海鳴りのダンジョン⑧ブチギレイナと復活の涼
レイナが詠唱を開始すると、ライアンの顔色が変わった。
「界律より乖離せよ――終焉を担う爆炎よ!
収束せし魔力よ、一点に極まりて、すべてを灼き穿て!
祈りも慈悲も不要なり――ただ眼前の敵を滅ぼすのみ!
傲慢なる聖光を呑み込み、その身も魂も跡形もなく焼き尽くせ!」
ピピッ、ピピピッ!
装着したスカウターが示すレイナの戦闘力が、500、600、700と異常な速度で跳ね上がっていく。
「なっ、何だとー!?」
ライアンが驚愕の声を上げ、すぐに強固な魔法障壁を何重にも展開する。
「次元の彼方まで消し飛ばせェェッ!!
【極限虚無・終焉爆炎砲】―――!!」
次の瞬間、極限まで圧縮されたレイナの直線的な極大魔法が、鼓膜を破るような轟音と共にライアンを直撃した。
ズドガァァァァァンッ!!
「ぐおおおおッー!?」
多重の魔法障壁ごと紙切れのように吹き飛ばされたライアンが、俺の真横を猛スピードで通過し、そのままギルガメッシュたちが戦っている奥の戦場まで弾き飛ばされていく。
「なっ、何だこの莫大な魔力は!? ライアン殿ッ!!」
あの常に余裕を見せていたギルガメッシュが初めて焦燥の声を上げ、その巨体を小さく屈めて強奪したイージス盾を構え、全力でブロックする。
なんとか直撃を防ぐことには成功したが、周囲の海水が一瞬で大沸騰するほどの凄まじい熱量と衝撃波が広間を荒れ狂った。その圧倒的な余波に巻き込まれた残り一体の深海死神が一瞬で蒸発する。
死の匂いを察知したガーディアンは異常な反応速度で側の岩陰に隠れ、なんとか即死を回避した。
限界の魔力を使い果たしたレイナは力尽き、冷たい岩床へと崩れ落ちた。
だが、レイナの命懸けの一撃で勇者が吹き飛び、盤面を支配していた絶対的な死のプレッシャーが遠ざかる。
(……動ける。頭が回る)
全員が茫然とする中、俺の反応は回復していた。
「ルーク! すまんがレイナを入口迄運んでくれ!」
俺はエリスの元へ走り寄り、マジックポーチから取り出したエクスポーションを、その口へ流し込んだ。
ゴクン、と喉が鳴り、エリスの顔色に急速に血の気が戻る。
「ゴホッ……涼さん……?」
エリスが微かに目を開けた。
「済まなかった、エリス。帰ったら眼鏡治してやるからな」
見ていたルークが意外だという顔で聞いてきた。
「涼さんもエクスポーションを持っていたのですね」
「当たり前だ。こんな物騒な所に手ぶらで来るかよ? エルミナで購入済みだ」
俺はレイナの口にも強引に『マナポーション』を流し込み、息を吹き返したのを確認してから、奥の海面の方へ振り向き声を張った。
「そこにいるんだろ? カイン。少しは強くなったか?」
ザバァッ!
