を脱ぎ捨てて海へダイブした。
数分後、ザバーッ!と勢いよく海面から顔を出したカインは、人間の頭ほどもある巨大な異世界貝を両手いっぱいに抱えていた。
「へへっ、どうよ兄貴! 岩場にすげえ美味そうなのが群生してたぜ!」
「おっ、いいな。よし、俺に任せろ」
俺は釣り上げた白身魚と、カインが獲ってきた巨大貝を素早く捌き始めた。
「涼さん、私にも手伝わせてください!」
エリスが小走りでやってきて、手際よく料理を手伝ってくれる。
さらに意外なことに、あのクールなリリアまでが「俺は運べばいいか?」と、皿やグラスの配膳を手伝ってくれた。
キャビンに備え付けられていた魔導コンロに火を入れ、魔導冷蔵庫にあったオイルの香りを立たせる。魚の表面をこんがり焼き、貝を放り込み、魔導冷蔵庫にあったワインぽい酒をドバッと注いで蒸し焼きにする。
あっという間に、船上は食欲をそそる磯と魚の香りに包まれた。
「完成だ。涼特製、海鮮アクアパッツァだ」
「「「うおおおおっ!!」」」
魔導冷蔵庫でキンキンに冷えていたエール酒や果実水が入ったグラスを配り、全員で乾杯する。
濃厚な魚介のダシが出たスープは絶品で、カインやサスケは無言でがっつき、エリスも頬を押さえて「美味しい……!」と感動していた。
【料理メモ:異世界アクアパッツァ】
・異世界貝も普通にいける
・魚介ダシはこっちの方が旨い
だが、その宴の最中。
俺の目を盗んで魔導冷蔵庫から強い酒を引っ張り出していたレイナが、すっかり酔っ払ってリリアにウザ絡みを始めていた。
「ねー、あんた何歳なのよぉ?」
「……二十歳だ」
リリアがため息混じりに答える。
「はぁ!? ウチと二つしか違わないのに大人ぶってたの!?」
「お前が子供に見えたからな」
「レイナは子供じゃないっていってんじゃん!」
「自分の事を名前で呼ぶギャルは確実に子供だ」
真面目なエリスが仲裁に入り、レイナに注意する。
「ストップー! とりあえずレイナちゃんは今後、未成年飲酒禁止です」
女性陣がそんな言い合いで宴会が盛り上がっているうちに、俺たちの船はついに次の目的地へと到着した。
グランゼルト大陸の港町、『ポルト・マリナーズ』である。
前の大陸より古い建物が並ぶ街並みだ。
船の番はサスケに任せ、俺たちは港の近くでそこそこ良いホテルを見つけると、男三人、女三人に分かれて部屋を取った。
男部屋に入り、海風の塩や汚れを落とすため、まずはルークが先に風呂へと向かった。
部屋に残されたのは、ソファに寝転がる俺と、ソワソワしているカインの二人。
「なぁカイン。今日一日、ナビゲーションの権利が一回分残ってて、もったいないんだが」
俺が唐突に切り出すと、カインが怪訝な顔をした。
「兄貴のそのチート機械か? それがどうしたんだよ」
「お前に、リリアのスリーサイズや極秘データを銀貨一枚で教えてやろうかと思ってな」
「なっ……!?」
カインがガタッと椅子から立ち上がる。
「銀貨一枚!? た、高えよ! いくらなんでも足元見すぎだろ!」
「そうか? じゃあ銀貨二枚だ」
「なんで上がってんだよ!?」
「よし、三枚」
「あばばばっ、わかった! 二枚! 二枚で勘弁してくれ!!」
カインは慌てて銀貨を取り出し、俺の手に押し付けてきた。
俺はチャリンと銀貨を鳴らして笑う。
「まいどあり。まあ、そんなに安いとリリアに失礼だけどな」
「訳のわからねえ事言ってねえで、早く教えろよ!」
俺は天使の羽アプリをタップし、ノアにリリアのデータを抽出させた。
《リリア・ロックハート:身長165cm、体重55kg》
《スリーサイズ:B88(Eカップ) W61 H90》
「おおおっ……! あんなクールな顔して、エリスに近い位あるじゃねえか……!」
「これをついでにサービスだ」
