海鳴りのダンジョン⑤『伝説の三番勝負』開幕!
歩みを進めるごとに、惨状は酷くなっていた。
そこら中に手足の欠損した強魔獣の躯が転がっている。
辺りには嫌な異臭が立ち込め、アイテムを漁る形跡も余裕もない異様な空間が続いていた。
レイナが顔をしかめて呟く。
「涼、なんだか気味が悪いよ……」
「私もこんなのは初めてです」
「兄貴!コリャ駄目だ。鼻を効かせるどころか、血の匂いも、武器の匂いもそこら中からしていて、もう滅茶苦茶だぜ」
無理もない。正直に言うと、俺を含め四人共ダンジョン経験自体が初めてだった。
「カイン。何か悪い胸騒ぎがする。恐らくルーク達が危ない。すまんがお前のスピードで先行してくれ。但し、俺たちが到着する迄は戦闘禁止だ。ステルス救助に徹してくれ」
「了解だ。へへ、俺を信用してくれて嬉しいぜ兄貴、先に行く」
返事をするや否や、カインは疾風の如く最深部へ消えていった。
―――同時刻、最深部大広間
「ドラゴ、急いでこのエクスポーションをリリアに!」
『了解だギャ!』
ルークの肩から飛び立ったドラゴンが、リリアの深い傷口にポーションを振りかける。淡い光と共に肉が癒えると、リリアは重い鎧を軋ませ、歯を食いしばって立ち上がった。
「二本しかない大事なポーションを、こんな所で俺に使うな……!」
『馬鹿言うな、死ぬとこだぞリリア!』
「ベビードラゴンでござるか? 珍しい。拙者の前に出てきたからには手抜きはできぬぞ?」
ギルガメッシュが、剛魔剣をゆらりと揺らして嗤う。
「お前の相手は俺だ!」
回復したリリアが、殺意を剥き出しにして睨みつける。
だが、ギルガメッシュの冷徹な笑みは崩れない。
「拙者はもう、うぬの太刀筋など見切っているでござるよ」
「リリア! 無茶だ! 一人で戦うのはやめなさい!」
ルークが叫んだ、その刹那だった。――水面を滑るようにゴーレムの死角をすり抜けた《深海死神》が、ルークの背中を無慈悲な大鎌で引き裂いた。
「ぐあああああッ!」
「大丈夫かっ!? ルーク!」
「すまん……最後のポーションを使わせてもらう……」
ルークは震える手で、自身の深くえぐれた傷にエクスポーションを浴びせる。
主の危機に気づいたゴーレムが覆い被さり、死神の二撃目を鋼の腕で弾き飛ばした。
ガギィィィン!
『ゴ……アッ!』
「リリア、無茶だ……逃げろ! 今回は諦めるんだ!」
「嫌だ! 俺は絶対に逃げない! お前こそ早く逃げろ!」
「拙者の前でよそ見は無しでござるよ?」
『危ない! リリア!』
ベビードラゴンが上空から、ギルガメッシュに向けて灼熱の炎を吐く。だが、百戦錬磨の凶刃は止まらない。ギルガメッシュは、降り注ぐ炎を剛魔剣で真っ二つに切り裂きながら、リリアの眼前へと迫った。
「ゴレムン! 私をリリアの元に飛ばせーー!!」
『ゴアーーー!』
ゴーレムがルークの身体を投げ飛ばす。
ガギィィィイン!!
足場を奪う激流の中、リリアはギルガメッシュの剛魔剣の一撃目を必死に大剣で受け止めた。だが、それが彼女の精一杯だった。
「同じパターン。お主では拙者に勝てぬでござるよ」
冷酷な宣告と共に、左手妖刀の二撃目が、無防備なリリアの脇腹を襲った。
ズバッー!
生々しい肉の裂ける音。
「ぐああっ……」
「なぬ!?」
二人の間に飛び込んだルークの背中が、妖刀によって再び深く斬り裂かれていた。
致命的な深傷から大量の血が溢れ出し、広間の水面を赤く染め上げていく。
かろうじて岩の上に凭れかかり、命の灯火を減らしていくルーク。
その惨状に、リリアの悲痛な叫びが木霊した。
「イヤーーー!ルークーーー!!」
「にっ、逃げるんだ……リリア……」
「あっ、あああ。そんな……」
崩れ落ちるルークの姿。すべてを賭して自分を庇ったルークの姿を涙溢れる瞳に写しながら、自身のあまりの無力さに、リリアの戦意は完全に喪失した。
膝から崩れ落ち、水の中に座り込む。彼女の命とも言える大剣は、主の手を離れ、海流の勢いに呑まれて暗い水底へと流されていった。
ゴーレムは主がやられた事に気付くこともできず、アビス・リーパーとの死闘を続けている。
そこへ、遠くからライアンの無関心な声が響いた。
「おーい、ひとまず雑魚は殲滅したぞー。そっちはどうだー」
「おー、ライアン殿ー、あと二、三分というところでござるよー」
「しょうがない、次は中ボス退治か。貴様の大好物の騎士を貰うぞー」
「残念でござるよ」
『あっ、ああ、ルーク……ルークーーー!!』
涙を潤ませながら、ベビードラゴンが発狂した。
同時に、その小さな身体が爆発的な光に包まれる。
四肢が伸び、硬質な鱗が全身を覆い尽くし、広間を圧するほどの巨大な翼と凶悪な牙を持つ魔獣――【ワイバーン】へと劇的な変化を遂げた。
「……ほう、化けたか」
ワイバーンは血まみれのルークを足で掴み上げると、大広間入り口の小山へと安全に運んだ。
『次はリリアだ。ゴレムン、リリアを守れーー!!』
だが、ワイバーンが振り返って見たのは、無情にも水の中に虚ろに佇んでいるだけのリリアの首を、ギルガメッシュの妖刀が刎ねようとした瞬間だった。
『間に合わないっ!』
ガギィィィン!!
甲高い金属音が弾け、黒紫の火花が激しく散る。
「なぬ!?」
ギルガメッシュの目が驚愕に見開かれた。
「カイン参上!」
「拙者の刀を受けきるとは……。しかも、【鬼徹】が震え出したでござるよ」
「お前も妖刀持ちか。しかも二刀流同士。じゃあ勝負……あ!戦闘禁止のステルス救助だった。失敬!」
カインは悪びれる様子もなく肩をすくめると、呆然とする重装備のリリアをなんとか担ぎ上げ、入口まで運んでみせた。
そして――そこに、涼一行がようやく到着した。
ドガンッ!!
重厚な扉を蹴り飛ばして踏み込んだ先は――天井壁からの蒼い光が不気味に水面に乱反射する、床一面海水に覆われた大広間だった。
俺は全体を震わせる声で叫んだ。
「便利屋の涼、見参っ! 勇者ライアンってのはどいつだー!!」
ここから、更に苛烈を極める四つ巴の戦いが幕を開ける。
各々が命を賭けた死闘――。
そしてこれは、後に勇者ライアンと便利屋・涼による『伝説の三番勝負』と語り継がれる、第一ラウンドの始まりでもあった。
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