「――バレたかー! 流石兄貴だ!」
奥から飛び出してきたのは、間違いなくカインだった。だが、纏う空気が全く違う。
「そして俺が……皆さん待望の『アサシン』様だ!!」
エリスの今際の行動は、カインへの渾身の回復呪文だった。
戦いで瀕死になるほど成長するゼクス族の特性と、エリスの持つ杖の力。そして何より、圧倒的強者であるライアンから受けた致死のダメージが限界突破の引き金となり、カインは上位職『アサシン』へと進化を果たしていたのだ。
「美人のリリアちゃん、コレ、大事なもんだろ?」
カインはニヤッと笑い、海中から拾い上げてきた大剣『ドラゴン・スレイヤー』を、呆然としているリリアへ渡した。
「ルーク……召喚獣はすまない。俺の責任だ」
俺が謝ると、ルークは痛む胸を押さえながら首を振った。
「気にしないでくれ涼さん。私が生きてさえいれば、彼らはまた復活できます」
「それを聞いて安心したぜ。だがな、奴らはまだ生きている。ここから先は俺とカインとリリアに任せてくれ。……勝算はある」
「うううっ」
ドラゴンメイルによる耐火と異常なフィジカルで勇者が何とか立ち上がる。
俺はルークの目を見た。
「従魔がいない今のお前は危険だ。弱ったエリスとレイナを、一キロ程先のサスケの所まで連れて行ってくれ」
「……引き受けました。どうかご無事で、涼さん」
「涼さん……大丈夫ですか?」
フラフラと立ち上がったエリスが不安げに聞いてくる。
「ああっ、完全復活だ。エリスのオッパイをもう一度拝む迄、死ねるかよ」
「……涼、キモッ」
「まあ、レイナのもちょっとだけ見たいけどな」
「ウチのはついでかよ!」
「冗談だ。お前のお陰でエリスを治せた。ありがとな」
「まっ、まあな」
ルークに抱えられた二人は、ダンジョン上層へと引き上げていった。
「回復できたか? リリア」
俺が問いかけると、リリアは無表情のまま、ボロボロになった重い甲冑をガチャ、ガチャと外し始めた。
ピピッ、ピピピピッ!
遠くで立ち上がったライアンのスカウターが、再び電子音を鳴らす。
リリアの戦闘力が、400、500、600……と急上昇していく。
「なっ……何っ!? アイツもか!」
重装備を全て脱ぎ捨て、身軽な下着姿になったリリアが、自らの真の武器であるドラゴン・スレイヤーを握りしめ、遠くのギルガメッシュを睨みつけて立ち上がった。
「殺る」
その圧倒的な殺気に、ライアンが忌々しげに吐き捨てる。
「8匹いた羽虫が3匹になって、我らに勝てると思っているのか?」
「ハッ、テメーらこそギャル魔法ごときで物凄いダメージ喰らってんじゃんか? 自慢の『せんとーりょく』が減ってんぞ?」
ライアンの顔が怒りで歪んだ。
その時、戦場の奥で咆哮が上がった。
深海の主であるガーディアンが、周囲の海水を極限まで圧縮し、全てを押し潰す極大の水圧魔法『深海滅壊破』をギルガメッシュへ放ち、同時にライアンへトライデントを振り下ろして襲いかかる。
「ふむ、流石は深海の主。意外なほど強力な一撃だが……お主の敗因は、この盾を吾輩に取られた事でござるよ」
バフ持ちのギルガメッシュがイージスの盾で極大魔法を受け流し、そこにトライデントを躱したライアンの『覇王光聖剣』による大技――【覇王極光斬】が炸裂した。
凄まじい閃光が広間を包み、最強のガーディアンの巨体がボロボロに崩れ、今まさに消滅しようとした――その瞬間。
カァァァンッ!!
崩れゆくガーディアンの顔面に、何かがクリーンヒットした。
「!? ……貴様、今、何を投げた?」
ライアンが信じられないものを見るような目で俺を見る。
「お前も知ってるだろ。ただの金づちだよ」
「何?」
「ただな、今の大ボスの莫大な経験値は残念だが、最後に『とどめを刺した』俺が全部頂いたぜ!」
「な、なにぃぃーーッ!?」
「途中迄なんで魔獣を倒さないのか疑問だったが、お前に会って気付いたよ。お前は強くなり過ぎて雑魚じゃ帰還率が増えなくなってきて困ってんだろ?そして焦って何かデカい事を企んでるんじゃねーかってな!」
ライアンの怒髪天を衝くような叫びが響き渡る。
「死んだぞ! 小僧ォォッ!!」
「同い年だって言ってんだろうがーッ!!」
そして、腰のポーチから切り札のスマホを引き抜いた。
「来いッ! ノアーー!!」
画面が発光し、俺の相棒の『AI』が起動する。
それを見たライアンが、今日一番の驚愕の表情で固まった。
「な、何っ!? まさか、あれは……!?」
「今頃気付いたか間抜け! お前が持ってるって事は、俺も持ってるに決まってんじゃねーか!」
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