海鳴りのダンジョン⑦勇者のチート能力Ⅱ
《ようライアン! 久しぶりのピンチだな》
「二回目を使う。今から眼前の全敵を殲滅する。最適解を急いで出せ」
《慌てるな、最速で終わらせる》
《戦闘効率最大化ルート、計算完了》
《予測生存率96.8%》
《岩場を利用して水上戦を避けろ。海水に浸ると戦闘効率20%ダウンだ》
《ギルガメッシュに『水耐性バフ』を付与し、魔獣群への盾としろ》
《ライアンの第一目標は最奥の僧侶。唯一の回復源を絶つ》
《その後、残りの人間を弱い順に3分以内で掃討》
《続く召喚獣二体を2分で処理》
《魔獣軍の弱点は雷属性につき、ギルガメッシュは『鬼徹』を『雷神剣』に装備変更》
《ガーディアンを避け、騎士を急襲し、イージス盾を強奪》
《自ら装着すると逆転し、5分で騎士と死神を二体掃討可能》
《排除後、そのままライアンと合流し、ガーディアンを二人の挟撃で終了だ》
「わかった。ギルガメッシュ聞こえたか!? まず貴様にバフをかけるぞ」
「お願い致す。指示は頭に直接聞こえたでござる。あの死霊騎士と刃を交えるのが楽しみでござる」
《ちょっと待てライアン!何だ!?あの便利屋……》
《便利屋の腰に何かあるぞ……》
《……双月出力低下、通信不可。すまん、落ちる》
「最後何だったんだ?便利屋? ヤツの戦闘力は……たったの150か、ゴミめ。所詮口だけの男よ」
ライアンがギルガメッシュに水耐性バフをかける。
ギルガメッシュは背中の魔導武器庫に『鬼徹』を収納し、『雷神剣』を取り出した。
「では、……行くぞ!」
「畏まった」
「みんな、構えろ!来るぞ!」
俺はかろうじて言葉は発したものの、震える足が他人のようだった。
雷神剣を握ったギルガメッシュが、三体の深海魔獣の元へ岩場を利用して近づく。
魔獣たちのヘイトがギルガメッシュへ向いた瞬間、ライアンが動いた。
「ハーーッ!」
岩が砕けるほどの踏み込み。
ライアンは突き出た岩場から岩場へと蹴り渡り、八艘飛びの如き爆速でこちらへ迫ってくる。
その視線の先にあるのは――エリスだった。
「速えっ!俺と同じかそれ以上だぞ!?」
勇者の異常スピードにカインが驚愕の声を上げる。
「お前たち、僧侶を守れッ!」
意識を取り戻したルークが、号令する。
その声に呼応し、パワーアップしたワイバーンが上空から巨大な顎を開き、灼熱の業火を放つ。
だが、ライアンはスピードを緩めない。
凄まじい身のこなしで炎の直撃を躱し、余波の熱線を強引に突っ切ってエリスの目前へと飛翔した。
「ドラゴンメイルを舐めるなよ!? ハーーッ!」
炎のベールを突き破り、黄金の聖光を纏った悪魔が眼前に迫る。
圧倒的な恐怖と、規格外の勇者の放つプレッシャーに縛られ、俺の足はガクガク震えて動かない。俺だけじゃない、その場にいる全員が絶望に縫い留められていた。
ライアンが冷酷な瞳でエリスを見下ろし、【覇王光聖剣】を無慈悲に振り上げる。
エリスが悲鳴すら上げられず、ギュッと目を閉じたその瞬間――。
『ゴアアアー』
すでに傷ついていたアイアンゴーレムが、主の命に従い、その巨体をエリスの盾として割り込ませた。
「ふんっ」
ズバァァァァァァァンッ!!!
凄まじい閃光と共に、鋼鉄の装甲が紙切れのように両断された。
アイアンゴーレムは聖光に呑み込まれ、そのまま消滅する。
その場にいた全員が茫然とする中、着地したライアンが冷たく言い放った。
「順番は変わったが、時間短縮できたな……まず一匹」
ライアンの無慈悲な声が響き、その聖なる凶刃がエリスへと向いた瞬間――
そこから、俺の世界の全てがスローモーションのようにゆっくりと流れて見えた。
恐怖で身体が動かない……
ああ……エリス、本当にすまない……
今からAIを起動したところで、間に合わないだろう。
情けない話だが、俺はさっきから気づいていたんだ。
必死に虚勢を張ってここまでやって来たが、俺とライアンの間には、前世の時からどうしようもない絶望的な差があることに。
MIT首席だったあの天才のことだ。今装着しているあのギアも、スマホを自分で改造した物だろう。
駄目だ……
勝てない……
俺はこの男に勝てない……
俺なんかがスーパースターの勇者に、初めから勝てる訳がなかったんだ――。
現実時間ではライアンが間に入ったワイバーンの身体を吐き出した業炎ごと真っ二つにしていた。
ルークが何かを叫んでいるが何も聞こえない。
カインも俺に何か叫びながら限界の必殺技で飛び掛かるが、エリスと二人まとめて―― 一太刀で斬り捨てられてしまった。
二人の温かい血が俺の顔に飛び散った。
「涼さん私は貴方が……」
「兄貴……後は頼んだぜ」
瞬間、呪縛が解け今頃身体が動いた。
エリスの眼鏡が飛び、地べたに倒れながらもカインへ必死に杖を伸ばし、何か語り掛けているのが見えたが、カインはそのまま崖下の海中へと落ちていってしまった。
俺は異世界に来て初めて声を上げて号泣した。
俺に向かってライアンが淡々と話す。
「四匹目、……怖くて泣いているのか?
次はお前の番だぞ、便利屋。
おまえ……もしかしてまだ、自分が死なないとでも思ってるんじゃないのか?」
「……迷ってたけど今決めたぜ
……テメーは絶対に殺す!」
目前でやられた二人を見たレイナ。
彼女の瞳が怒りと狂気で緋色に染まり、赤い涙を流しながら、莫大な呪文の詠唱を始めた。
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