といってプロカメラマンも真っ青のリリアの下着ショットを見せつける。
ブフッ
鼻血を垂らすカイン。
《涼さん!それは盗撮という犯罪です》
《好きなもの:バーベキュー、頼りがいがある男。 嫌いなもの:ギルガメッシュ》
《二人ともライアンにやられたらよかったのに》
《落ちますね》
「兄貴、なんかノアさん怒ってたね」
「まっまあ、たまにバグるんだよね。ハハッ ハハハ」
俺とカインが男のロマンについて熱く語り合っていると、ガチャリと風呂場のドアが開いた。
「ふぅ……いい湯でしたよ。 次はカイン、入ってきたら?」
頭にタオルを乗せたルークが上がってきたので、カインはホクホク顔のまま「おうよ!」と風呂場へ消えていった。
ルークが濡れた髪を拭きながら、俺の向かいのベッドに腰を下ろす。
「ルーク。少し、話を聞いてもいいか?」
俺が真面目なトーンで切り出すと、ルークもタオルを置いて頷いた。
「……以前、俺が渡した蒼海石のことなんだが」
「ああ。魔物使いのモンスター爺さんと呼ばれる人物に、今回依頼された蒼海石を渡せば、召喚獣をパワーアップさせる秘術を使ってくれるんです。俺のアイアンゴーレムを、ミスリルゴーレムに進化させるために……」
以前の戦いでルークのゴーレムとワイバーンはライアンの手によって完全に破壊されていた。
「ゴーレムとドラゴンは大丈夫なのか?」
「ええ。召喚獣は死んでも、約三日ほどで復活します。ですが、今の強さのままではダメなんです。もっと圧倒的な力がいる」
ベッドのシーツを握るルークの手に、グッと力が入る。
「俺も他人の事は言えないが……なぜ、そんなに強さに焦ってるんだ?」
俺が静かに問うと、ルークは重い口を開いた。
「同郷の……シュナイダー一族の、かつての友を止めるためです。 あいつは強大な力を求めて暴走し、一族を出て行った。 俺の力で、なんとしてもあいつを止めなきゃいけないんです」
悲痛なルークの決意を聞きながら、俺の脳裏に「ある記憶」がフラッシュバックした。
「……待てよ。シュナイダー?」
俺は小さく呟いた。
「どうしました?」
「以前、お前にそっくりな化け物召喚士に会った時、スカウターに『アナキン・ヴィン・シュナイダー』って名前が表示されてたんだ」
ルークがハッと息を呑む。
「……ええ。その彼が、私の止めるべき男、昔ベビードラゴンを譲ってくれた親友のアナキンです」
点と点が繋がり、俺は昼間の黒ひげの言葉を思い出した。
「黒ひげの話から推測するに……恐らく、そのアナキンって奴も、災厄の七武神の一人だろうな。あの常軌を逸したプレッシャー、間違いねえ」
「なっ……!」
ルークの顔が青ざめる。
「厄介な事に巻き込まれなきゃいいが」
俺はため息をつき、ベッドに寝転がった。
――だが、俺とルークは気付いていなかった。
地獄耳のカインが、風呂場の中から今の会話をすべて聞いてしまっていたことに。
(ルークの追ってるアナキンって……俺が涼の兄貴に告白した、ゼイン兄ちゃんを連れて行ったあの化け物の召喚士のことか……!?)
湯船に浸かっていたカインは、ガタガタと震え、両手で口を覆っていた。
(しかも兄貴の推測が正しければ、あいつは勇者ライアン率いる最強最悪の化け物集団、【災厄の七武神】の一人……!)
(ゼイン兄ちゃんが更なる強さを求めて田舎を出たの結構昔の話だが……勇者ライアンが裏で災厄級を集め始めたのは去年……。
だとすると兄ちゃんたちは最近になって二人で七武神入りしたってことか?)
(そうか!だからライアンはあの時俺の名前を訪ねてきたのか!)
カインは自分でもよくわからない感情で震えていた。
涼とカイン、ルークと運命の歯車が回り始めた。
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