涼一行、新魔導船で出港
「ルーク、リリア。お前らも俺たちと一緒に行こうぜ」
俺が声をかけると、ルークは深く頷いた。
「ええ。次の港街は方向が同じですから、こちらこそ頼みます、涼さん」
「俺も形見の甲冑を直すために鍛冶屋に行きたいからな。こっちこそよろしく頼む」
リリアも力強く頷き、俺と拳を合わせた。
「親方、色々と世話になったな。最高の船をありがとよ!」
『おう! 気をつけて行けよ、便利屋の!』
見送りに来てくれたドワーフの親方に大きく手を振り、俺たちは新たな船へと乗り込んだ。
停泊していたのは、マストが存在しない全長十メートルほどの流線型の魔導船だった。
「すげえ……! これが俺たちの新しい船か!」
カインが目を輝かせて甲板に飛び乗る。
「見事な魔導回路です。外装は無骨ですが、無駄が一切ないドワーフの傑作ですね」
ルークも操舵輪の周りにある計器類を見て感嘆の声を漏らした。
しかし、ここで一つの大きな問題が浮上した。
「……で、誰が操縦するの? 私たちの中に航海士なんていないよ?」
レイナがもっともな疑問を口にする。
船の操舵輪の周りには、魔力計や見慣れない計器がずらりと並んでいた。
「以前、小型船なら運転した事がある。それに、ノアにアドバイスを貰えばいけるだろう」
そう言うと俺はコンソールの空きスペースに、腰のポーチからスマホを取り出し『天使の羽』のマークを指でタップする。
「ノア。次の港町への方向と、この船のオートパイロットのやり方を教えてくれ」
《了解しました、涼さん。最適航路を算出しました》
ノアの画面に表示された図解と的確な短い音声指示に従い、俺が操作を終えると、操舵輪が勝手にスルスルと微調整を始めた。
「凄い……! まるで熟練の航海士が操ってるようだ。そしてその小さな機械も凄いですね」
ルークが目を丸くして驚嘆の声を上げる。新入りのリリアも信じられないものを見るように、俺のスマホを見つめていた。
「しっかり掴まってろよ! 出港だ!」
俺はスロットルレバーを一気に押し込んだ。
ズドガァァァァンッ!!
船体後部に備えられたドワーフ特製の『魔導スクリュー』が激しく水を掻き回し、凄まじい水しぶきを上げて船が急加速した。
「うおぉぉぉっ!? はええええええッ!!」
「きゃああああっ! 振り落とされるぅぅ!」
あまりのG(重力)に、カインとレイナが甲板の手すりにしがみついて驚きの声を上げる。
風と帆の力で進むのが当たり前のこの異世界で、まるで現代のモーターボートのような推進力。
ドワーフの異常な技術力と、ノアの完璧な航路計算が合わさったそのスピードと安定性は、完全に次元が違っていた。
やがて船が安定した巡航速度に入り、潮風が心地よくなった頃。
甲板では、砕かれて錆びた重甲冑を船の荷物部屋に押し込み、私服姿のリリアが海風を浴びていた。
俺は彼女の隣に並び、本題を切り出した。
「なあ、リリア。ただの同乗者としてじゃなく、これから正式に俺たちのパーティーと一緒に来ないか?」
「……この俺を誘うのか? 涼」
「ああ。お前みたいな強い奴は特に大歓迎だぜ」
俺が笑って言うと、リリアは満足げに頷き
「しばらく同行してやる」
「いいのか?」
「かっ勘違いするなよ」
「は?」
「借りを返すだけだからな。あの場で命を繋いだ礼だ」
「……なるほどな」
「それと俺の最終目的はギルガメッシュだ」
「わかってる」
――ふと、視線を少し離れた所で海を眺めていたレイナへと向けた。
「だが涼、このパーティーには子供もいるのか?」
聞こえたレイナが過敏に反応する。
「……何だとー? 誰が子供よ、この筋肉女!!」
「リリア、レイナはこう見えてもDカップあるんだぞ!?」
俺が全力でフォロー(?)を入れると、背後から殺気が膨れ上がった。
「ちょっと涼ォッ!! 何であんたがウチのサイズを知ってるのよ!!」
「ほう? 筋肉女とは大きく出たな、小娘」
「だから小娘じゃないって言ってんじゃん! 燃やされたいのか?」
「ほう、お前こそこの剣でオロされたいのか?」
顔を真っ赤にして杖を振り回すレイナと、余裕で応戦するリリア。
一気に騒がしくなった甲板で、「まあまあみんな落ち着いて」とナイスガイなルークがツッコミを入れつつ仲裁に入り、エリスは「ふふっ、皆さん仲の良い事」と的外れな微笑みを浮かべている。
操舵室の屋根の上では、サスケが『やれやれ、また涼殿が余計なことを言ってござる』とばかりに呆れたように見下ろしていた。
ちなみに、出港時に一番はしゃいでいたカインは早々に船酔いして、今は船倉でダウン中だ。
「まあ、なんだかんだ賑やかで悪くねぇか」
便利屋一味の新たな船出。
新魔導船は波を切り裂き、次なる目的地へと真っ直ぐに進んでいった。
―その進路の先に、巨大な“影”が潜んでいるとも知らずに。
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