召喚士と重戦士、そして光の勇者
翌朝。宿の一階にある食堂は、焼きたてのパンと香ばしい肉の匂いに包まれていた。
「うぅ……頭が割れそう……」
「もう、レイナちゃんたら。初めてなのにあんな強いカクテルを三杯も飲むからだよ」
テーブルに突っ伏して呻くレイナの背中を、エリスが苦笑しながらさすっている。
カインはといえば、「Bランクにも成れば任務遂行の妨げになる飲み方はしない……」などとブツブツ言いながら、ゆっくりとスープを飲んでいた。
俺は早々に朝食を平らげると、スマホの天使羽アイコンをタップした。
「ノア、今日のナビを一回消費する。他の大陸へ向かうための最適解を導き出してくれ」
《了解しました、涼さん》
脳内にノアの透き通った声が響く。
《まず、サスケさんを利用しての空路輸送は非推奨です。はるか遠方大陸に行くには積載重量によるスタミナ枯渇、及び海上上空での飛行型魔物による被撃墜リスクがパーティーの生存確率を大幅に下げます》
(やっぱそうか……燃費悪いし、墜落したら全員海の藻屑だもんな)
《さらに警告します。現在涼さんが滞在しているこの大陸は、平均魔物レベルが『10未満』の比較的安全なエリアです。しかし、海を越えた先にある他の大陸は全て、平均レベル『10以上』の危険地帯へと跳ね上がります》
(なるほどね。前世の時のRPGでも無理して遠方に行って全滅したっけなぁ)
《海を渡るなら、黒ひげ推薦の船屋で出来るだけ良い船を手に入れて下さい》
(ノアの言うとおりだ。生半可な船じゃ魔獣や海賊共に沈められるだろう)
食事を終えた俺たちは、街の外で待機していたサスケと合流した。
「サスケ、これ朝食のパンだ。それと悪いが上空からの偵察を頼む。ノアの情報によれば、東の入り江にある『座礁船の墓場』に怪しい生体反応があるらしい」
「承知した、涼殿。拙者の眼は以前にも増してパワーアップしている」
大きくなった翼を拡げ、上空へと羽ばたいていった。
すると、十分もしないうちに見つけて俺たちの所へ戻ってきた。
皆で向かうと、無数の廃船が山のように積み重なった、文字通りの『船の墓場』だった。
「涼さん……ここに本当に人が住んでいるんですか?」
エリスが不安そうに周囲を見渡す。普通に見ればただの巨大なゴミの山だ。
だが、俺は一番巨大なガレオン船の残骸に近づき、錆びついた鉄扉を力強くノックした。
「黒髭の紹介で来た。海を渡る船が欲しい」
ギギギ、と重い音を立てて扉が開く。
中から現れたのは、油と煤にまみれた小柄なドワーフの爺さんだった。
だが、その奥に見えた空間に俺は目を奪われた。外見のボロさとは裏腹に、内部は最新の魔導機材が並ぶ、巨大な秘密ドックになっていたのだ。
「……黒髭の紹介か。フン、人間風情が気安く来るところじゃねえぞ」
爺さんは俺たちを値踏みするようにギロリと睨んだ。
「高価な舟なんだろ?俺は便利屋だ。黒髭は依頼を叶えろと言っていた」
俺が言うと、爺さんは鼻で笑った。
「確かに金じゃ俺の船は売らねえ。俺の最高傑作『十人乗りの魔導船』がどうしても欲しけりゃ、条件が二つある」
爺さんは油まみれの指を二本立てた。
「一つ。最近、この港の沖合に棲みついた『クラーケン』を討伐することだ。あいつがいるせいで、せっかくの船もテスト航海すらままならねえ」
そうかと言い、俺はほくそ笑むのを必死に我慢する。
「二つ目は、近くの『海鳴りのダンジョン』の最深部に行って、動力コアになる【蒼海石】を二つ取ってくることだ。あれは海流を操る石。あれがあれば、多少の危険な海域でも強引に突破できるしスピードも上がる。一つはお前の乗る舟に。もう一つは俺の船用に頂く」
「その条件で変更は無いな?」
「無い。正直に言うが、クラーケンは最低Aランク以上じゃないと倒せないのと、【蒼海石】一つで船一隻分以上の価値があるのさ」
「思ったより出港が早まりそうだから、早めに俺たちのものになる船の準備を頼む」
「何?何故じゃ?」
「クラーケンは昨日俺、便利屋の涼が討伐済みだ!」
嘘をつく時はなるべくエリスから離れるクセがいつの間にかついていた。
「なっ、何だとー!? お前そんなに強いのか? 見かけによらずAランクなのか?」
「とっ、とりあえず俺たちはすぐ二つ目の依頼攻略に出発する」
ドワーフの爺さんを煙に巻き、俺たちは一度街へ戻ることにした。
本格的なダンジョン探索となれば、消耗品の補充などの準備も必要だ。それに、出発前にもう一つ確認しておきたいことがあった。
昨日から気になっている、あのAランクの女重戦士の件だ。
冒険者ギルドに足を踏み入れると、昼前ということもあって人はまばらだった。
俺は一直線に掲示板へ向かい、最新の情報を探る。
「……ん?」
掲示板に貼り出された最新の出立記録を見て、俺は目を疑った。Bランクの欄に、探していた名前があったのだ。
【ルーク・フォン・シュナイダー(男)】
【ジョブ:召喚士、ランク:B】
「マジかよ。あいつ、いつの間にこの街に来てたんだ?」
さらに記録を追って、俺は二度驚いた。ルークの名前の隣には、連名でもう一人の名前が記されていたのだ。
【リリア・ロックハート(女)】
【ジョブ:重戦士、ランク:A】
行き先の欄には、ご丁寧に『海鳴りのダンジョン』と書かれている。
(ルークの奴、あんなゴツい装備の女と組んだのか。……まあいい。二人共に探す手間が省けた上に、先行してダンジョン攻略の露払いまでしてくれるなら好都合だ)
ルークたちを探しつつ、蒼海石を回収する。一石二鳥の完璧なスケジュールだ。
だが――俺の余裕は、そのすぐ横に掲示された『特別通達』の羊皮紙を見た瞬間に消し飛んだ。
ギルドマスターの印章が押されたその紙には、『海鳴りのダンジョン』へ向かったもう一つのパーティーのリーダー名が、これ見よがしに記されていた。
【ライアン・タケル・アームストロング(男)】
【ジョブ:勇者、ランク:S】
「……は?」
無意識のうちに、間抜けな声が漏れた。
間違いない。俺より一年早くこの世界に転移したスーパースターのライバルだ。
(何故こんなレベルの低い辺境の大陸に、勇者ライアンが直々にお出ましなんだ?)
疑問が渦巻くが、理由はなんだっていい。
俺の身体の奥底から、武者震いのような何とも言えない震えが込み上げてきた。
恐怖じゃない。圧倒的な格上の存在を前にして、俺が便利屋で培った感と経験が、超高速で「利用価値」と「逆転のシナリオ」を計算し始めたからだ。
「蒼海石、ルークとリリア……そして、先行するスター勇者、ね」
役者は揃った。これだけのメンツが同じダンジョンに集まるなら、一波乱も二波乱も起きる事だろう。
俺たち一行は初めてギルド依頼に登録した。
(俺が盤面をひっくり返す。そして、あいつの努力を全部横取りしてやる)
「行くぞ、お前ら。必ず俺たちが勝つ!」
俺は振り返り、事情が分からず首を傾げる仲間たちを連れて、必要な物を補充すると、足早にギルドを後にした。
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